大人になれない私たちは、同じ屋根の下で違う夢を見る
八星 こはく
第1話 眩しい子
年をとればほとんどの人は、子供の頃の夢なんて忘れてしまう。
たいていの人間には才能なんてものはないし、忘れてしまった方が、楽に現実を生きられるから。
そしてたぶんそれが、大人になるってこと。
だけどみんながみんな、上手く大人になれるわけじゃない。
私は彼女に出会って、大人になれない自分を受け入れることができた。
彼女の眩しさが、心の底に沈めていたはずの夢をまた照らしてくれた。
これは、臆病だった私が、彼女に出会って変わる物語。
素直になれなかった彼女が、私に出会って変わる物語。
私たちの、愛おしい日々の記録だ。
◆
「……これ、買うんじゃなかったかも」
文句を言ったって、買ったばかりのポテトは消えてくれない。塩味が薄すぎるポテトを、私は半ば強引に口の中へ突っ込んだ。
腹が減っていたとはいえ、素人が屋台で販売している食べ物を買うべきではなかった。
溜息を吐いて、改めて周囲を見回す。年に一度の文化祭というだけあって、学内は賑やかだ。普段は見ないようなチャラついた人たちは、きっと他校の学生だろう。
私が通う二ツ
それなのに今日は道のあちこちにポイ捨てされたごみがあるし、うるさいし、最悪だ。
去年、私は文化祭にこなかった。今年はなんとなくきてみたけれど、既に後悔している。文化祭なんてものを楽しめるのは、サークル活動を満喫している陽キャだけだって、分かっていたはずなのに。
もう帰ろう。これ以上ここにいたって、いいことなんてないし。
そう思い、校門へ足を向けた、その瞬間。
「みなさーん! 盛り上がってますかー!?」
マイク越しの大きな声が周囲に響き渡り、私は反射的に振り向いた。
文化祭用に設置されたステージの上に、セーラー服風の衣装をまとった女の子たちが立っている。
なにあれ。アイドル? サークル?
「私たち、二ツ橋大学、アイドル同好会でーす!」
中央に立つリーダーらしき子がそう叫ぶと、ステージ前列にいる客がおおー! と野太い歓声を上げた。
ペンライトを持って熱狂している客たちの様子は、まるで本当のライブみたいだ。
熱気に吸い寄せられるみたいに、ゆっくりとステージに近づく。近くで見ると、衣装の作りや見た目の雰囲気で、なんとなく本物のアイドルじゃないことは分かった。
けれど客の熱気は本物だ。メンバーカラーらしき色に灯したペンライトを振り回し、女の子の名前を口々に叫んでいる。
注意深くステージ上の子たちを見ると、何人かには見覚えがあった。友達というわけではないけれど、中国語の授業で一緒だった気がする。
やっぱり、普通の大学生だよね。
なのにこんな、オタクみたいな客がくるんだ。
「私たちのステージ、楽しんでいってくださいね!」
曲が流れ、女の子たちが踊り出す。どうやら歌は音源をそのまま流し、ダンスだけを披露するスタイルらしい。
プロほど揃っているわけではなく、明らかに数名、ダンスが苦手なんだろうなと思う子もいる。
でもみんな、楽しそうだ。
スポットライトや衣装のおかげだろうか。それとも、ステージに立っているからだろうか。
女の子たちはみんな、きらきらと輝いて見える。
「……あ」
一人の女の子と目が合った。
たぶん、気のせいじゃない。その子は明らかに私を見ていたし、ダンスをしながら、ばきゅん、と撃つようなポーズをしてくれたから。
ツインテールがよく似合う、ダンスがキレキレの女の子。細身で色白で、遠目で見ても顔が可愛いことが分かる。
どうしてだろう。あの子から目が離せない。
他の子だってみんなきらきらと輝いて見える。だけどあの子だけは、そうじゃない。
見えるんじゃなくて、輝いてる。
ステージの上で、あの子だけが異様に眩しい。
気づけば、彼女たちのステージは終わっていた。目が合ってからは、ツインテールの子以外を見ることなんてできなかった。
「皆さん、ありがとうございました! この後はチェキ撮影ができるので、よかったら、私たちとチェキを撮りにきてくださいね!」
オタクたちが歓声を上げ、女の子たちが嬉しそうに笑う。
訳が分からないまま、私もチェキ会の場所へ向かっていた。
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