4 転校生たち②
さくらの前でどんな顔をすればいいのかよく分からない。
それにあの北斗まで転校してきたから、状況がだんだんややこしくなっている。中学生の頃なら明るい顔で挨拶をしたかもしれないけど、二人の浮気に気づいてしまった今はそうできない。そのまま廊下でぼーっとしていた。
落ち着け、冷静を取り戻せ! 星七。
普通を演じるんだ。
今の俺には証拠がないから、それについてどれだけ考えても無駄だ。それくらいちゃんと知ってるんだろ? お前は。
「さくら〜」
「あっ! 星七! ジュース飲み過ぎ〜」
「ええ。でも、テンションを上げる時はやっぱりコーラだよな。ふふっ」
「よっ! 星七」
「久しぶりだな、北斗。元気だったか」
「おう、お前もイキイキしてるな」
そう言いながらさりげなく俺の肩を叩く北斗。
そしてこいつもさくらと同じく何もなかったように笑みを浮かべている。その事実を知らなかったら、きっと今より明るい顔をしたかもしれない。苦しい。仲良く話している二人を見て、俺はどうすればいいのか分からなかった。
そのままじっと二人の方を見つめる。それだけ。
それだけだった。
「そうだ。最近、どう過ごしてた? 連絡が全然なかったから死んだのかと思った」
「まあ、普通だった。彼女とちょっと口喧嘩をしたけど、それ以外はいつもと同じだから」
「そうなんだ。彼女なら……もしかして」
「そう、花美ちゃん!」
「そうか。そういえば、瑠璃川さんも今日転校してきたけど。知ってる?」
「そうそう、花美ちゃんも来たよな。これから会いに行くつもりだけど、何組か知ってる? 星七」
「二組、俺と同じクラスだ」
「へえ、そうなんだ。ありがと〜」
その時、俺の手を握るさくら。
そして気のせいかもしれないけど、なぜか機嫌悪そうに見える。さっきまでニヤニヤしていたはずなのに、いきなりどうしたんだろう。不満がある時はあんな風にじっとするからよく分からない俺だった。
そのままさくらと手を繋ぐだけ、北斗がいるからそれを聞くのは無理だった。
「相変わらずラブラブだな、二人は。あははっ」
「まあ、俺たちはいつもこうだからさ。そんなことより、ここにいてもいいのか? 瑠璃川さんが待ってるかもしれないぞ」
「ああ、そうだな」
その時、廊下から蓮の声が聞こえてきた。
それにめっちゃ急いでいたような……、どうしたんだろう。
「おい! 星七! 早く来てくれ!」
「どうした? 蓮」
「転校生が……! 今混乱している。世話役の星七がなんとかしてくれよ!」
「はあ?」
どういうことなのかそれを聞く暇もなく俺は急いで蓮とうちのクラスに向かった。
すると、クラスメイトたちに囲まれている瑠璃川がすごく困っている顔をしてこっちを見ていた。予想はしていたけど、やっぱりこれか。まあ、瑠璃川は小学生の頃からずっと可愛いって言われたから、都会にきてもそれは変わらないよな。
てか、めっちゃ声かけられてるし……。
美波さんならその場ですぐ「失せろ」って言うけど、瑠璃川はそうできないから困るよな。
「…………」
大人しくて可愛くて、それにちょっと消極的なところが男たちの保護本能をくすぐるから小学生の頃からずっとモテる女の子だった。その魅力を男たちはちゃんと知っているからさ。そしてそんな瑠璃川を放置するとすぐこうなってしまう。
いわゆる、狙われやすい女の子……。
腰まで届く長くて綺麗な黒髪。
透き通るような白い肌、長いまつ毛に覆われた大きい瞳。すべてが完璧。
小学生の頃から瑠璃川は女の子たちの憧れってクラスの女子たちに言われたことがある。それほど可愛くてすごい女の子だった。そんな瑠璃川が今北斗と付き合っているけど、どうやって付き合ったのかよく分からない。みんな〇〇中学校の七不思議って言ってたよな。
「星七……? 世話役は……?」
そのまま廊下でぼーっとしていたら、先生に一言言われた。
「は、はい……」
仕方がなく、瑠璃川のところに行った。
てか、声をかけないと……いけないよな。何を考えているんだろう、俺は……。
「瑠璃川さん、行きましょう。学校……、案内してあげますから」
「ナ、ナナくん!」
「…………い、行きましょう」
「う、うん!」
ナナくんって、懐かしいな。
美波さんのおもちゃくんみたいに、ナナくんは瑠璃川の口癖だった。
幼い頃からずっとあんな風に呼ばれていたけど、まさか高校生になった今もそんな風に呼ぶなんて。しかも、俺の方から距離を取ったのに……。今更そんなことを考えても意味ないから、クラスメイトたちに囲まれている瑠璃川を教室から連れ出した。
そのまま人けのないところに連れて行く。
そしてこの後……、クラスメイトたちにちゃんと説明してあげないとな。俺とさくらが付き合っているのはみんなが知っているから、いきなり他の女の子の手首を掴むと変な噂が流れるかもしれない。そういう話に敏感な年だから……。
本当に……、面倒臭いな。
「ナ、ナナくん……」
「はい……」
「わ、私……!」
「学校……、の案内をしますから。うちの学校……、意外と複雑ですし」
「…………」
そして俺の手首を掴む瑠璃川が震えている声でこう話した。
「ねえ! は、話がしたい。私のこと避けないで……」
でも、俺は瑠璃川の話を聞きたくなかった。
あんな悲しそうな顔で俺を見ても、俺にできることは何もないから。
それに北斗の彼女だろ? 瑠璃川は。
「瑠璃川さん」
「……うん」
「瑠璃川さんはあの時も今も可愛い女の子です。クラスメイトたちが寄ってきたのはそんな瑠璃川さんに惚れたからだと思います。だから、二人きりになるのは今だけです。俺にも瑠璃川さんにも恋人がいますから……」
「…………」
北斗がどんな人なのか俺は瑠璃川に言えなかった。
証拠がないから、今は我慢することにした。
でも、どうしてそんな目で俺を見ているのかよく分からない。ちゃんと説明してあげたのにな。
「私! そんなの気にしないから……!」
そして階段を上ろうとした時、後ろから声を上げる瑠璃川にびくっとする。
あの瑠璃川が声を上げるなんて……。
「そ、そうですか」
いきなりすぎて適当に答えてしまったたけど、気にしないのか。
そのままじっと俺の方を見ている瑠璃川に、俺は何を言ってあげればいいのか分からなかった。
ただ、階段を上るだけ。
「ナナくんは……、まだ付き合ってるの? あの子と」
「ああ、さくらのことですか? はい。ここに転校してくる前に別れましたけど、さくらがうちの学校に転校してきて再び付き合うことになりました」
「さくら……って呼ぶんだ」
すぐそばで何か言ってた気がするけど、声が小さくてよく聞こえなかった。
それにしても瑠璃川と二人きりで歩くのは何年ぶりだろう……、中学二年生の頃からずっと距離を置いていたからさ。
まさか、こんな風に会うなんて。
「ねえ、学校が終わった後……、予定あるの?」
「はい。あります」
「そうなんだ……。じゃあ、あ、明日は?」
「明日もあります」
「今週の週末……!」
「あります」
「…………」
学校を案内している間にずっと俺に声をかけたけど、俺はその話に適当に答えた。
瑠璃川さんが何を言っても俺はそうするしかない。
瑠璃川は俺の親友、北斗の彼女だから———。そして浮気のことは気にしないことにした。
「あっ! 二人ともここにいたのか? ずっと探してたぞ。花美ちゃん、会いたかったよ!」
「北斗」
「…………」
「花美ちゃん〜!」
一階に戻ってきた時、北斗が俺たちに手を振っていた。
そして後ろから俺のシャツを掴む瑠璃川に何もせずその場でじっとしていた。いきなりどうしたんだろう、分からない。
そのまま静寂が流れる。
「おいおい、声が大きんだよ。北斗」
「あはははっ、そうか? ごめんごめん。早く花美ちゃんに会いたくて、星七のクラスに行ってみたけど、学校を案内してるって言われてさ」
「そっか、先生に世話役を任されて仕方がなかった」
「あはははっ、そういうことなら俺に任せてもいいのに」
「だな。でも、北斗も今日転校してきただろ?」
「あはははっ、それもそうだな。ありがと、星七」
「…………」
「こっち来て! 花美ちゃん」
すると、俺の後ろにいた瑠璃川が北斗の方に歩いていく。
そのまま手を繋いだ。
「可愛い〜。会いたかったよ、花美ちゃん。花美ちゃんは?」
「わ、私も……」
「ラブラブだな、二人とも……」
「ふふっ。あ、そうだ! 星七。放課後、時間あるのか?」
「いや、バイトがあるから無理だ」
「そっか、分かった! そろそろ教室に戻ろうか、花美ちゃん。送ってあげるから」
「う、うん……」
その後ろ姿を見て、俺はしばらくその場でじっとしていた。
そして北斗が何を考えているのか、分からなくなってきた。
「…………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます