第9話
それから私も高校を四年で(定時制高校は四年での卒業が基本だ)卒業し、専門学校に入った。私が一種の悪癖とも言うべき小説執筆を始めたのが高校四年生の頃で、専門学校のスケジューリングは苛烈で勉強三昧の日々を送ったが、その中で幾つかの出来事があった。
まず、小説創作を続けられたこと。自分が創作者になれるか否かはともかく、小説を何らかの形で書いていきたいと願いながら、私は専門学校在籍時点で二足の草鞋を履く夢を見ていた。もっともこれは失敗に終わる。
次に、人生初の彼女ができたこと。もっとも遠距離恋愛で、それも相手は道民だったので私は高速バスで会いに行くような状態だった。……本当に今思えば失礼な話だが、私はその時、幾度となく初恋相手の夢を見ていた。あまりにも夢に出るので、小説に落とし込んだぐらいだった。
私がその相手と"そういうこと"をする時に、私も必死で、相手も必死だったが……一連の行為を終えた後、私の脳裏に浮かんだのはその相手への恋情でもなければ、一仕事終えた後に生じる感慨でもなく――初恋相手の顔だった。当時既に初恋相手と最後に会って少なくとも六、七年は経過していたはずなのに、その時に脳裏に浮かんだ初恋相手の風貌は今よりもずっとくっきりとしていたような気がしている。
当時既に、熱心な三島由紀夫読者となっていた私は一連の出来事から彼の『金閣寺』の中身を思い出していた。主人公・溝口は行為に至る瞬間、目の前に金閣の幻影が立ち現れ、行為は失敗に終わる。――
当時の、専門学校生だった自分に対してさえも私は叱責したい気持ちばかりが出てきてならないが、最大の問題は、それほどに強い幻影を抱きながら、最後には相手を傷つけたというその学ばなさであった。自分自身の人生の傷の多さについて述べるが、やはりそれ以上に私は人々に傷を与えてきたのだろうとも思うし、それでも人生を終えるわけにはいかないという直感を抱いて生きている今の自分自身のある種の愚かさについても、よくよく自覚できているのだ、と信じたい。
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