ep.47 真相
ドアノッカーを3回ならし、自分の名前を言う。
「帰ってなかったんだ、おはよ〜、ふたりとも!」
ドアを開け、元気にそう言ったのはジェリカだ。
おはようと返して、早速本題に移った。
「クレイザのことで聞きたいんだけど……」
俺が言うと、ジェリカは一瞬戸惑ったような顔をしたが、なら家の中でと俺たちを招き入れてくれた。
△▼△
ジェリカは花の香りがする紅茶を入れてくれた。
部屋の家具はアンティーク調の木を生かしたもので統一されていて、あの時夢で見た部屋とは全くの別物だった。
「クレイザくんはもともと、この村の住人なんだ。それもとってもいい人だった」
「あんな変態野郎がいい人ですか?」
トルビーが怪訝そうな顔をして返す。確かにそうは思えない。
「元はあんな人じゃない。というかあれはクレイザくんじゃない。だって……」
もったいぶるジェリカ。
「だって、あの人だって目が赤かったでしょ……?」
ええっと、クレイザの見た目はどんなだったっけ……
服装が派手だった印象が強くて他が曖昧だ。
目の色、目の色……
「「そういえばっ!」」
俺とトルビーの声が重なった。
思考回路まで同じなのか俺たちは……
そんなことを思っているとジェリカが悲しげに言った。
「クレイザくんはね、お父さんに好きなようにされてたんだよ」
「お父さん?」
俺が聞き返すとトルビーがあっ!と声を上げた。
「そうだ、あの"
「そうでしょ?クリスタルの中には私とクレイザくんの精神が閉じ込められてた」
クレイザの精神が閉じ込められていたというのは要するに、あれはクレイザではなく……
「あいつの中身はジスタ・ミーってことだね?」
そうそう、と頷くジェリカ。
誰だ?ジスタ・ミーって。
てか中身ってどういうことだ?
「夜中に目が覚めて、クレイザくんが心配になって、クリスタルを見に行ったら、砕けてたはずが元に戻ってたの。でもクレイザくんは中にはいなかった」
「クリスタルが割れた時に一緒に崩壊しちゃったかな……」
「それも考えたけど、クリスタルにクレイザくんの痕跡がゼロだったの。だから……」
俺とトルビーは生唾を呑んでジェリカの言葉に集中する。
……ちなみに俺は「中身」も「崩壊」も「痕跡」もなんのことだかさっぱりだ。
雰囲気合わせるのって大事じゃん?
ジェリカはそうとは知らず真剣な顔をしている。もとより俺も真剣だが。
「トルビーくん。君が魔界に帰したクレイザくんの中にはクレイザくんがいた。そしてジスタは彼の体から逃げた」
「それなら……あいつは今どこだと思う?」
トルビーもまた真剣な顔をして聞く。
「中央、キラハだよ。あいつは警備隊長の首をずぅっと狙ってる」
ということは……?
「まさかあの突然死した人のなかに……!ねぇ、ライム、今日って葬儀の日だよね?」
……トルビーに気付かされた。
「まさか警備隊長が?!」
過程はさっぱりだが、結果はわかった。
ジスタとやらが、警備隊長の命を狙っている。
ごめんジェリカさん、と言って紅茶をグビっと飲み干したトルビーはカチャンとソーサーにカップを置いて部屋を出た。
俺もそれに続く。
ジェリカはくれぐれも気をつけてと言って送り出してくれた。
△▼△
村を出かかったその時、「止まれ」と声がして、トルビーが足を止めた。
いつの間にか、俺たちの周りを甲冑を身にまとい、剣を持った人たち、恐らく警備隊員であろう人達に囲まれていた。
彼らはこちらに剣の切っ先を向けている。
「そこの魔族よ、その人間を解放し、降伏しなさい。さもなくばお前の命を奪う!」
そう怒鳴ったのは、ルベラだった。
「え、ルベラ?」
「え、ライム?」
お互いに困惑し、ルベラは先程までの威勢の良さを無くしている。
ルベラは警備隊員だ。
魔対の本部長に聞いた話だが、高等部3年にして、まあまあな重役についているらしい。
警備隊の重役は葬儀に参加していて今日はテンペアーの調査は来ないという、グルセルの予想が外れたようだ。
「え〜と、ライムから話は伺ってます。トルビーです。その、僕たち両方ヒト族なんですけど……」
気まずそうに……いや、バツが悪そうに言ったトルビーに、ルベラはでも、と言って続ける。
「キミ達から魔族の魔力を感じるわ。でもライムは確実に魔族ではない。それならばトルビー、キミが魔族なんでしょう?そんなに言うなら鑑定を……」
「あの!」
やばいと思ってルベラの話に割って入ったが、何かいい言い訳は……
あっ!
「俺の魔力、魔族と似てるらしいんだ。俺のと混同したんじゃないかな……」
ワンチャン騙されろっ!
すると、ルベラの後ろにいた隊員が何やら彼女に耳打ちした。
「そうみたいね。これは失礼したわ......というか、キミ達双子なの?」
「「はい?」」
いや急に突拍子もないことを.....
「どう考えても似てないでしょ」
呆れたように言うトルビーにルベラは顔を赤くした。
後ろの隊員がオロオロしながら「あまりにも魔力が似てたので...... すみません」とルベラに弁明していた。
「……あ、急いでるんで失礼します!……てか一緒に来てください!」
トルビーがそう言った。
そういえば警備隊長の命が危ないんだった!
俺たちは、困惑しているルベラ含め警備隊員たちを引き連れて中央、キラハの葬儀会場へ急いだ。
引き連れてと言っても、警備隊員の早馬に相乗りさせてもらっているが。
道中、トルビーがお得意の言いくるめでルベラたちに変に疑われることなく状況を説明し、会場についた。
中では葬儀が粛々とした雰囲気で取り進められていた。
警備局の重役のみが参列しているのだろう。人数は十数人程度でそこまで多くなかった。
ルベラと共に、こっそりと献花の列の最後尾に並んで様子を見る。
参列者が1人ずつ被害者に花を手向けている。
その中に、見覚えのある人物がいた。
「……クレイザ?」
そう俺がひとりごとを言った途端、彼は花を地面に落とし、棺に横たわっている人物の首を絞めた。
気付いた隊員が止めに入った時には、その棺の中にいたはずの人物は消えていた。
会場が少しざわめいたのと同時に、クレイザと思われる人物の真後ろに、クレイザと似たツノを持つ人物が現れた。
「かわいい息子よ、どうしてそうやってボクちんの邪魔をするのぉ?」
つい一昨日まで相対していたやつと同じような口調で言ったそいつの言葉に、食い気味に答えたのはやはりクレイザだった。
「息子と呼ぶな!ジスタ、お前はオレの父親じゃないっ!」
クレイザはそう言いながらジスタと距離を取った。そしてジスタに腕を向け、今にも攻撃をしそうである。
そんなヒリついた空気の中で、"障壁"が割れる音がした。
「ルコール隊長!」
そう言ったルベラの視線の先にいたのは、左肩に穴があき、血をダラダラと流して座り込んでいるルコール先生だった。
……え、ルコール先生?
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