ep.24 付与士

「用というのは……」


 ライムたちが見えなくなってからリンさんが聞いてくる。


「これを直してほしくて」

 私、ラズリスはさっきの魔倍石のように砕けた魔石をリンさんに渡した。


「"収納"の術式が込められていたものですね。足りない部分もありそうですが……」

 そう言いながらルーペでよく欠片を観察するリンさん。


 すごいな。リンさん。

 サップ……リンさんのお兄ちゃんがお手上げだった魔石の術式を一瞬で見抜いた。

 

「やっぱり、直すのは難しいですか?」

「父なら直せると思います。きっと、大切なものなんですよね。割れてしまっているけれど、とっても綺麗です。大事にされていたんですね。明日までにはきっと直しますので、取りに来てください」

「ありがとうございます!あ、それと……」


 私は手に持っていたほうきを渡した。

「これ、鑑定してもらえますか?」


「ほうき……あ、"付与"されてる。これって"飛行"ですか?」

 一瞬で"付与"の内容を言い当てるなんてやっぱりさすがだなと思いつつ本題に入る。


「そう……だと思うんですけど。ライムが付与してくれて。ライム、初めて"付与"したらしくて……使いたいので安全か知りたいんです」

 ちょっと待ってください、と言ってリンさんは付与術式の書かれた場所に手を添え、目をつぶるとなにか魔法を唱えた。

「"ミミスィ"」



 数十秒の間、リンさんは目をつぶっていた。そして、だんだんと顔が青ざめていった。


「……なんですかこれっ?!死ぬかと思った……」

「へ……?」

 困惑顔の私にリンさんは説明を始めた。



 "想定実験ミミスィ"


 仮想空間で付与された術式を動作させる魔法。


 

 付与の動作確認をすることができる。リンさんの個性魔法らしい。

 アンバー家は個性魔法が魔道具を扱うのに役立つものになりやすい家系で、生まれつき"鑑定"という、道具や人、動物のポテンシャルを数値化して見れる魔法を習得しているらしい。


 リンさんがこの"想定実験"を使い、私のほうきの動作確認をしたところ予想外の動きをしたそうだ。


「魔力を込めても反応しないので対象付与……ラズリスさんの魔力のみに反応する付与かと思ったんですけど、魔力の出力を上げ続けたら空を飛んだんです。方向転換や速度調整にも一般的な"飛行"より魔力を使うし、効率の悪い付与だなと思いました」

「でも私には使いやすかったんですけど……」


 すると、私の言葉に被せるようにリンさんが言う。

「そうですよね ?!一応、空飛ぶほうきの役目は果たせるかと思ってライムくんの初付与は成功か、やっぱりすごいなぁなんて考えてました。その後は耐久性……と言っても魔力の過剰供給に対する耐性を調べたんです、そしたら……」


 そしたら……?


「付与の書き込みのある箇所が焦げるどころか速度がぐんぐん上がって……音速に迫る速さをたたき出したんです……!」


 音速……?よくわかんないがリンさんの話すスピードも音速……とまでは行かなくても早口だ。


「いくら仮想空間だからって、消し炭になるかと思いました……あ、ちなみに速度をあげようとしなければ、いくら魔力を込めても速度は上がらないし、あまりの魔力は書き込み部分の魔力回復に使われるようなのでオーバーヒートしないみたいです。ちなみに術式の魔力消費量がエグくて……」


 うん、すごいことはわかった。

 が、付与が専門外の私にはよく分からない。


「リンさん……?」

「あっ、ごめんなさい……久々にこんな計算された付与を見たもので……」

 ものすごくテンションが上がっている。


「あ、で、ラズリスさんの言いたいことはわかります。あなたにはとても使いやすいですよね、このほうき!」


 そう。リンさんの言うとおりだ。

 少し魔力を込めれば飛べるし、方向転換や加速も思い通りにいく。

 前の付与では気を抜くと加速しすぎたり、曲がりすぎたりしてしまっていた。


「ラズリスさんは魔力量が多めです。平均よりもだいぶ……だから通常の付与では魔力をオーバーヒートさせてしまっていたんでしょう。ライムくんは多分、それをわかって操作に必要な魔力量を多めに付与したんです。まるで手足のように扱える魔力量に設定した。一流の付与士も顔負けですね……」


「とりあえず、すごいことはわかりました。ありがとうございます」

「今度、付与資格試験受けさせてみたらどうですか?」


 それって国家資格じゃ?

 でも、魔道具に精通しているリンさんが言うなら。

 

「アリですね……ってかライム、無免許だ……!」

「目をつぶっておきますよ」

 そう言ってリンさんはウインクした。


「明日、待ってますね〜」

 私は手を振るリンさんを背にほうきにまたがり、魔力を込めた。


 さぁて、寮に帰ろう。



 翌日、ライムたちはまたまた放課後にアンバー魔石店へ向かった。


「そういえば昨日、コハクくんどうしたんだろ」

 ひとりごとのつもりだったが、トルビーが反応した。


「あぁ、僕のこと威嚇してきたあれ?吸血種に対するトラウマだと思う」

「ほう」

「自分の魔力を消したら唸るどころか懐かれたからね」


 トルビーは"擬態"の応用で魔力の性質を変えられるらしい。


「器用だよね〜。まぁ俺は何もしなくても魔力消せるけど」

「それは消してるんじゃなくて少ないの」

 悲しきかなその通りである。



 そんなことを話していたらアンバー魔石店に到着した。


「あ、ライム。これ見て〜」

 何やらリンさんと話していたラズリス姉さんが話しかけてくる。左手首には青いブレスレットがきらきら光っていた。


「あ、治ったんですか?あの時壊れたって言ってたブレスレットですよね?」

「そう!良かったよ……」


 そう言って姉さんは俺からブレスレットに視線を移した。姉さんはなんだか悲しげな笑みを浮かべているように見えた。


「ライムくん!今日こそ……これがお礼です!」


 何やらトルビーと話していたリンさんがこちらに向き直って小さな箱を取り出した。



 渡された箱のフタをを開けてみると、中からすりガラスのようなクリスタルが顔を出した。


「それはここ、キラハから西に行った採掘場で採れる天然石なの」

 リンさんに促され箱から取り出すとペンダントになっていた。


「とりあえず付けてみてくれる?」

 言われるがままペンダントを首にさげた。


 途端、後頭部の辺りに強い魔力を感じた。


「繧、繝溘リ繧、!」

 知らない言語を話されたように何を言っているか分からなかったがトルビーの声が耳元でこだました。

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