ep.21 校外調査許可
結局いつもの就寝時間になってもトルビーは帰ってこず、先に寝ることにした。
翌朝、俺が起きた時にはすでにトルビーも起きていた。
今日は週に一度の休日だ。キラハの街をトルビーと歩きながらこんなことを話した。
「学校をどうするか」
トルビーが渡された資料によると本部長に提示されたおすすめスポットは全国各地に散らばっているらしい。
しかし俺たちは学生だ。出かけられるのは今日のような休日に限られてしまう。だからといって、魔対の活動は秘密裏に行うため、学校に正直に話す訳にはいかない。
……活動なんて大仰に言っていいことはしないけど。
しかし適当な理由での欠席が続けば学校を退学させられてしまう。
厳しいと思うかもしれないが中央魔法学校はブライヤ最高峰の学校だ。常に入学希望者は飽和しているらしい。
改めて、俺たちよく編入できたなぁ。
まあそれは置いておくとして、週一の休日のみではあまり遠くへはいけないが……
と、中央図書館の前を通った時にチリリンと鈴の音がした。
……と思うといつの間に、魔界対策本部の中の廊下にいた。
トルビーと困惑していると、イオラさんが本部長室の扉から覗いていた。
「呼び出し成功〜。ぶちょ〜から話があるってさ」
イオラさんはそう言って手招きしている。
噂をすればと言ったところか、旅の話だった。
本部長が言う。
「君らも分かっているだろうが、学校生活と旅の両立は無理だ。だから……」
「学校は諦めろと……?」
トルビーがそう聞くと本部長は笑い出した。
「学校は卒業しておいて損は無い。若い芽を摘むことはしないよ」
「若い芽って……皮肉ですか?」
「私は君よりもずっと老いぼれだよ」
トルビーはジトッとした視線を本部長に送っていた。
「……で、校外調査許可をとってほしい」
「「……校外調査許可?」」
初めて聞く響きに、俺とトルビーの声が重なる。
本部長いわく、そういう制度があるとの事だ。
中央魔法学校に通う生徒は魔法大好きな勉強ジャンキーが多い……らしい。
校外での探求活動をしたい生徒もいるらしく、申請すれば、週1回の遠隔授業と月1回のレポート提出で登校扱いにしてもらえるんだとか。
「……ということで審査頑張ってね」
本部長はなんだか苦笑いすると続けた。
「ラズリス、2回落ちてるんだよね……」
「「難易度たかっ?!」」
という訳で次の日の放課後、俺たち1のBのクラス担任であり実技試験を担当してもらった隠れ魔族のテケン先生に校外調査許可について聞いてみることにした。
そう、実はテケン先生は魔族だったのだ。
実はテスト1日目……
▲▽▲
先生に促され実技室を出た俺だったが、気になることがあってとんぼ返りした。
「先生!どうやって魔法を出したんですか?!」
「気付かれたか。さすがライム……」
先生はうつむき加減で言った。
そして顔を上げるとニヤッと笑った。
「先生は、魔族なんだ」
「……え?」
「ほら」
そう言って先生は頭を横に振った。
すると先生のあたまに大きくて、ふわふわした耳が現れた。キツネみたいな大きな耳だ。
言われてみれば雰囲気……魔力がなんだか周りと違ったような。
「私は魔族だから、魔法を使うのに詠唱はいらないんだ」
そう、魔族は"無詠唱"を使わなくても魔法を無詠唱で出せる。
「あの……なんで隠してたんですか?」
俺が聞くと、先生は一瞬驚いたような顔をしてからニヒッと笑うと答えた。
「ライムを試したんだよ」
それから少し先生と話をして実技室を後にした。
△▼△
あの日以来、先生は大きな耳を全く隠していない。もちろん実技の試験の時もだった。
「テケン先生〜」
トルビーが先生に話しかける。
「どうした?」
「校外調査許可についてなんですけど……」
「やっぱり。キミらならそれに興味を持つと思っていた。えっとね……」
先生によると校外調査許可の効力は本部長が言っていた通りだった。そして許可を得るには3つの手順を踏む必要がある。
まずは校外で何をしたいのか、それをまとめた書類を提出する。この書類をもって、申請したこととなる。
ちなみに本部長によると、ラズリス姉さんは書類の時点で2回落ちているらしい。
申請をすると2週間、放課後に課外を受ける。基礎的な授業の他に、校外調査に役立つであろう内容をやってくれるそうだ。
そして最後は、テストだ。
筆記になるか、実技になるか、はたまた両方か、それは校外調査の内容による。このテストに合格しなければ申請は棄却される。
「まず、書類はよっぽどじゃなきゃ通る」
「「え?」」
「2回落ちたって人の話聞いたんですけど……」
もちろん姉さんのことだ。
「あぁラズリスだね?あの子は、なんというか……口下手?いや文章下手だからな……」
先生は苦笑いしている。覚えられてるってことは相当珍しいんだろう。
「3回目は人に文章を手伝ってもらったの丸わかりだったけど、まぁ、理由はちゃんとしてたから通したよ。で、テストはほとんど基礎だから大丈夫。これ、申請用の用紙ね」
そう言って紙を2枚渡してくれた。
とりあえず、そんなに大変じゃなさそうで良かった。
「あぁ、あと渡したいものがあるから一緒に職員室に来てくれるか?」
ということで職員室前で先生を待った。
「お待たせ。まずこれが……」
「おぉ……」
渡された巾着は小さい割にずっしりしていた。口紐を緩めるとまあまあな大金が入っていた。
「宿代。本当は寮があるんだが、留学が急で部屋を手配できなくてな……キラハの宿はお高めだから多めに。本来は授業費に生活費……宿代とか食費が含まれるから渡しておく。それと……」
そう言って番号の書かれたストラップの付いた鍵を渡された。
「寮の鍵ね。2人で1部屋で頼む」
「はーい」
「朝夕のご飯は寮の食堂で食べられるからな。あ、ご飯だけでも食堂使わせてあげればよかった……悪かったな」
先生はそう言って頭をかいている。
確かに食費と宿代で父さんが持たせてくれたお金がほぼ無くなってしまっている。
まぁ中央の美味しい料理たくさん食べられたからいいか。
「それじゃ、書類待ってるよ」
そう言った先生と別れ、宿に帰る。
そして用紙に記入を始めたのだが……
「あー無理!ホントのことは隠しながら言い訳なんて器用なことできない!」
勘のいい人には魔対の存在がバレてしまいそうな含みのある書き方になってしまう……
「ふっふっふ……僕に任せろっ!」
そう言ってトルビーが用紙を掲げた。
「えっ?!もう埋まってる?!」
ふっふーんと得意げなトルビー。
なになに……
Q1:校外調査の目的はなんですか。
いろいろな魔法に触れて新しい魔法体系を作りたい!
「え……新しい魔法体系……?」
「そう!僕が使ってるのは吸血種を初めとした魔族の魔法の基本体系。そんでライムたちはヒト族の魔法体系を使ってる。ちなみに同種族内でも異なる体系を使っていることもある。これからたくさんの人達と関わるだろ?レポートも書きやすそうだなと思ってさ」
先まで見据えてる……さすが賢い……!
Q2:校外で行うメリットはなんですか。
さまざまな種族の魔法に触れることができたり、直接使用者に質問することができたりして本で学ぶよりも力になると思ったから。
……全ての質問に、自然に、かつ本当の目的がバレないように答えている。あと、本当にレポートも書きやすそうである。
「ほんとに得意だよね、言い訳考えるの」
「褒められてるんだか……んでライムは進んでる?」
「まだ白紙だよ……」
俯いていると、トルビーが椅子を持って俺の隣に来た。
「お前のことだからマイナーな魔法集めでいいんじゃない?ほらQ3の答えはキッテスでの"無詠唱"とか"呪言"との出会いでいいじゃん?それで……」
約30分後……
「終わった〜!」
椅子に座ったまま伸びをして言う。
「おつかれ。んじゃ、荷物まとめて寮行くか〜」
そう言いつつもう既に自分の荷物は宿の玄関にまとまっているトルビー。
「え?!今日引っ越すの?」
「大して荷物もないだろ。夕飯代今日から浮くんだから。行くぞ〜」
という訳で寮へスピード引越しを済ませた。
たまたまテケン先生に会えたのでついでに申請用紙を渡してしまった。
「唐揚げうまぁ……!」
「ほら、今日引越しやってよかったろ」
食堂のメニューは毎日違うらしい。たまたま当たりメニューだった。
まぁ俺、嫌いなものほとんどないからほぼ当たりになるけど……
と、聞きなれた声がした。
「あれ、ライムたちじゃん!」
「ラズさん!今日から寮なんすよ〜」
話しかけてきたラズリス姉さんにトルビーが答える。
「やっとか、宿生活お疲れ様だね。あ、話したいことあるんだった……」
そう言って姉さんは一緒にいた友達に断りを入れると俺たちの向かいの席に座った。
「リンさんに、会いに行ってないよね……?」
「あっ!すっかり忘れてた……!」
「リンさん?」
トルビーが尋ねる。
姉さんはハッとして答えた。
「そういえばトルビーはいなかったね。リンさんのワンちゃんが何者かに操られて、私を襲ってきたことがあったの。ライムが何とか場を収めてくれて、そのお礼がしたいからお店に来てくれって言われてるんだ」
「あ〜、ライムから軽く聞きましたそれ」
トルビーがご飯を頬張りながら言った。
と、姉さんが俺の方を向いた。
「明日の放課後あたりアンバー魔石店行ってみない?」
「そうですね。あ、そういえば俺たち校外調査許可の申請中なんです」
「校外調査許可かぁ……私2回も落ちたんだよね。通りそう?」
「ラズさんとは違っ……?!」
余計なことを言おうとしたであろうトルビーの口を咄嗟に塞いで答える。
「トルビー文章考えるの得意だから助かったんですよね〜。たぶん通ると思います」
「さすがだね〜」
姉さんにそう言われ、まんざらでもなさそうなトルビーを横目にスープを飲む。
「あちっ」
思わず声が漏れてしまった。
トルビーの嬉しそうな顔に気を取られて自分が猫舌なことを忘れていた……
そんなこんなで夜は更けていった。
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