第二章
「先程からずっと、板に向かって何しているのですか?」
いつも一人の部屋に、壁をすり抜けて聞いてくるのは八百比丘尼。未だに信じられない…というか少し前まで忘れていた。
「スマホ。現代ではみんなが持っている必需品。」
「ずっと同じ体勢で同じものを見るのは良くないです」
しっかり注意してくるし。さっきまで家を探索してたのは誰だ。
「ん〜大丈夫だから。」
「ですが…少し動いたらどうですか?」
お母さんみたいに注意しだした八百比丘尼に「ん〜」と適当な返事をしてスマホに集中する。
「では、私の質問に答えていただけますか?」
「…いいけど。」
「はい。ありがとうございます。そういえば私達お互いの名前、知りませんでしたね」
八百比丘尼はそう言って、改めて私の方に顔を向けた。
「私の名前は、ヤオ。今では”八百比丘尼”と呼ばれていますが、昔はそう呼ばれてました。」
「新枦薫。というかヤオ、名字は?」
「平民に名字はありませんでした。あるとしたらくらいの高いお方のみ…私はそんな大層な生まれではありません。」
こう言われると、過去のカースト差別を聞くと、日本って、本当に差別していたんだと思う。
自分の知っている歴史が一部だけだとも。
「そう。それで質問って?」
「そうでした。先ほど、薫ちゃんのお母さんがいらっしゃる所で、板の中に住んでいる人を発見いたしました。もしかして...?」
「どんな妄想しているのか知らないけど、そういう訳ではないから。それにあれはカメラを通して一つ一つの色を覚えて写しているようなものだから、絵とかわらないわ。」
「絵?」
でも、まだ、信じていなさそうだから、スマホのカメラ機能を立ち上げてヤオに渡した。
「この中に薫ちゃんがいる…」
「でも私はここにいるでしょ?」
「そうですね。私の思い違いでした。文明の発達ってすごいですね。たった80年なのに…明治以来ですよ。こんなについていけないの。」
ヤオの目は輝いている。
彼女はなぜこんなにも、楽しんでいるのだろう。
私は、疲れている。生きているのに。時代を追うのに
なのに、彼女は、なんで…
「ねぇ…しんどくないの?」
少しムカッとしたような声が出た。
「何が?」
「生き続けるの。私はもう疲れちゃった。」
「早いでしょう。あなたはまだ20年も生きていない。」
そうでしょうね。何百年も生きたあなたに比べれば私なんか赤子以下でしょう。
「私は、死にたいわけじゃないんだけれど…漫画…あっ、お話とかでよく、不老不死になって、苦労するなんて話、よくあるんだよね。大切な人が先に死んじゃったりして。」
わかるように注意しながら話してる。あなたに私の気持ちが少しだけでもわかるように。
「私も実際、20年も生きてないけれど、もう疲れてたって気持ちになる時があるの。あと60年近く生きるなんて、気が遠くなりそう。」
「でもさ、あなたは、もう何百年も生きてるわけで…辛いかなって…時代においてかれたような感じなのかなって…」
自分はこんなことが言いたいのか…よくわからないけれど、止まらない。死にたいわけじゃない。生きたいわけでもない。これは本音。もしかしたら、彼女に憧れてるのかも。嫉妬してるのかも。もう十分に生きて、死ねない彼女を。
「…確かにしんどかった時期もありますがもう大丈夫です。」
あぁ…これは大丈夫じゃないな。
きっと…死にたいのかも。
違うかもしれないけれど、
私には苦しそうに見えた。
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