居眠り彰人君

「……およ?」


 ふと首を傾げた。

 周りに広がるのはただの街並みで、別に何か珍しい物があるわけでもない普通の光景だ。

 街中でポツンと一人……いや、今の俺が一人というのは珍しいのか?


「……俺、何してたんだっけ?」


 不思議と自分が何をしていたのか、そしてどうして街中に一人なのか思い出せない。


「……なんだか、思い出さないととても恥ずかしい気がするぞ」


 何が恥ずかしいのか分からないが、何となくそんな気がする!

 具体的には、今の俺とは別の俺が有栖に膝枕とかされてて……それを色んな人に見られているようなそんな気がする!!

 何を言ってるか分からねえと思うが俺も分からねえ……って一体何を言ってんだろうか。


「とりま歩いてみるか」


 ジッとしていては何も始まらないので取り敢えず歩こう。

 そうして普段と特に変わり映えしない道を歩いていると、段々と俺にとって馴染みのない記憶が蘇った。

 馴染みがないので蘇ったというのも変な表現ではあるが、脳裏に浮かんだ記憶とはあの日――西条家でのパーティで追放されることのなかった俺が、追放されてしまった場合の記憶だった。


「……??」


 それは正に、首を傾げる現象だった。

 とはいえ何が出来るというわけでもなく、不思議な気分になりながらその記憶を深堀りしていく。

 どうやら今の俺は、学校に通うこともなく無気力に生きているようだ。

 原作では彰人が追放された後のことは詳しく描かれてなかったものの、ちゃんと生活費なんかは最低限受け取っているらしい。


「なるほどなぁ……こうなるのか」


 その場で佇み、独り言を呟いても問題はない。

 周りの人は俺の存在を一切気にした様子もないし、何なら認識さえしていないほどだからだ。


「……………」


 追放された後の俺は、特に親しい存在は居ないらしい。

 手紙での必要最低限のやり取りを除けば家族とも交流はなく、当然のように有栖や天音は傍に居らず、湊だって居るわけもない。

 ソフィアやフィリア、羅夢や他の人とも全く親しくなっていないので真のボッチを満喫中だ。


「……おもんな」


 結論としては、全くもって面白くないという考えに至った。

 確かに十六夜家や西条家との繋がりは断ち切られ、俺を縛る柵からは解放されているようだが心底つまらない人生だ。

 元々俺がこれを望んでいたとはいえ、本当にそう思った。

 おそらくこう思えるようになったのも今があまりにも充実しており、有栖や多くの人たちと離れたくないと思ったからではないだろうか。


「取り敢えず……戻りたいんだが」


 こんな何もない空間からはとっととおさらばだ。

 そう思った瞬間、やはり眠っていたのか夢から覚めるのだった。



▼▽



「……………」

「ふふっ、随分と爆睡だったわね」


 クスクスと有栖が目の前で笑っている。

 妙な夢から覚めたかと思えば、やはり俺の抱いた直感は正しかったらしく、俺を取り巻く現状はとても恥ずかしいものだった。


「……はぁ、最悪だ」

「別に良いじゃん」

「眠かったんでしょ?」


 傍に居るのは有栖だけでなく、ソフィアとフィリア……そして羅夢や会長の姿もあった。


「可愛らしい寝顔でしたよ?」

「既に会議は終わったんだ。なら眠ってても問題はない!」


 そう……どうやら寝ていた俺をみんなが眺めていたようだ。

 今日は放課後になってすぐに有栖と共に生徒会室へと向かい、軽く来年の話をするに至った。

 俺と有栖、ソフィアとフィリアが来年の生徒会メンバーだからだ。

 そこに現生徒会長である宮崎会長、そして暫定ではあるがほぼ確定で来年の生徒会長になるであろう羅夢も居る。


「でも突然だったわね? そんなに眠たかったの?」

「少しな……まあでも寝ない方が良かったわ」

「どうして?」

「つまらん夢を見た」

「あら、そうなの?」


 どんな夢だったかは黙っておく。

 というかそれを喋ってしまったら有栖の場合、どんな風にこっちを甘やかそうとしてくるのか分からないからな……もちろんそれ自体は嫌じゃないのだが、最近の有栖は今みたいに周りに誰が居たとしても俺を優先してしまう悪癖に目覚めつつあるので、俺の行動一つで有栖が“俺のことを何が何でも絶対甘やかせ美少女”に変貌してしまうのは避けなくてはならない。


「確かに少し、寝顔は少し暗さが見えたな……」

「はっ? なぜ私が気付かないことに会長が気付いているんです?」


 おっと……会長の言葉に有栖が嚙みついたぞ。

 とはいえ有栖も俺のことに関してはなんだって気付いてくれるような子ではあるのだが、今回は気付かなかったらしい。

 会長はフフッと笑った。


「同性だからこそ気付けることもあっただけのことだろう。もちろん俺なんかよりそちらの方が遥かに理解しているようだがな」

「それはもちろんです。この世界で彰人さんのことを私以上に理解している人は居ません」

「わお……」

「ハッキリ言うね」


 それからもしばらく、有栖は会長とバチバチ火花を散らしていた。

 有栖と会長のやり取りに関しては今だからこそ見れるものだが、意外と気が合う部分もあるらしく有栖も何だかんだ楽しそうにしており、それを眺めている俺としても楽しい気分だ。


(しっかし……壮観だなこう見ると)


 目の前には、ヤンカノのヒロインたちが勢揃いだ。

 全員ではないがこれだけの人数が揃うと目の保養どころの話ではなく、絶対に良い香りがすると断言出来る空間になっている。

 後何人かはメンバーの選定はあるだろうけど、この中に俺が加わっているというのは少し気後れするが……それでもやってやろうと思って頷いたので、みんなに恥を掻かせないためにも頑張らないといけないな。


「すまん有栖、お手洗い」

「いってらっしゃい」


 有栖と、みんなに声をかけて生徒会室を出た。

 後はもう解散を待つだけではあるが、トイレのついでに寝て凝った体を解したかった。


「……うん?」


 トイレに向かう際、奴を見た。

 一つ上の先輩であり羅夢と生徒会長の座をかけて争う男子――住良木の姿を。


「……ふんっ」

「……………」


 すぐ傍を通った際、分かりやすく鼻で笑われた。

 イケメンだからこそ似合う仕草にムカついたが、やはりあの様子だとまだまだ生徒会長……というより、この学園の上に立って人を顎で使いたいという歪んだ欲求は垣間見えた。

 おそらく何をしても羅夢が生徒会長で確定ではあるし、有栖も目を光らせているので万が一はないと思っているが、それでも何かしら一波乱は起きそうな雰囲気がある。


「……っと、トイレトイレ」


 住良木と出会ったことも、全部尿意と共に外で出してスッキリした後は再び生徒会室に戻ろうとするも、ちょうど入口の所に羅夢が立っていた。


「永椿先輩?」

「あ、おかえりなさい十六夜君」

「いえ……どうしてここに?」

「ふふっ、少し落ち着きたかったのです。会長のせいで騒がしい日々はずっと続いていましたが、あなたたちと出会ったからか会長がいつにも増して楽しそうで」

「なるほど……」


 確かに、会長めっちゃ楽しそうにしてくれるもんなぁ。

 俺と同じで改めて会長の奇行……ではなく、楽しそうな様子を思い浮かべたのか羅夢はクスクスと笑った。


「あんな風に騒がしい人も、後少しで居なくなると思うと寂しいものですね……しかし、あなた方が力を貸してくれるのならわたくしも心強いというものです」

「あはは……頑張ります」


 まあでも、来年になったら主人公君も現れるだろう。

 そうなった時に羅夢にも何かしら良い変化があるかもしれないし、それを近くで見れるのも面白いかもな。


「永椿先輩」

「何ですか?」

「生徒会をやると決めた以上、あなたの力になりますよ。小さなことでも是非頼ってください」

「……はい、ありがとうございます」


 羅夢は丁寧に頭を下げた後、顔を上げてゆっくり近付く。


「……どうしました?」

「……………」


 ジッと見つめてくる羅夢は、そっと手を伸ばした。

 そのまま彼女は俺の手を取ったかと思えば、言葉を続ける。


「最初に話した時と随分印象が違うなと思いまして。あの時のあなたは、小さな迷える幼子のようでした。しかし今のあなたは、しっかりと前を向く強い目をしています」

「それは……きっと多くの人のおかげですね」

「西条さんたちですね……とても良い仲のようです」


 なんつうか……心配のされ方だったりが完全にお母さんだ。

 母性の暴力を振り撒き多くの読者を沼に沈めた羅夢だけど、今の俺たちの関係性を考えると普通に先輩と後輩だ。


「是非、よろしくお願いしますね永椿会長?」

「まだ早いですよ!」


 ふふっと笑い合い、生徒会室へと戻るのだった。




(母性はあるし、相変わらずの暴力スタイルだけど……やっぱあの漫画みたいなのはオーバーすぎるんだなぁ)

(十六夜君……こんなにも頼りになる方なんですね。西条さんたちが話していましたが、なるほど確かに……うふふっ、どこか包容力のようなものも感じました。まるで亡くなったお父様のような……そんな優しさを……あぁ……とっても優しい方だと、目を見て確信しました♪)

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すぐ退場するざまあ役に転生したが、ヒロインのヤンデレ婚約者が離れてくれない件について みょん @tsukasa1992

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