ムッツリメイド

 添い寝がしたいと部屋にやってきた天音。

 彼女の提案に頷いたとはいえ、すぐにベッドの中へということにはならなかった。

 なんというか、普通に会話が弾みまくった影響だ。


「あ……随分と話し込んでしまいましたね」


 ハッとするように天音が時間に気付くくらいには夢中だった。

 会話の内容としては俺がもっと天音のことを知りたいと伝え、恥ずかしそうにしながらも天音は普段大学でのことだったりを教えてくれた。

 もちろん今までに聞いた話もあったが、お互いに気持ちを落ち着かせるという面においては大いに力を発揮してくれたみたいで、俺も天音もとてもリラックス出来ている。


「天音さん、横になって喋ろう」

「あ、はい……っ!」


 返事をした天音ではあるが、その声音には再び緊張が宿った。

 俺も緊張してないわけではないのだが、天音に比べたらどうってことはない。

 最初にベッドに横になった後、おいでと言うように天音を誘う。

 天音はゆっくりとベッドの上に上がり、そのまま俺のすぐ傍に横になるのだった。


「あ、あの……」

「うん?」

「私……自分が情けないです……」

「……なんで?」


 いきなり情けないと言った天音に思わず目を丸くする。

 天音は頬を赤くしながらこちらへと顔を向け、何故そう言ったかを教えてくれた。


「私よりも年下の彰人様にこんな風にリードされることが……その、情けないなって思ってしまいました」

「あ~そういう……いや、全然情けないとかないだろ? 言っとくけど、天音さんに比べたら落ち着いているだけで十分ドキドキしてる」

「本当……ですか?」

「本当だ。何なら触ってみるか?」


 天音は頷き、そっと布団の中で手を伸ばす。

 彼女の指がまず俺の左胸に触れ、それから手の平全体で心臓の鼓動を感じるかのように撫で回し、小さく本当だと呟いた。


「だろ?」

「はい……私と同じくらいドキドキしていますね」

「天音さんほどじゃないだろ絶対」

「そんなことありますよ! それなら私の心臓の音も聞いてください!」

「お、おい――」


 勢いに任せるように、天音は俺の手をグッと握った。

 そのまま彼女は自身の胸元へと誘い、むにゅりとした形の変える柔らかな感触をこれでもかと感じる。


「ど、どうですか……っ!」

「……その、聞こえないというか……振動も感じないんだが。その、たぶん天音の胸が大きすぎて届かないんじゃないかなと」

「……そうですか……っ!?!?」


 ハッキリ言いすぎかと思ったが、本当に伝わってこない。

 ただ流石にここまでされたら俺も緊張が凄まじいことになるわけで、きっと表情には出ていないのが救いではある。

 俺が天音の胸を触っていること、それを実感したのか天音はあわあわと表情が面白いことになっているが、この手の平に伝わる感触の素晴らしさと言ったら言葉にし難い。


「一旦、落ち着こうか天音さん」

「は、はいぃ……」


 そっと手を離し、深呼吸をしてもらった。

 それだけで比較的落ち着いたらしく、相変わらず顔が赤いまでも年上の女性らしい温かさを感じる笑顔が戻ってきた。

 しかし、予想外だったのが何か別のスイッチが天音に入ったらしい。

 天音は俺との距離を一気に詰めたかと思えば、手を伸ばして俺の頭を撫でてきたのである。


「私も相当にパニックでしたけど、彰人様も同じみたいで……ふふっ」

「どう考えても俺より天音さんの方じゃないか?」


 まあ、あまり言わない方が良いかもしれないな。

 さてと……お互いに落ち着いてきたことだし、俺の聞きたかったことを天音に聞くことにしよう。


「天音さんの添い寝……受け入れたのはちょっと理由があってな。少し天音さんと改めて話したいことがあったんだよ」

「それは……」

「……天音さんは今後も俺を支えてくれると言った。天音さんの気持ちも理解したし、俺もそれを受け入れた。その上で天音さんは本当に良いのかなって思ったんだ」


 それだけ言えば天音には十分だったらしい。

 天音は口元に手を当て、クスクスと笑った後にこう言ってきた。


「私は彰人様をお慕い申し上げています。それは伝えましたよね?」

「あぁ」

「それは、好きという意味です。愛しているという意味です……私は使用人としてあるまじき感情を抱いてしまいましたが、有栖様はそんな私を受け入れてくれて……共に彰人様を支えようと言ってくれました」

「……………」

「私には、その提案に頷く以外の選択がありませんでした。私はただ、彰人様の傍に居られれば良い……それで良かったのに、一人の女としても彰人様を愛する資格を頂ける――そんな魅力ある提案に迷うことすらせずに頷きました」


 天音のそれは、正しく今までにない熱烈な告白と言っても良いだろう。

 以前に気持ちを伝えられた時よりも強く、激しく、それでいて静かに語りかけてくるその姿はどこまでも年上の女性だった。


「……ま、そういう意味なのは分かっていたさもちろん。ただ俺もこういうことになるとは思わなかったからな……それで改めて、天音の気持ちを聞きたかったんだ」

「なるほど……それで、どうでしょうか……?」

「今更撤回とかしないよ。天音さん、これからも傍に居てくれ。俺のことを支えてほしい」


 さっきまでずっと有栖と過ごしていた名残もあるのか、こういう空気に慣れるのも早くなっているらしい。

 さっきまでの緊張はどこに行ったんだと言いたくなるが、天音がこんな風に落ち着いているのに、俺がずっと落ち着かないわけにもいかない。


「どうだ?」

「はい……ずっと傍に居させてください。私は彰人様のことが心から大好きです♪」


 俺の未来がどうなるかは分からないが、現時点で有栖と天音が傍に居るということが決まっている。

 有栖同様に天音のことも大切に守っていく……そして、俺を選んでくれたことを後悔させないようにすること、それが俺の役目だ。


「彰人様」

「うん?」

「キス……してもよろしいでしょうか?」

「……おう」


 頷き、天音に顔を近付けた。

 そうして交わされた触れるだけのキスに、天音は心から嬉しそうな笑みを浮かべ、その嬉しさを表現するようにもっと距離を詰め、俺の腕を抱きしめるのだった。


「夢みたいです……こんなにも幸せな気持ちになれるなんて」

「俺も同じ気持ちだじょ……だよ」

「……ぷふっ♪」

「笑うんじゃない!」


 思わず噛んでしまい、それを笑われて思わず大声を上げてしまった。

 どうやら今のが随分とツボに入ったらしく、天音はしばらく笑い止んでくれなかったので、その間俺はずっと恥ずかしさに身悶えていた。


「ふ……ふふっ……ふぅ。落ち着きました、申し訳ありません彰人様」

「……………」

「えっと……本当に申し訳ありません!」

「別に良いけどさ」


 別に不貞腐れたりしてないっての……はぁ。

 ただ俺が改めて聞きたかったことは聞けたので満足したし、ちょうどいい具合に眠たくなってきた。

 かつて読者という立場でしかなかった俺が、あの有栖と天音とこんな甘い関係になれたこと……そしてそれを感じながら眠れることに幸せ。

 そんな気持ちの中で目を閉じようとしたところで、天音が言葉を続けた。


「さっき、私が言ったことは何も間違いではないんです」

「あぁ」

「ただ……私、彰人様と接するうちにとても気持ちが強くなって……どうにか彰人様にお情けをもらえるというか、そういうことをしてくれる使用人を目指そうと思うようになってたんです」

「……うん?」


 天音は止まらなかった。

 興奮した様子を隠そうともせずに、ギュッと更に俺の腕を抱く力を強くした。


「私、自分の体には自信があります! なので彰人様をそういう面でも癒せるような使用人になりたいなと! 私が一方的にそうしてあげたいからするのであって、決して彰人様が浮気だとかそういうことになりませんので……あくまで私が彰人様にしてあげたいから!」

「お、落ち着け天音さん!」


 結局、その後は天音の独壇場だった。

 ムッツリ爆乳ドスケベメイドの名に恥じない言葉の羅列と勢いに、思わず引いてしまいそうになるくらいには凄まじいものがあった。

 最後にはまたいつもの天音に戻って謝り倒されたものの、こういう会話が出来るくらいには天音とも関係が進んだんだなと俺は前向きに考えるのだった。


 つまり、守るべきものが増えたということだ。

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