妹は距離の詰め方が上手い

「ははっ、こうして彰人と風呂に入るのは何年ぶりだろうな」

「……さあね」


 どうしてこうなったんだと、俺は首を傾げた。

 有栖と天音……二人とのデートを済ませた後、真っ直ぐに帰ってきたわけだが、いきなり父さんに話をしないかと風呂に誘われた。


「最近のお前に対する評判は凄く良いぞ? 使用人たちを含め、湊だってお前に対する見方は変わっている……有栖ちゃんや雅紀君、一夏ちゃんもお前のことを良く言っている」

「それは……ありがたいな」


 何だろう……凄く背中がくすぐったい。

 相手が父親というのと、この体に入り込んだからこそムズムズしてしまうのかもしれない。


(……父さんか)


 彰人の父に関しては、彰人の母同様にそこまで物語には絡まなかった。

 しかし俺が彰人になってしまった以上は、こうして少しでも噛み合えば長く顔を合わせることになる。


(……優しすぎるがあまりに抜けている部分もあり……か)


 父さんは、とにかく優しい人だと思う。

 時に厳しいことは言うし、自分の抱える仕事に関しても誠心誠意向き合い結果を出す……それはとても手本になる在り方だ。

 だがこの人はとにかく彰人に甘かった……いや、厳しかったかもしれないが結局は彰人が暴走するのを見逃したからな。


「……ふっ、まあ今更か」

「どうした?」

「いや、何でもない。なあ父さん、俺は随分と恵まれてるみたいだ」

「ほぉ? 今更気付いたのか?」

「……少し前の俺に灸をすえる意味でも怒った方が良かったんじゃ?」

「それをお前が言うのか……?」


 ごもっともだなと俺は笑い、父さんもはははと笑う。


「お前ならいつか変わると思っていたからな……そう言うと逃げに聞こえるかもしれないが」

「……変わっちまったな」

「そうだな……お前は変わった。本当に変わったよ」


 変わった……変わりまくったわけだが。

 中身そのものが変わっていることを知っているのは有栖だけ……たぶんだけど、いくら親と言えどそれを説明したところで信じられるとは思わないが……まあ話すつもりはないけど。


(そういう点では……申し訳なさもあるかもしれない)


 実質、俺は彰人を子の人たちから奪ったようなものだ……もちろん本来の彰人を考えればどうでも良いとさえ考えてしまうものの、この人たちから奪ったという体は変わらないだろうから。


「……ふぅ!」


 やけに考え込んでしまったなと、お湯を手で掬って顔を洗った。

 それだけで胸に渦巻いた嫌な物が流れ落ちたわけではないけれど、少しはマシになった。


「なあ父さん」

「うん?」

「俺は……まああれだよ、自分にやれることをやろうと思う。もちろん今よりやれることを増やして、頑張るつもりではあるさ」

「そうか」

「うん……だからまあ、母さんと一緒に見守っててくれよ」

「分かった。楽しみにしているぞ?」


 そう言葉を交わし、俺は先に風呂を出た。

 そこまで引き摺っているつもりはないのに、部屋に戻るまで随分と気持ちが沈んだというか……何とも言えない気分だったので、有栖と話して気分をスッキリさせてもらおう。


「……って湊?」

「あ、おかえり兄さん」


 部屋に戻ると湊が俺のベッドに腰かけていた。

 一体どうしたんだろうと近付けば、今日も湊はいつもの様子ではなくちゃんと女の子としての姿だ。


(……やっぱ湊も凄くエロいよな)


 顔立ちなんかは全然今までと変わらないのに、湊が女の子であると認識したからか……やけに意識する部分が増えた。

 ぷくっと柔らかそうな唇や、僅かに紅潮した頬、大きく主張する胸、形の良い尻など……まあ胸に関しては分かりやすい変化だが、それ以外は今までと変わらないのにどうにも……な。


「なんか用か?」

「用はない……かな? あぁいや、兄さんと一緒に居たいっていう用ならあるね♪」

「……ははっ、そうか」


 可愛いことを言ってくれる妹だ。

 ニコニコと笑顔を浮かべ、足をパタパタさせる湊の隣に腰を下ろすと、彼女は肩に頭を乗せるようにして体を寄せた。

 ふんわりと香る良い香りに、これは何の香りだと考えるも答えは出てこない。


「有栖さんたちとのデートは楽しかった?」

「あぁ……つってもハプニングもあったが」

「ハプニング?」


 天音に関すること……ハプニングと言うほどでもなかったが、それについて教えると湊は俺らしいと笑った後、こう言った。


「天音さんはあれだけ美人だし、そりゃモテるよね。でももう兄さんのお手付きみたいなもんだし、その人には気の毒だけど諦めてもらうしかないね」

「おい、お手付きとか言うんじゃない……てかどこでそんな言葉を覚えてくるんだお前は」

「今はそうかもだけどいずれそうなるでしょ? 他ならない兄さんが天音さんの想いを受け取ったんだし。それとそういう言葉については、ネットっていう便利なものがあるからさ」

「なんだよ、エッチな漫画とか読んでんのか?」

「うん」


 あ、認めやがった……。

 湊はスマホを手にし、軽く操作して俺に画面を見せた。そうして画面に映っているのは湊が今まで購入した漫画……主に少女漫画だがエッチな漫画に関しては、やけに兄と義妹モノが多い……ってかその系統の漫画の購入日がつい最近に連続しているのが生々しいというか……。


「湊もその……こういうの読むんだな」

「誰にも言ってないけどね。でもそういう漫画って不思議なもので、エッチなシーンは本当にエッチなんだけど、ストーリーも凄く面白くてさ。結構ハマっちゃって」

「分かる! エッチな漫画でもストーリーが良いのは本当に良いからな」


 それから俺と湊は、漫画について語り合った。

 かつての俺が漫画を読んでいるわけがないと湊は知っているのに、それでもずっと俺に対しておかしいと思った様子は微塵もなかった……というよりヤンカノ然り、色んなアニメや漫画を制覇したオタクの俺としては、言葉が止まらなくてそれを気にする余裕もなかったというのが正しい。


「……ははっ、ありがとな湊」

「え? 何が……? エッチな漫画を教えたから?」

「いや、そうじゃなくて……まあとにかく、ありがとうな湊」


 部屋に戻る際に抱いていた複雑な気持ちも、湊と話していていつの間にか消え失せていた。

 そのことの感謝を伝えたわけだが、湊は当然何のことか分からずに困惑しており、そんな様子さえも可愛くてついつい頭を撫でてしまう。


「……こうしてさ」

「うん?」

「特に遠慮なく可愛がってくれるのも妹だから……だよね?」

「え? あぁ……まあ異性だからって緊張はあるけど、それでも相手が湊だから遠慮がないっていうのは正しいかもしれないな」

「それで良いよ……うん、それで良い……だからもっと仲良くなったら沢山のことして良いからね? ボクで試して……ね?」

「………………」


 正直、湊から向けられる特大クラスの矢印は当然理解している。

 だが正直、あまりにもキャパオーバーというか……まだその辺まで考えが回らないんだ今の俺では。


「……ま、その内な」

「え? あ……うん! その内ね!」


 ……って俺は一体何を言ってるんだ!?

 どんな言葉を伝えれば良いのか迷っていたら、勝手に口が!?

 湊はここ最近で一番の笑顔を見せており、そんな湊の姿は俺の中の記憶に秘められたとある答えを導き出す――まるで兄に何でもされたがりのドスケベ妹ってやつ!


「……今日は早めに寝るか」

「えぇ~、もう寝ちゃうのぉ?」


 湊は不満げに頬を膨らませ、まだ話足りなそうにいやいやと首を振る。


「でも……兄さんがそう言うなら仕方ないな。じゃあ一つだけ、してほしいことがあるんだけど良い?」

「してほしいこと?」

「はいこれ」


 湊が手渡してきたのはメジャーだ。


「メジャー?」

「うん。ちょっとどれだけ成長したか確認したくて」

「成長……?」


 ぷるんと弾ませるように、湊は胸を指差した。

 その瞬間、このメジャーを使って何をするのか理解した俺は、さっさと突き返そうとするも湊は背を向けた。


「兄として妹の成長は確かめるべきだと思うんだよ」

「いや、普通はこんなことしないって……」

「普通はね? でもボクと兄さんだし、普通じゃないじゃん」

「どういう意味だよ」


 湊はツンッと顔を背け、測るまで動かないと言い切った。

 俺はしばらく悩んだものの、埒が明かないのと少しばかりスケベ心に動かされて湊の胸の大きさを測る。


「……92」

「あ、少し大きくなったかな……やっぱりキツイと思ったんだよね」


 こいつ……デカすぎんだろ。

 でも湊がこれくらいということは有栖も同じくらいで……そうなると天音は三桁行く……?

 何気にそれが気になった夜だった。




(……距離の詰め方というか、一番洗練されてるのって湊じゃね?)

(う~ん、日を追うごとに兄さんとの距離が縮まる……♡ このまま一気にって行きたいけど、時間はたっぷりあるから焦る必要なし……あ~あ、次はどんな風に兄さんとやり取りしちゃおっかな?)

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