賑やかしの生徒会長
早いもんで、もう十一月になった。
と言うのも俺が彰人になったのは入学式から半年経った頃なので、あれからちょうどひと月経ったわけだ。
(まだひと月なんだよなぁ……)
俺にとっては、必死なのもあって一年は彰人だった気さえしてくる。
けど冷静に考えたら逆に後半年経てば漫画の時間軸になり、主人公が転入してくることになる。
(そうなると……どうなるんだろうな)
本当にどういう流れになるのか想像が付かない。
転入してきた主人公を有栖が気に入れば、物語のように序盤は進んでいくかもしれない……だが、己惚れるわけじゃないけど今の有栖が果たして主人公のことを気に入るか……?
それに……仮にそうなることを面白くないと感じる俺も居る。
そう考えると俺も随分と、有栖との関係を気に入っているんだなと思わざるを得ない。
「彰人さん?」
「っと、悪い」
隣を歩く有栖は、心配そうにこちらを見上げていた。
今日も今日とて授業が終わり後は帰宅するだけなのだが、教室を出てから廊下を歩くこの瞬間まで常に有栖は傍に居てくれる。
そして今日もうちに来て一緒の時間を過ごしたいと、そう有栖は言ってくれているんだ。
「心ここにあらずと言った感じだったわ。何か悩み事?」
「うん」
「あ、あら……素直に認めるのね」
「まあな……でも大したことじゃない」
「そう?」
「あぁ」
有栖はまだ気になるようだが、それなら良いと聞くことはしなかった。
そうして廊下を歩いていたその時、懐かしい顔を見つけた――あの母性を振り撒くお嬢様こと永椿羅夢だ。
「あら、永椿先輩?」
「みたいだな」
長い黒髪だけでも目立つのに、あの制服を押し上げる凄まじいまでの爆乳は更に目立つ。
この学園に通う大半の生徒は真面目だが、そんな生徒さえもあの爆乳を越えた魔乳には鼻の下を伸ばすほど……現に俺だって無表情ながらもあの乳から目が離せないからな。
「しかしわたくしは……」
「俺の後釜を頼めるのは君くらいなんだ! 生徒会役員として俺を支えてくれたのはもちろん、全ての活動を責任持って従事してくれた君こそ、それに相応しいと考えているぅ!!」
「あ、あの……ちょっと声が大きすぎますわ」
この学園にはあまりにも不釣り合いなやり取りに、思わず有栖と顔を見合わせた。
その場に居たのは困ったようにオドオドする羅夢と、そんな羅夢に詰め寄る眼鏡にテクノカットの男子で、腕に生徒会の腕章がある……あれを付けているのは生徒会長だけだ。
「
「生徒会長……」
いつかは会うと思っていたが、あれが今の生徒会長か……。
漫画では既に羅夢が生徒会長になっていたので、前任の生徒会長の顔などは一切出ていなかったが、羅夢の話では優しくも厳しく煩い人だと言ってたっけ。
「俺は後少しで卒業する……だぁが! 俺は自分でこいつだと思った相手に後任を任せなければ安心出来んのだ!」
「で、ですから……」
これは凄いやり取りだな……周りも何事かと見つめているし、羅夢も心から困っている様子だ。
ただ、俺は羅夢が次の生徒会長になることは知っている。
羅夢が生徒会長になった理由は色々あれど、彼……宮崎会長の後押しが大きかったと笑顔で言っている描写もあったので、今はまだ少し決心が付いていない状態なんだろう。
「あの会長さん、中々面白いな」
「永椿先輩からしたらたまったものではなさそうだけど」
まあ、俺たちには一切関係のないことだ。
(……って待てよ)
俺はふと、羅夢が生徒会長にならなかった場合のことを考えた。
これも全て羅夢が過去語りしたことと、羅夢自身のイベントに関わってくるのだが、彼女が生徒会長になったことで色々な仕組みが生まれた。
中には外部生でもある主人公を守る規約なんかも盛り込まれており、更には羅夢とは別に立候補する男子生徒が居るが……そいつは極度の差別主義者な部分があるため、羅夢が生徒会長にならなかったらどうなっていたかと不安を煽るシーンもあったはずだ。
(いやまさかな……)
だが……あの羅夢の乗り気ではない様子と見てしまうと少し不安だ。
とはいえそれも気にしすぎだと思い、有栖と一緒にその場を素通りしようとしたのだが、まさかの声がかかった。
「おや? 君はまさか、十六夜彰人君じゃないか!?」
「……え?」
もちろん声をかけてきたのは宮崎会長だ。
なんで俺に……? そう疑問に思うよりも早く、宮崎会長はヌルリと移動するように俺の前に立った。
明らかに用があるのは俺であり、彼は有栖のことを気にしていなかったが、ついいつもの癖で有栖を背に庇う。
「何でしょうか……宮崎会長?」
「あぁ! 俺は、君と後一年早く出会いたかった……俺が二年の時に、君が一年だったら良かったなと思わない日はない!」
「……………」
「西条家でのパーティの時、俺はその場に居てね。その時、俺は君に素晴らしい素質を感じたんだ!」
更に宮崎会長は続けた。
「以前までの君には一切興味がなかったが、あの時の君には凄まじいまでの興味を抱いている! 今の君は面白い……だからこそ、来年の生徒会役員はどうだろうかと君を誘うつもりだったのさ。俺はその場に居ないが、きっと楽しくなるんじゃないかと思ってな!」
俺が生徒会に……?
まあこれ以上責任を負いたくはないのと、重圧も感じたくないので俺の答えは決まっているが。
「えっと……すみません」
「そうか……それは残念だ」
「誘った割には呆気ないんですね?」
「強制するべきではないからな……まあ、永椿に詰め寄っている俺の言えたことではないのだが」
それは確かに……。
でももしかしたらこのまま羅夢が生徒会長にならないことも……それは困ると思い、特に心配はないと思うが言っておこう。
「永椿先輩は、後輩からも凄く優しいと評判ですよね。それを加味すると生徒会長の役職は似合いそうな気もしますが」
「ほぉ! 君もそう思ってくれるのか!」
「有栖はどうだ?」
有栖に問いかけると彼女も頷いた。
「本人のやる気が一番だとは思いますが、永椿先輩が生徒会長というのは見てみたい気もしますね。お似合いだと私も思います」
「お二人まで……」
こんな言葉が後押しになるとは思っていない……そう考えていたが、羅夢は諦めたようにため息を吐く。
「別にわたくしは嫌ではないのです……ただ、務まるかどうかの自信がなかったのですわ」
「いや、君は間違いなくやれると信じているがな!」
「……後輩に背中を押されましたし、前向きに検討させていただきます」
「おぉそうか! そいつは助かる!!」
喜びを露にする宮崎会長。
その時、チラッとこちらを窺う視線を感じた……そちらに視線を向けると、そこに居たのは二年の男子生徒――羅夢の回想に出てきた男子生徒が面白くなさそうにこちらを睨んでいる。
「彰人さん、帰りましょう?」
「分かった」
結局、有栖に手を引かれその場から離れるのだった。
桜木さんが運転する車に乗り込んですぐ、クスッと口元に手を当てて有栖はこう言った。
「彰人さんは分かりやすいわね。もっとも、ずっと傍であなたを見ている私だからこそ気付けることでしょうけれど」
「え?」
「永椿先輩が生徒会長になってほしいんでしょう? あなたの視線からその意図を感じ取ったわ」
「……凄いな」
そこまで分かるのか……?
確かに有栖は宮崎会長らと話していた時、常に俺の顔を見ていたようにも感じていたが。
「それと、さっき私たちの方を見ていた男子の先輩……彼には少々黒い噂があるのだけど、彰人さんは一瞬彼のことも気にしていたわね?」
「本当によく見てるな」
「うふふっ♪」
ニコッと微笑む有栖の表情は可愛らしいものの、考え事を全て見透かされるかのような怖さもある。
そっと手を握ってきた有栖は、どこか冷酷さも滲ませるようにしてこう言葉を続けるのだった。
「あなたの望むこと、したいことを支えるのは私の役目だもの。だから常にあなたのことを私は理解したい……たとえ言葉を交わさずとも、あなたの考えが分かるようになって初めて、私は私の望む私になれるのかもしれないわね」
耳元で囁かれた言葉は、何度も何度も木霊するように響く。
ジッと見つめる仄暗い彼女の瞳には、相変わらずの無表情な俺が映っているが……俺の心は有栖の雰囲気に呑まれないようにと必死だった。
そう考えていたからか、ボソッと言葉が漏れた。
「それは……嫌だなぁ」
「……何ですって?」
「いや、ちゃんと言葉を伝え合う方が健全だろ? たとえ言葉なしに分かり会えたとしても、俺はこうして有栖と会話がしたい……って思うのはおかしいか?」
えっと……すみません。
あまりに有栖の何ですっての声音が冷たすぎて、そんな恥ずかしい言葉に恐怖が変換された。
「……それもそうね。私もあなたと言葉を交わす方が良いわ。ごめんなさい……変なことを言ったわね」
有栖はそう言い、俺の肩に頭を置いた。
そんな俺たちのやり取りをミラー越しに見守っていた桜木さんは、目が合うと微笑ましそうに頷いていた。
(さっきの何ですって……ヤンデレ感あったな……)
(……私ともあろう者が言葉一つでこうも乱されるなんてね。でも、彰人さんだからこそなのかしら……ふふっ、悪くないわね)
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