ご都合主義にも程がある

昼休み、校舎二階の非常扉から踊り場に出る。体育館と校舎の間を抜ける風が心地よく吹いており、日中の暑さを忘れてしまう。日陰になった非常階段に腰掛けると鉄の冷たさが心地よく、俺はここで昼飯を食べることにしている。別にクラスが女子だらけで居心地が悪いというわけではない、けっして。

購買で買った双子メロンパンを食べながら、俺は放課後の模擬戦をどう切り抜けるか思案していた。

勿論勝ち筋は見つからない、ブラを外してどうなると言うのだ。俺はこの才に『パージ』と名をつけた。

『才』を使った戦いにおいて名前は重要だ。それは自分や相手の『才』に対する認識を強化する。『才』が引き起こす力の解像度が高ければ高いほど、より強力にその力を発揮できると言う事だ。

『パージ』についても、ゆくゆくはブラ以外のものも外せるようにと、願ってつけた名前である。


「茶華道部の主将と模擬戦するんだって、また大きく出たな」


後ろの非常扉から見知った顔が出てくる。天パに眼鏡、俺よりも線は細いが身長はやや高めの男、学園で数少ない男の友人である『経久田へくた 和成かずなり』だ。


「勝手に因縁つけられたんだ、たまったもんじゃない」


片メロンパンを頬張り終わると、俺は生徒手帳タブレットの電源を入れる。『木村隼人、評価点-8点、模擬戦予定<2034/9/15>』評価点-8点と言うのがこの学園での俺の全てである。

最初の入学段階では3点だったものが、中間テスト赤点-2点、『才』基礎訓練落第-4点、期末テスト赤点-3点、日常態度によるペナルティ-2点(これについてはほぼ濡れ衣である、そこに透けブラがあって見ない男などいる筈もないだろう)と最終退学ラインまであと2点という所まで来てしまった。

かたや経久田の現在持ち点は2点であり、俺はこいつの座学の優秀さに嫉妬すら覚えていた。

経久田の『才』も『自販機で必ず1円のお釣りが出てくる』と言うしょうもない才でありながら、中間と期末で上位1%の成績を取り、むしろその評価点をあげている。


生徒手帳で模擬戦について検索してみると、シンプルなルールが表示される。

その1、模擬戦はお互いの合意によりのみ行われる、しかしこのルールはほぼ機能していない。なぜなら学園自治法により、全校生徒はもれなく淑女であり、そして淑女たるもの売られた決闘ケンカは全て買うべし、という事になっているからだ。

その2、模擬戦ではお互いの評価点を賭けることが許される、このルールも非常にまずい。ここで雅が2点の評価点を賭け、さらに俺が非情にも負けてしまった時、それはつまり退学を意味するからだ。

その3、どちらかが淑女然とした行動を取らない場合、もしくは取れなくなった場合それを敗北と見なす、もはやこのルールは意味がわかない。俺は淑女と見なされるのだろうか、もし始まった途端に「男だから淑女じゃありません」なんていわれてしまえば……。


ふと、眼前にノートが差し出される。経久田の差し出すその表紙には大きく『雅ウルカ』と黒ペンで書きなぐられていた。


「木村、お前勝ちたいんだろ」


経久田の差し出すそれには、およそ敵の全てと思われるような情報がびっしりと書きこまれていた。

俺はこいつの事をこの日以上に気持ち悪いと思ったことはない。

実際そうだろ、身長体重『才』の詳細、バイト先や初恋相手、果てはスリーサイズや持っている下着の種類まで。はっきり言わせてもらえば、異常である。

しかし今は経久田のクソキモストーカーノートに頼るより他なかった。これがあれば俺は、もしかしたら……。


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異常能力にも程がある ギガ肩幅担当大臣 @averin

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