第19話 突然的な

そんな静かな時間も、長くは続かなかった。


「さて、そろそろ質問に答えてもらおうか。」

沈黙を破ったのは、天時教言あめゆきのりときだった。


「お前が先ほど使った魔術は一体何だ?あれは普通の治癒魔術じゃないだろう?」

彼の声には、まったく揺るぎがなかった。


──そして、それを確実に聞き出すために。

天時教言あめゆきのりときは、花ばあちゃんを休ませ、さらに店の扉に鍵をかける。

シダスが逃げる隙を完全に断ち切っていた。

さらには、ミルまでも証人としてここに引き留める。


彼の意志は明白だった。

──今度こそ、シダスを誤魔化させない。


「確かに、厳密に言えば違うね。」

シダスは肩をすくめながら、気楽そうに答える。

「理論的には君たちの魔術と似たようなものだけど、根本的には別物ってところかな。」


「……なら、それは何なんだ?」

天時教言あめゆきのりときの目が鋭く光る。まるでシダスの魂そのものを貫こうとするかのように。


「うーん、説明するのが難しいんだよねぇ。話したところで、君たちが理解できるとは思えないし、そもそも信じるかどうかも怪しい。」


シダスは何気なくそう言いながら、一瞬、視線を横に流した。


「それに……この話って、君たちにとってそんなに大事なことじゃないと思うんだよね。一生知らなくても、君たちの人生には……うん、たぶん何の影響もないんじゃないかな?」


その瞬間だった。

ミルは、シダスの口調の中に妙な慎重さが含まれていることに気づいた。

特に、「人生」という言葉を口にした時。


シダスは、一瞬だけミルの方を見た。


――今、私を見たの?何故?

疑問が胸の奥に浮かぶが、ミルはそれを口にせず、ただ静かに二人のやり取りを聞いただけ。


「……正直、それは杞憂だな。」

天時教言あめゆきのりときは、冷静に、だが強い意志を込めて言い放つ。


「理解できないからといって、信じないとは限らない。信じるからといって、理解できるとも限らない。」


彼の目がシダスをまっすぐ捉え、静かに続ける。


「それに、『人生に影響はない』なんて、今更言っても遅い。お前がその言葉を口にした時点で──もう、影響は始まっている。」


シダスの瞳が、わずかに揺れた。

「……因と果か。」

その言葉は、彼の口から、他の誰にも聞こえないほど小さく漏れた。


まるで、天時教言あめゆきのりときの言葉に何かを納得させられたかのように。

シダスはほんの少し迷った後、今この場にいる誰もが予想していなかった言葉を口にする。


「……君たちは、すでにこの能力に直接、あるいは間接的に触れているよ。」


シダスは微かに微笑みながら、言った。


「それも今日──私に出会う、もっと前に。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る