第8話

ファンの視線が集まるその人の表情は

真剣そのもので、


部活中はどんなに名前を呼ばれようが

こちらを振り向かない。



あったとしても、ギャラリーの騒がしさを

やんわりと注意するときのみだ。



なにかに夢中な人。


なにかに一生懸命な人。


どうしてあんなに綺麗なんだろうと思う。




誰から見ても先輩の剣道への愛情は

圧倒的なものだった。



部活中以外の学校生活では

剣道の話はあまりしないし、

むしろ皆と変わらない普通の男子高校生なのに。



武道場に一歩を踏み入れた瞬間。




ぴんと伸びた剣道着の背筋が。


美術品を愛でるように竹刀を扱う指先が。


稽古相手を真っ直ぐ見据える瞳が。



先輩を果てしなく繊細に映す。

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