第12話 若き日の血潮

 嘉麻・穂波の地は、晩秋の冷たい風が吹き荒れていた。宗茂は、養父・立花道雪、実父・高橋紹運と共に、朽網鑑康の救援に向かう軍勢の中にいた。

(あの時も、血がたぎるのを感じた)

宗茂は、若き日の己を思い出していた。天正九年、初めて戦場に立った時のことを。

秋月軍の追撃を受け、立花・高橋の軍勢は撤退を余儀なくされた。だが、宗茂の血は、戦いを求めていた。

「父上、道雪様、ここは私が」

宗茂は、二人の父に願い出た。

「宗茂、何を言うか!」

紹運が嗜めるように言ったが、宗茂の決意は固かった。

「このままでは、我らは敵の餌食。私が敵を引きつけます」

宗茂の言葉に、道雪が頷いた。

「良いだろう。宗茂、行け!」

宗茂は、愛馬を駆り、秋月軍の中に突入した。若き獅子の咆哮が、戦場に響き渡る。

「我こそは、立花宗茂!」

宗茂は、得意の槍を振るい、敵兵を次々と薙ぎ倒していく。その勇猛果敢な戦いぶりに、敵兵は恐れをなし、後退していく。

だが、敵の数はあまりにも多かった。宗茂は、深手を負いながらも、必死に戦い続けた。

その時、背後から矢が飛んできた。宗茂は、咄嗟に身をかわしたが、矢は宗茂の肩を射抜いた。

「ぐっ…!」

宗茂は、膝をついた。だが、その瞳には、まだ戦意が宿っていた。

「まだだ…まだ、終わらん…!」

宗茂は、再び立ち上がろうとした。その時、味方の兵たちが駆けつけ、宗茂を庇うように敵兵に突撃していった。

「宗茂様!」

「殿!」

宗茂は、彼らの姿を見て、静かに頷いた。

(皆…)

宗茂は、意識を失い、その場に倒れた。

戦いの後、宗茂は、千人塚と呼ばれる場所に運ばれた。そこには、千を超える死体が積み上げられていた。

(これが、戦…)

宗茂は、戦の残酷さを、初めて肌で感じた。

だが、同時に、宗茂は、生き残った者たちのために、強く生きなければならないと感じた。

(私は、立花家の、皆の希望となる)

宗茂は、心の中で誓った。

そして、宗茂は、再び立ち上がり、戦場へと戻っていった。

若き日の血潮は、宗茂の中で、静かに、だが確実に、燃え続けていた。

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