U.S. Steelよ、どこへ行く――?

藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミック化

第1話 日本製鉄に同情するよねぇ

「米国政府による不適法なUSスチール買収禁止命令に反対する共同声明 ~日本製鉄とUSスチールは法的権利を守るためのあらゆる措置を検討中~」

(日本製鉄ニュースリリースより引用)

🔗https://www.nipponsteel.com/news/20250103_100.html


 えらいこっちゃですわ。こういう(いわゆるM&A)仕事の大変さをある程度知っているので、他人事とは思えない部分がある。


 散々準備して、交渉して、合意して、段取りして、金かけて、人手をかけて……。

 その挙句、バイデン大統領の鶴の一声で中止命令だもんなあ。


 そりゃあないだろうって、言いたくなるだろう。


 そもそも売り手のU.S. Steel側と買い手の日本製鉄側は買収に合意済み。地元も歓迎。従業員ももちろんウェルカムだ。

 反対しているのは国内競合他社と労働組合。


 その状況で最大の懸念材料だった「国家安全保障上の脅威」を対米外国投資委員会(CFIUS)が分析評価していたわけだ。で、散々時間をかけてすったもんだした挙句、「意見がまとまらない」から最終判断を大統領に一任すると丸投げした。


 そりゃないだろう。何のための諮問機関だよ?


 でもって、バイデン大統領が安全保障上の問題を理由に中止命令を出したわけだ。この動きもどうかなあ?


 CFIUSにきちんと仕事をさせるのが大統領の仕事じゃないの? 委員長を後退させるとか、委員を総入れ替えしてでも責任ある答申をさせるって選択肢はなかったのかしら。


 一任されて大統領の名前で中止命令を出した以上、その責任はすべて大統領にある。潔い? いや、大雑把すぎるんじゃない?


 そりゃあね。国の基幹産業に外資が入るということについて、安全保障上の懸念があるっていうのはわかる。そりゃそうだろうね。不安はゼロではないだろう。


 だが、「買収禁止」が解決策なの?


 問題は具体的、個別的に対策すべきではないのか? 基本的には事業の執行内容について「適切に」監視、コントロールする手段があれば良いはずだ。

 そのために株式会社には(たとえ非公開会社であっても)取締役会が存在し、外部監査の手続きがある。


 この辺に関しては日本製鉄側も注意を払い、(万一の)恣意的な事業運営ができないような取締役会構成など、米国側の懸念に寄り添う譲歩の姿勢を示していた。


 それでも信用できない。ダメだというわけである。


 だったら、そもそも何が心配だというのだろうか?


 ・ダンピングなど不当な商取引:これは反トラスト法など、公正な商取引を維持するための法制度が存在する。日本で言えば公取ですね。


 ・親会社である日本製鉄への不当な利益移転:これは移転価格税制など、公正な貿易を維持するための制度が存在する。


 ・買収後の従業員に対する不当な取り扱い:これは労働法で対応すべき問題。


 ・品質の劣化、サボタージュなどによる防衛装備など米国製造業へのダメージ:こんなものは一目瞭然だし、通常の取引内で管理されている問題だ。受入検査とか、品質管理データの提出要請とか、納期管理の徹底・ペナルティ設定とかである。


 ・敵性国家への再売却:これこそその時止めればいいでしょう。


 そうやって考えると、筆者には「国家安全保障上の問題」が買収不可とするレベルにある=対策不可能なものだとは思えない。


 日本製鉄がバイデン政権を強く非難し、法的措置を講じるのも無理がないと感じます。(法的措置を取るのが得策かどうかという判断は、また別のことではあるが)


 筆者自体は本件について特定のポジションを取ろうとするものではない。あくまでも表面に現れた事実、主張を個人の観点から評価するのみである。

 その上で、騒動を遠目に見ながらXでコメントを発しているトランプ次期大統領の発言について、その真意を想像しようというのが本稿の趣旨である。


 次回は日本製鉄側の主張を紹介し、そこに見られるスタンスについて考察してみたい。

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