12.燃え盛る炎と消えゆく光の中で
様々な音が聞こえるはずなのに、アイリスは何も聞こえない感覚に襲われていた。
音のない景色を見ているようであった。自分の早鐘のような鼓動だけがやけに鳴り響いて、自分だけをおいて、世界は消えようとしている。
建物も、人々も、そこにある全てのいのちが、どこへ連れ去られようとしているのか。
「あぁ……神よ……これが世界の終わりか」誰かの言葉が聞こえた。
アイリスも、もうそこに二度と同じ景色が現れないだろうことを感じ、すべての気力が奪われた気がして、地下神殿に入ってからは抜け殻のように地べたに座っていた。
それから夜明けには首都陥落。王宮にアンデの旗が翻った。
地下神殿もあっけないほどすぐに見つかった。抵抗しなげれば危害は加えられないとの敵兵からの呼びかけに、全員が国宝を置いて外に出た。
攻撃が始まった時にアイリスを呼びに来た同僚の女性は、ナイフを手に持ったまま言った。
「首都が終わったのなら、わたしもここで」
しかし、自死を認めない宗教が幸いし彼女の気持ちを押しとどめることは難しくな
かった。他にも自決しようという者はいなかった。
アイリスは思った。
――確かに、命を投げ打つことはしない。けれど、これからどんな目に遭うかによっては……逃げることができない状況で辱めをうけることがあれば……。
そんな考えが去来していた。
その後、アイリスたちは捕虜として連行された。政府関係者や要職についてた者たちは捕虜になるものがほとんであった。
捕虜の中に父の姿を必死で探したが、見つからなかった。
そして、そこから幾日も歩かされ、アンデ国内の捕虜収容所に入らされた。
そうして収容所で半年以上を過ごした。兵士であったものたちは引き続き収容所にいれられていたが、その数が増大しすぎたことや、領土を増やして労働力を欲していたアンデは、一部の民間人捕虜たちを労働者として国内に放った。特に女性はアイリスのように、屋敷の雑用係として雇用されることがほとんどであった。
雇用といっても、安い給金と最低限の衣食住の提供で働くため、奴隷のような扱いだとアイリスは感じていた。
アイリスも例外ではなく、この大きな屋敷で住み込みながら、ひたすらに雑用をこなしていた。
ただ、ルーカスの父親がアイリスの纏う独特の雰囲気に目を止めた。
雑用ばかりの毎日でも、彼女の意思の強そうな瞳は目立っていたのだ。
異国の捕虜同然でやってきた女たちは、その瞳に悲哀があり、また独特な気高さを持つものが多かった。アンデの男たちはそうしたポリシアの女性たちに、男性に従順なアンデの女性にはない魅力を感じ始めたのだ。
ある者は自分の物にしてしまいたいという征服欲に駆られ、またある者は好奇心で目を付け、囲い始めている者たちもいた。
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