9.記憶の中で
「あなた、北部の人?」
買い物の帰り道、近づいてきた女性に、声をかけられるまで気付かなかった。
差別される。そう言われていた。この国に奴隷のように連れてこられたアイリスたちは、ポリシアの出身と知られれば時にひどい迫害をうける。
そう聞いていたアイリスは、なるべく訛りを隠そうとしていた。しかし、つい最近ルーカスと話をするようになるまでは、この国で最初に入れられた収容所を出てからはほとんど誰かと長時間喋る機会がなかったため、自分でも気付かないうちにポリシアの、それも出身の北部訛りが出ていたようだ。
呼び止められたアイリスは警戒した。
しかし、その女性は警戒するアイリスの様子をあらかじめ予想していたように、笑顔で話しかけてきた。まるでアイリスの警戒心を解くように。
二人が出会ったのは、アイリスのいつもの買い物の帰りであった、
屋敷の外では目立った行動を控えたいアイリスは、頼まれたものを買い、籠の中を今一度確認して、近道の公園を通って帰るところであった。
公園には遊ぶ子供たちに、見守る母親たち。
女性は基本的に家事のみをするこの国では、子供を見守るのも母親の役目であった。
そんな様子を複雑な気持ちで見つめながら歩いていたアイリスの歩く速度は、自然とゆっくりとなっていた。しかし、目立つ行動は控えなければ、と緩めた歩をまた速めたところであった。
声を掛けられるまで、気配に全く気が付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます