ヘフミア
OKG
ヘフミア
外語大学にいた橋本さんは、「日本人と留学生による文化交流」というイベントで通訳のアルバイトをしたことがあった。
各国のお祭りがテーマで、日本の夏祭りの紹介が終わった後、留学生に母国の祭を紹介してもらうことになった。
その内のひとり、Fは西欧諸国の出身で、彼は数年前に亡くなった祖父から聞いたという、昔の祭の話を始めた。
その村は長い歴史の中で戦災や開発を経て、今はもう地図から姿を消してしまったらしい。
もともとは険しい山間部にあったその村は、豚などの畜産と狩猟を生業としており、祭は秋に行われた。
それは山の神へ日々の糧に感謝を捧げる一方で、やがて訪れる厳しい冬へ備えるための行事でもあった。
家畜は村の貴重な財産だが、飼料の乏しい冬に全頭を飼育することはできない。
そのため、祭の期間に若い家畜以外は干し肉や燻製に加工し、村人が冬を越すための保存食にするのだ。
祭の期間、村の者は皆、肉の解体や調理、加工に精を出すのが常だった。
だが、その一方、村の若い男たちは、ある通過儀礼に参加しなければならなかった。
それは「ヘフミア」という獣を狩る、というものだった。
ヘフミアは山奥に潜む獰猛な獣で、狩りに出た若者が返り討ちに遭い、命を落とすことも珍しくなかったという。
しかし、その肉は大変美味であり、祭の最後に村の皆でヘフミアを食すのが祭事の成功の証であり、狩りを成し遂げた若者は立派な成人として認められた。
祭が始まると、若者らは山刀や弓矢で武装してヘフミアの狩猟に出発する。
彼らは、年長者からヘフミアの特徴と狩猟の心得を聞かされる。いわく……
ヘフミアの名は、その鳴き声が由来である。
ヘフミアを狩る時は、群れからはぐれたものを狙う。
ヘフミアの爪と舌には猛毒がある。
仕留めたら、すぐに首と四肢を切り落とし、皮を剥ぐ。
処理が遅れると身に毒が回るからだ。
などと、まるで神話やRPGゲームに登場する怪物の退治譚のようなFの話に皆が熱心に耳を傾けていた。
……そんな中、橋本さんはひとつの疑問を抱いていた。
(―――なぜその怪物の姿形については、後世に何も伝わっていないのだろう。
また、彼はそれと共に嫌な胸騒ぎを覚えていた。
彼は在学中、自身が持った様々な国の言語を広く浅く学んでいたが……
(―――「Hilf mir(ヘィフ ミア)」は、ある国の言葉で「助けて」という意味ではなかったか?)
先祖の雄姿を誇らしげに語るFの隣で、橋本さんは自身の想像が間違いであることを、ただ祈ることしかできなかった。
ヘフミア OKG @okeji
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