第2話 非凡の世界

 何処にでもいるただの女学生。私は自分で自分をそう紹介した。しかし、現実にそういう一般名称で説明できる人間などいるわけがない。人は多かれ少なかれ何か特徴なり、性質なりを持っているものだ。私にだってもちろん、それなりの特徴や性質はある。とは言ってもやはり見た目は普通の女学生なのだが、性格は、自分で言うのも何だが聞き分けは良い方だと思う。周りの空気を読むことが出来て、それなりに順応できる。友人は…、少ない方だけど居ることは居る。前述した通り、考え事をすることが多いが、基本的に公共の場ではそれをしない。帰宅時か、一人でいるときにそれをするのみだ。こう記述すると、何処にでもいるただの女学生と言って差し支えは無いのではないかと思う。そう思うと、この平凡な自分という存在が返って、稀有な存在のような気がしてくる。


「この世界に足を踏み込む者には、ここに来る意味を持って来ている」

 突然、前方を歩いていた小人がそう言った。小人は続けた。


「それは、その者の歪みを現している」

「歪み?」

 私は聞き返した。


「そうだ。お前さんは決して平凡ではないのだよ」

 小人はそう言い放った。私はその小人の言い方に少し気を悪くした。


「そもそも、平凡な人間なんていないでしょう。誰だって、多少なりとも歪みなり、非凡なものを持っているのではないでしょうか?」

「フフ。そうだな」

 小人は人を小馬鹿にしたように鼻で笑って、そう言った。


「……それで、その歪みを直せば、ここから出られるのですか?」

 小人は少し間をおいて、こう言った。


「そうだな。直すのも一つの手だ。まあ、そう焦るのではない。まずは自分の歪みとは何か、というのに向き合うことが必要だ」


 自分の歪み……。私は少し考えた。歪みというからには、一般的な基準から逸れた何かを指すのだろう。先も言った通り、私は自分で自分を評価したときに極めて平凡な人間だと思う。それがかえって、非凡だと思うくらいに。


「平凡であるということが返って、一般的にみると、歪みとなるということがあるのでしょうか?」

 私は思い切って、そう訊ねてみた。


「まあ、そう答えを焦ることはない。言った通り、ここはメタファーの世界だ。至る所に隠された意味が転がっている。それを辿っていけば、自ずと自分の歪みにも気が付けるのではないかな」


 小人は、私を試すようにそう答えた。そして、それきり、小人はそれ以上は答えてくれなかった。


 それから小人と私は少し歩いた。ただ、沈黙だけがその場を支配していた。唐突に小人は立ち止まった。


「おや。お前さんの他にもここに非凡な者が迷い込んだようだ」


 私は辺りを見回した。松明が照らす洞窟のごつごつした岩肌が見えるだけで、誰の姿も見えなかった。


「ちょうどいい。お前さん。この子の物語に付き合ってやるといい。そして、導いてあげなさい。そうすれば、お前さんの道も見えてくるかもしれないから」


 小人はそう言って、私の前におもむろに手を出した。私は呆気に取られて、考える間もなかったが、その小人の手を取ってしまった。


 意外と温かい、と感じたのは束の間だった。

 次の瞬間には目の前が真っ暗になり、私は気を失ってしまったのだ。

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A Girl in Wonderland ーメタファーの世界ー まゆほん @mayuhon

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