失恋

 走る。


 走る、走る、走る。


 呼吸をするのがつらい。足を動かすのがつらい。


 早くあの場から消え去りたかった。いっそのこと、この世界から消え去りたいと思うほどに。


 心臓の痛さが、肺の悲鳴が、僕の心の悲鳴をかき消してくれればいいのに。


 よく考えればわかることだ。ふつうに考えればわかることだ。


 偶然、いや、必然だ。

 みんなの憧れの彼は、僕がいることを知っているうえで一途に告白をした。

 わざと、僕に見せつける様に。

 僕に、お前の想い人は、お前なんかじゃなくて、俺の隣にいるほうがいいと伝える様に。

 誰もが憧れる人気者の男の子。

 どんな女の子だって、彼からの告白を断るなんてことはしない。

 誰にだって優しいし、誰にだって好かれる。それこそ、彼の恋敵の僕にだって。

 いっそのこと彼が嫌な奴ならばよかったのに。心の底から憎めるほど、嫌な奴だったらいいのに。


 こんな中途半端な王子様でもお姫様でもない僕なんかよりも、本物の王子様のほうが一途だっていいはずだ。 


 思いあがっていた。

 いつからだ。いつから僕のものだと勘違いしていた。

 隣に立てるのは僕だけだといつから勘違いしていた。


 チャンスなんて、僕にはいくらでもあったのに。

 

 想いを伝える勇気も。


 想いを閉じ込めてあきらめる勇気も。


 どちらも持っていないくせに。


 気づけば、どこか知らない公園にいた。がむしゃらに走っているうちに、ここまでたどり着いてしまったらしい。


 何回も転んだ。何回も躓いた。


 つぶれるようにしてベンチに座り込む。教科書も鞄も何もかもを置いてきたまま走り出してしまった。靴も上履きのまま、土と泥に汚れてしまっている。


 ぼたり、ぼたりと大粒のしずくが手のひらに零れ落ちる。


 誰にも聞かせられない、一途にも聞かせたことのない、人生で一番苦しい声が漏れ出る。


 「一途、とられちゃったぁ……」

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