41Peace 「解答遍1」

「はいよ!」

 その陽気な声の主は、病室のドアを揚々と開け放つや否や俺たちに銃を構えたまま勢い付けて左足の一歩を床に踏みつける。そしてクレア嬢の姿が悪魔的な笑みをわざとらしく顔で讃えていた。

 その勢いで膝丈まである白いゴシックのスカートが、ふわり宙を舞う。

「カシャンッ」

 この本人から、前に少し聞いて実物を見せてもらったことのある。ポンプアクション式な装填機構の銃が、バネとギアと薬莢とが一度に連動するシングルアクションの動作音を、静かな病室に騒々しさを巻き起こした。

 見ると、見るまでもなく俺たちに引き金を弾いた。

「伏せろ!!!」

 俺は柄にもなく、恐らく初めて他人に指示をした。

「ダンッ!!」

 俺はディミトリと、それとオレクサンデラにニコルを庇うように伏せた。何にと言えば、それはグレイの眠るベッドの影にだ。

 なぜ、病人が眠るベッドを遮蔽物に利用したかと言えば。それはこれまでの経験から、単に信頼していたからだ。

 伏せるが早いか引き金が早いか、薬莢の中の火薬が点火して銃身の中の溝を抜けて、その口径の何倍もある火花が散る。一気に部屋に火薬の臭いが広がる。

 しかし俺の耳に届いたのはそういう金属的な銃声とまた別の破壊音だった。後ろを見れば、病室の窓や壁の八割が只の一発で消し飛ばされていた。それで換気され新鮮な空気の強風が部屋に入ってくる。

 すぐ、クレア嬢は銃以外の物質を精製した。

 それは無骨でクレア嬢自身の腕の太さほどたるだろうギッシリした作りで何個ものパーツが同じように繋がって、その先端には手錠や牽引作業用のチェーンとも取れるイカついたフックが備わっていた。それは紛れもなく攻撃型のチェーンだと思った。

「カチンッ」

 重たい、けれど短く後のない金属の音で、グレイの眠るベッドの柵と連結された。無骨で大きさのあるチェーンをクレア嬢は一瞬でベッドと繋げてしまう。

 そして勢いよく引っ張られる。

 キーン。と黒板をつんざくような音が鳴る。ガン、と乱暴にも足でクレア嬢はベッドを止めると同時に銃を変更した。

 さっきのはポンプアクション式で、単発式で高反動のライフルと違う、それを消滅させて生み出されたのは、あの大穴で俺が戦った時に顎へ、冷たく突きつけられた銃身の短いレバーアクション式の――それはショットガンだ。

「おいおいおいおい!」

 俺は戸惑ってみせる、これは気ままなじゃれ合いと違いがないと思っているからだ。俺はしかしこの惨状が病室で行われていることに奮起した。させられたのだ。

 ディミトリはまったく青ざめた様子で、しかし解決に向けて思考しているだろうことが、その目線がクレア嬢や病室の余りの空間を見ていることから分かる。

 オレクサンデラとニコルは初対面で銃をぶっ放すクレア嬢に怯えざる負えない様子だ。身の危険を感じることもムリないだろう。

 しかし、惨状の主犯であるクレア嬢は容赦なく、ベッドに足をかけた姿勢で構え、そしてまたぶっ放す。

「とりあえず壁だ」

 俺はすぐさま全員分の障害物を得意の影操作で召喚する。

 同時に、休ませるつもりのない猛攻が壁を抜けて現れる。

問題支配ミレニアム!!」

 ドン! とわざとらしい足音が真横から鳴る。クレア嬢はこの一瞬で間合いを詰めてきたのだ。そのクレア嬢のまとう白いゴスロリが俺の視界の八割を覆うように、バランッとスカートが舞った。

 その時瞬時に武器を確認した。……!!?

「三八式歩兵銃!!!」

 思わず叫んだ。なぜ?? と言いたくて。

 それはクレア嬢自身が骨董品と罵って、かえって良くかぐわしいとも感想をした。それは誇大評価を自称した東洋国家の産廃兵器と教えられていたあの。その銃だった。

 俺は教えを思い出すことになった。それは恐らくクレア嬢に仕組まれた誘導の最中の行事だ、そしてこれからも策は続くのだろう。


 俺はクレア嬢に銃を教えられた。神父不在になったサックス練習会の時だ。

「銃は通常、こう構える」

 と、最初に短機関銃「PPSh-41」の持ち方を教えられた。

 まず最初に、これは大昔欺瞞ぎまんと仲良しロマンチズムのファシストどもが作った遺作だ。とめちゃくちゃなことを言ってからその説明に入った。

「この銃は塹壕戦で使われる戦略的な武器だから」

 そう言ってまずクレア嬢自身がたち膝になって円盤形をしたマガジンを支え、そういう構えを見せるところから始められた。

 その罵倒と高評価に遠慮のない振る舞いで様々な銃に触らせられ学んだ。

 なぜと聞けば。

「お前にはその理解を持つ義務がある」

 と言うキリだった。

 その言葉は余白を読めと言いたい様子だったし、むしろ半場は強要の域にあったと思う。俺はその一日で多くの銃を触ることになった。

 それは多岐に及んだ。

 その中の一つがこの「三八式歩兵銃」だ。なぜなら、この銃は命中精度こそ高くても威力が低いことが欠点だ。それをこのクレア嬢が自分で言っていたはず。

 だから、なぜわざわざ選ぶのかと惑わされた。

 この艶やかなうるしの輝きと木製の作る。そして無骨な銃身と排莢口の装填駆動で、目立つハンドルの形から搾って撃つ、そういうシステムの美しさを感じさせるボルトアクションを在り在りと、恐怖感を現す銃は、三八式以外になかったと感じた。

 ただ初心者の浅学は、パッと見の判断を助けるほど役立ちはしなかった。

 俺は見逃していた。あとで補習するその銃身のソケット式銃剣の存在を。

「うっ」

 そんな無様な声が漏れる。反応が遅れたことでギリギリを余儀なくされた銃剣の剣心が頬をかすめる。

 それだけが狼狽の理由ではなかった、このあとの手際が圧倒的な差をクレア嬢と俺の間に生み出した。

 ガンッと強くウチ膝を足で蹴られる、ここで二メートルの身体を支える足が崩れかける。

 踏ん張ることに意識を取られ、間髪入れずに頑丈なグリップで顎を打たれる。

 そこをクレア嬢は体重を乗せてタックルした。

 ただのタックルじゃなかった、クレア嬢が大穴での時に見せた運動エネルギーそのものの召喚。それがタックルに何ニュートンも加算されていた。

 想定外の応用と体術に圧倒的される。

「お兄ちゃんをイジメるな!」

 オレクサンデラがそう言ってくれる声がした。でも確かに涙の嗚咽が混じった声だった。小さな子には刺激の強い場面だと反省しかけた矢先。

 しかし、そして俺はクレア嬢に押されて床に倒れた。その時、2人の子供の様子を見れば対極的だったことが分かる。二コルくんは関心なさそうによそを向いていた。

 クレア嬢が俺を押したおした後、三八の銃剣を俺の心臓めがけて振り下ろした。大穴で戦っていた時から首じゃない弱点を見破られていたのだ。

 俺はナイフ作り出し、銃身と下部に押し当てるように衝突させ防ぐ。

 切れ味から木製の下部は瞬時に切断される。

 そのまま押し返そうとするがここにどれだけのエネルギーを乗せているのか、俺の腕力でも押し返せない。

 膠着状態だ――。

「どうした! まさか教えたことを忘れてないよな!」

 クレア嬢は分かりやすく満面の皮肉と焦りを急かすような笑顔で俺に覆いかぶさっている。

「つまりこうしろということだろ」

 俺は余っていた片方の手で拳銃を作り出し、「この距離ならどう撃っても当たる」そういう気で早撃ちを意識しながら打つ。

 バンッの火花を俺が銃口に目撃するとき俺はもう頬を殴られていた。

 同時に腹を蹴ることに成功した。

 でも状況を変えられないことを察してから、クレア嬢の服をつかんで一緒に転がった。銃弾は空を飛んだ。

 もう俺たちは2人で宙を舞った。回転して強く背中をぶつける、勢いで病院の高層階から落下した。

 ココは中枢区の病棟で木造とコンクリートを併用した二十四階建ての施設になっている。

 そこを、十三階から落ちることになった。


 思い出されるあの時。ただ虚空を見つめながら。その横顔が唄っていた。

國亡くにほろびぬ、狼煙のろしゆる、ファシストの、恋人さらふ、武器知りべしかな」

 浸るように――――。

 声をかけることは出来なかった。

 まるでそこにある刃物に惹き込まていくような、囚われた洗脳の途上に生きているような目をして。詩を唄っていた。

 その時の俺は盗み聞いていて、けれどまったく理解できなかった。それが今になってようやく、気持ちの一端を察することが出来るのではないか。

 そう考えてしまって先に落ちていくクレア嬢を見た。


 先に銃を構えたのは俺の方だった。しかし初心者の腕前では10メートル先のクレア嬢に照準を合わせるのは手間取る。そうしている間に、しかし初心者でなくても落下しながら照準を合わせることは難しい話しだと思ったが、けれどクレア嬢はその卓越した射撃のさらに上を言った。

 クレア嬢はただ手足をカラスのように広げるだけだった。それはカラスが着地をするときに地面を仰ぐ動作に似ていて、それの両翼の背中を合わせる角度は見事にカラスを模倣していると感じた。それよりもクレア嬢の軽い躰が幸いしたかもしれない。

 だから一瞬にしてブレーキがかかって。落下中頭上を取っていた俺の背後を取った。

 銃を持った相手に背後を取られることはどういうことかを知っている。イコールで俺がその動きを模倣する必要があることを意味していたから、俺も手足を広げる。

 すると、思っていたよりも真っすぐのまま減速してしまい、クレア嬢の存在性のプレッシャーからつい後ろを振り返ってしまう。それで余計に銃口を目撃して焦ってもがく様に体をひねる。

「やるじゃないか」

 わずかに押しとどめるような微笑の声が聞こえて、俺はクレア嬢を蹴った。おそらく餞別のような気持ちでうけてくれたのだろう。

「なんかごめん」

 つい言ってしまう。

 体をひねったそれが背後でしかも偶然にも地面と垂直だったから、まっすぐクレア嬢の腹を蹴るようになってしまう。完全に実力ではなかった。

 ただすぐに仕返しはやってきた。いきなり真下から現れたワイヤーが加速度を大きくつけて、激しく俺を打ち付けた。グニャリ圧迫するように弾き飛ばされる俺は見た。

 細いワイヤーを塔の装飾的突起に巻き付けて、物語のターザンのように孤形に上がって猛追を仕掛けにくることを。

 対抗して俺はクレア嬢の姿めがけてPPSh-41機関銃を作り出した。

「いいけど、弾丸は私以外には当てないように」

 クレア嬢の注意喚起だった。なるほどそういう部分も抜かりないと思った、しかも俺の武器が消失を自在にすることも知って含んだ言い方だと思った。

 俺は一緒に生成した円盤型のマガジンを鷲掴みにして、塔の壁にピタリと立って踏ん張って機関銃を撃った。

「ダダダダ」

 と無制限に射撃するなかで煙は立たない。火薬じゃなくてどういう仕組みなのか分からないが、打ち出された弾丸を建物に当てないようにしながらクレア嬢を追撃する。

 しかし、朝日が俺の手元を照らして照準が上手く取れない。そして東から覗く太陽が爛々とクレア嬢の姿を覆い隠した。

 次に現れたクレア嬢は塔の壁を垂直に走っていた。

 息をする間もなく、距離が詰まる。もう二三歩という所まできて不意にしゃがむと回転して背中に大きく、朱い長槍を持って現れた。その回転のまま槍を鋭く突き刺した。

 ただその初撃はこの機関銃が狙いだった。

 吸血鬼の特性、妖力のような性質で壁に立ったが、クレア嬢はゴシックな軍服を、回転に揺れて舞いスカートを朝露のように地面の方へしだれさせていた。

 いきなり接近戦が始まった。

 

 機関銃を握っていたら回避ができない。そしてコレを防御に使えるのかは疑問だった。不偏の性質をもつ陰力の物体として作ったコレも、間を縫って攻撃されるだろうことがその迫力から、そして精密な銃に撃たれた実体験から判断する。

「グンッ」

 朱い閃光に見えた。

 激しい槍の勢いが機関銃を捉えて貫いた。と見えて俺は一歩後退したが、実際はトリガーの方にある輪っかに挿しただけだった。

 それを証明するように太陽の逆光のなか槍でグルグルと機関銃に回転をかけて。

 そしてすぐ勢い付けて槍で薙ぎ払いの攻撃を仕掛けた。

 その間に反撃できないかと考えたものの槍のリーチの長さと、幾らでも銃や武器を錬成できることを考えてそれを戸惑わさせられた。

 そして薙ぎの攻撃。俺はナイフを出して応撃しようとして気づくのは逆光だった。逆光が俺の腕から影を無くしていた。

 俺は影がない場所で物を作れない。もちろん俺の背後には塔の壁に投影されて丸くなって続いていく影が伸びている。しかし、今必要なのは自分の手元の今すぐ操れる影なのだ。

 辛くも足掻きを乗せて機関銃を消失させる。

「ゔ」

 なぎ払いを腕で堪える。

 すぐ姿勢を下げて足払いをする。

 簡単に避けたクレア嬢は雨のように槍の攻撃をくり出す。それをうれは西に伸びた影からククリナイフを取り出す、弧状に曲がった刀身の二振りだ。それで槍を弾き返すように捌く。

「カキンッ」

 その金属の薄い刃物が甲高くなる鋭利な音が、連続し従って火花が飛び続ける。

 その鋭さに俺は反撃の機会を伺うことしかできない。

「影の反射率を上げろ! 刀身を薄くしろ! それで容易になるはずだ」

 そう罵声を飛ばす調子で言われてしまう。その通りにする。

 影として真っ黒い状態からグレーより暗い具合になる。包丁ほどの太さに変える。

 すると、槍を捌く動きが円滑になった。ククリナイフが衝撃を受ける度、しなやかに弾けていたからだ。

 しかしそれだけではなかった。

 肩甲骨を大きく稼働させて左右の足で壁を掴み、それを状況によって動かし続ける。それでやっと対処ができている。

 すると攻撃の切れ目に槍の切っ先の方ではなく、重石でもあるボングの方を俺に回転をつけて殴りつける。それは思ったほど重い攻撃ではなかった。肩透かしなほどあっさりした重さのただの、動きだった。

 理由はすぐには分かった。クレア嬢はその動きで落下の続行にシフトしていた。

 そして背後で片手に、槍を高速に回転させて落下姿勢のバランスを取っていた。

 同時にして、片手に狙撃中を作り出し構えていた。格好を見るに「SDVセミオートマチックライフル」つまり軽反動の狙撃中である。

 それを見てすぐ俺は壁を走って追撃する。

 背後にはクレア嬢の訓練のおかげで聞き慣れるようになった、7.62ミリ弾がコンクリートに当たる音が連鎖する。

「お前が破壊するのはアリなのかよ」

「私なら瞬時に補修できるからな」

 

 小言も効き目がなさそうだった。

 しかし回る槍が落下に速度を加えていて思ったほど距離が縮めまらない。その間に二秒間隔のごとに点射で追撃されつづける。

 落下はそろそろ遠くに地面が見えてきた、霧雨の向こうに空が見える気分だった。

 ここでクレア嬢はSDVを消す。そして「UZI」短機関銃を作り出した。

 これで同時に槍を回すことをやめて、そのせいでクレア嬢は頭から、顔で地面を仰いで逆さまに落ちていく。落ちながら見えてもないのに俺への的確な銃撃をやめない。

 ただ若干の意外性を感じる動きがあった。クレア嬢は槍を壁に刺したのだった。

「機関銃はね」

 クレア嬢は言う。

「火薬で前に火を噴くから推進材になるのよ」

 だから。そう話しながら接近しつつある俺の前で槍で鉄棒の器械体操のように掴まって回りはじめた。

「壁とのこの距離を得るために!」

 そうか、と思った。銃弾は壁と並行に飛べば空に向かっていくが、壁に当たるのはわずかに壁と角度を持っていたからだ。そして俺は接近することに必死になるあまり気づかなかった。この落下が始まる前から、いや壁に大穴を開けたときから全て計算ずくだったのかもしれない、と思わされた。

 

 そして、クレア嬢は朱い槍の上に立った。

 なぜか手の中の銃を無視して俺の方に槍を投げる。

「最終確認だ」

 言って、それと手の中にワイヤーを作り出した。

 それは滑車がついて分厚くホールドされた状態ので、槍の方に引っ掛けていた。それでワイヤーに乗ってグングンと上へ上へ上昇していく。

 そういうシステムの機械らしい。

 最終確認。の意味を汲み取ることに苦労した。そして時間を置かずに放棄した。

 クレア嬢にはよくある謎めいた言動だった。

 ただ、クレア嬢はその機関銃「UZI」を、登りながら撃った。

 つられて、俺は「ピースメーカー」とクレア嬢に教わったマグナム銃「コルトM1873」というものを二丁作る。

 何もかも教わった物ばかり、状況によって扱えと言われている。今のこれはその演習なんだと思っている。

「バンッ」

 そういう弾が弾き出される音が、耳をつんざくように左右の手から連発される。これは反動の扱いが簡単だった。

 そういえばクレア嬢は、生成した物の持つ重さを無視できる性質があるらしかった。大穴の時に教えられていた。

 だからどれだけその銃を撃ち放っても、決して標的を逃したり疲れるようなことはないのだ。

 そうやって向けられる銃口から俺は逃れ続ける。そしてピースメーカーをあらゆる角度から、飛び回りながら撃っていく。

 しかしどれも当たることがなかった。俺の射撃技術の未熟さが心底知れた。

「遠くで当たらないなら簡単な答えがある」

 クレア嬢の合理主義に感染した。と思った。

諾歩陰だほう!」

 壁面をえぐる脚力が跳躍を助ける。陰力粒子に足首が分解される。おかげで皮膚表面下に張り巡らされた影の鎖帷子が解除される。

 たった一回、日に晒して俺の左足は大火傷を負って炎に包まれる。炎から肉が焼ける煙りが後ろへ狼煙を引いた。

 しかし一直線の矢のような接近を行えた。

 狙いを定めた俺のピースメーカーは弾切れを知らない。

 やがてクレア嬢は槍を投げたその高さまで着いた。

 でも、弾を防ぐはずのクレア嬢はそれを片手間の槍捌きで弾き続けていた。回転させるような茶地なそれではなく、的確に弾頭だけを切っ先で切断する。やがて何十も向かいくる全てがその槍の錆になる。

「もういいさ」

 その言葉は呆れたような、でも嬉しそうに上がった口角の独特な言葉だった。その微妙さが俺にはよく分からなかった。

 とりあえず俺は武装を解除する。

「終わりなのか」

「ああそうだ」「作戦終了だ」

 追いついた俺は慎重な言葉で聞いた。そしたらあっさり頷く。

「よかった――」

 それを聞いてやっと、理解する。

 クレア嬢という存在の、喜怒哀楽の一文字目を、底にあるものをやっと理解できたきがした。

「ピースメーカー、なぜアレを選択した?」

 二言目にはそう言われた。

「マグナムでも、単発式拳銃もコルトのMナンバーも他にたくさんあった中で」

 理詰めするのとは違う、懐疑心とも違う。どういう行間があってそういう質問になったのか分からないけれど。声や顔から真面目さが伝わる。

「どうって」

 少し吃って、内省的に考えをめぐらす。

「やっぱり、聞こえがいいからだ」

 俺は主語が抜けていることに気づいて言う。

「ピースメーカー」

「ピースメーカー」

 偶然、被った。そして二人で笑った。


「さて、試験結果だ」

「やっぱり試してたんですね」

「当たり前だ」

 それでクレア嬢から見た洞察の沙汰が語られる。

「今まで、ナイフばかり作っていたんだろ? 能力で」

 頷く。

「そして自分のチカラの性質に気づかなかった」

 これも、悔しいが事実だから頷く。

 教えられる時はこれがいつもだから、詩の下句にある「武器知りむべし」とはそのまま知る義務という事なのだろう。 

「見たところティネスの能力は、実際のところ金属に近い剛性を持っているんだよ」

「そして、形状に応じてそれなりの弾力と役割りを負うことができる」

 戦術として素晴らしいことだ。と言われる。

「しかし、状況に応じた使い分けは賞賛に値するぞ」

 これも頷いた。ずっと、戦いで得意としてきたことだ。

「以上だ」

 そう言いながらワイヤーに捕まりながら、指を指す。

 上の、おそらく13階の病室を指して。

「戻るぞ、ひとつの愛を知る為に」

 それでクレア嬢はニヒルに微笑した。

 俺はその笑みを見ながら考えた。

「自分で武器を知る義務」とは、そこにある目的はどんなものなのだろうか。

 だがこれは朝に、霜が降りる理由ほど気をひいて掠める。よぎるだけだった。

 俺はこのあと知る。

 この女性のチカラの理由を知ったら、この笑顔がどれほど強さの現れなのかを考えることになった。

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