大蛇を掻い潜れニャ!
次の日、マサカリの案内でマタタビ亭のある森の近くまでやって来たユキとギン。時間はかかったが、ここまで来ればマタタビ亭はもう目の前だ。
「あそこの森が、マタタビ亭のある『うすぐらの森』だ」
「ついにここまで来たのニャ……待ってろニャ! 伝説のねこまんま〜!!」
「オレが案内できるのはここまでだ。ここから先はお前たちで行け」
「ありがとうニャ。恩に切るニャ」
「オレも昨日は楽しかった。また会おう」
2匹はマサカリに別れを告げ、ついにマタタビ亭のある、うすぐらの森へ足を踏み入れた。
名前の通り、薄暗く不気味な森だった。草木が揺れるガサガサ音が鳴り響き、生ぬるい風が背筋を撫でる。
しばらく歩くと、大きな看板を発見した。その看板には大きく『だいじゃにちゅうい』と書かれている。
「だいじゃ? 何のことだニャ」
「ギン、わからないのニャ? だいじゃ……つまり、『大ジャー』! でっかい炊飯器のことだニャ! でっかい炊飯器に入ったご飯は1匹じゃ食べきれないから、注意しろってことだニャ!」
「ほ、ほんとかニャ……?」
能天気なユキと、どう考えてもそんなわけないと呆れるギン。そしてそんな2匹の前に、その『だいじゃ』が姿を現す……
「ん? なんかブニッとしたニャ」
ユキが不思議な感触に違和感を覚え足元を見ると、そこには白くて太い何かがあった。
「何ニャ? それ」
「きっと、でっけぇうどんだニャ! こんなうどん初めて見たニャ! いただきまーす!」
ユキがその白い何かに噛み付いた、その時。
「痛ぇぇぇ!!!」
「ギャアアア!! うどんが喋ったニャアアアア!!!」
声がした方を見ると、大きな蛇の頭がこちらを睨んでいた。
鋭い牙と、チロチロと出入りする二股の舌。何よりその大きさ。ユキとギンなんて丸呑みにできそうな大きな顔をしている。
大蛇は2匹を睨みつける。どうやらものすごく怒っているようだ。
「うどんな訳ねぇだろ……このオレ様の体に噛み付くとはいい度胸だ。食ってやる!」
大蛇は大きな口を開け、ユキとギンに迫った。
「「ギャアアアア!!」」
2匹は泣き叫びながら、全力疾走で逃げ出した。だがどんなに逃げても、大蛇はすごいスピードで追いかけてくる。
「太ってて食いごたえがありそうだ! どっちから食ってやろうかな〜!」
「勘弁してニャ〜! 食べるのは好きだけど食べられるのは嫌だニャ〜!」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないニャ! 早く逃げるニャ!」
頑張って逃げ続けるが、薄暗い森の中は足元が見えづらく走りにくい。今は何とか逃げ切れているが、これでは追いつかれるのも時間の問題だ。
(何か手はないかニャ……あっ!)
ギンは折れかけている木を見つけた。かなり太いが、少し衝撃を与えれば簡単に倒れそうだ。
一か八か、ギンはその木に突進した。すると予想通り木は傾き、2匹と大蛇を分断する形で倒れた。
「何ッ!?」
「今のうちに逃げるニャ!」
ユキの手を引っ張り、ギンは猛スピードで森を駆け抜けた。その甲斐あって何とか大蛇を振り切った2匹だったが、あの大蛇がいる限りマタタビ亭には近づけない。
どうすればいいか頭を悩ませるギンに、ユキの泣き言が聞こえてくる。
「……ギン、もう帰るかニャ?」
「え?」
「さすがに危険過ぎるニャ。命が無いと、食べたい物も食べられないニャ。だから今回は……」
「何言ってるニャ!!」
ユキの言葉を遮るように、ギンの怒号が響き渡る。
「らしくニャい事言うニャよ! ユキ兄は、そんな簡単に伝説のねこまんまを諦められるのかニャ!?」
「それはそうニャけど……このままだと、ギンも危険だニャ。だから」
「僕のことを考えてくれてるなら尚更ニャ! 一緒にねこまんまを食べるって言ったのはそっちだニャ! 責任持てニャ!」
「ギン……」
「食べ物のために頑張るのが、ユキ兄の良いところだニャ。だから、諦めてほしくニャいんだニャ」
「……わかったニャ! 頑張るニャ!」
ギンの言葉によって、目を覚ましたユキ。そんな2匹の前に、再び大蛇が現れた。
「見つけたぞ!」
2匹は再び逃げ出した。だが今回はただ怯えて逃げている訳ではない。ねこまんまを食べたい強い思いで、2匹は大蛇を振り切っていく。
「なんか、体が軽いニャ!」
2匹のスピードはどんどん上がり、大蛇との距離が縮まっていく。
そう、2匹はここまでの過酷な道のりによって、痩せていたのだ。身軽になった2匹に、大蛇は追いつけなくなっていた。
すると2匹の前方に、木と木が折り重なってできた小さな穴が現れた。今までの太い体なら通り抜けられなかっただろうがら今なら……
「「ニャ〜〜〜!!」」
2匹は穴を潜り抜けた。それを追いかけていた大蛇も穴を潜ろうとしたが、顔が大きすぎて口が穴に嵌ってしまい、身動きが取れなくなってしまった。
「「やったニャ〜!」」
こうして2匹は、見事に大蛇を打ち負かすことができたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます