第18話

 修学旅行から二ヶ月。季節はすっかり夏だ。


 太陽はジリジリと地上を熱し、蝉たちが我が一番と言わんばかりにけたたましく鳴いている。


 最近では登下校の間に大量の汗が流れるのでタオルを手放せない。


 期末テストも終わり、夏休みまで残すところ数日。今日は帰りのホームルームで進路希望表が配られた。


「今回も進路希望を配ったわけだが……。お嫁さんに行くヤツ以外は出せよー」


「せんせー、お嫁さんを貰う予定のない人も出した方がいいと思いまーす」


「余計なお世話だよ!」


 生徒の挑発に川添の素早い返しが飛ぶ。教室は笑いの渦にのまれた。


 アルトは手元のプリントを見つめると、改めて受験生だと実感した。


 授業中やテストで入試の過去問を出されることも増えてきた。


 川添は教卓に手をつきながら、反対の手で紙を掲げている。


「夏休みに入る前に三者面談を行うから、その時までに記入して提出するように! 忘れたら取りに返ってもらうぞ」


 これは中二の終わりから定期的に配られるようになったが、アルトはいつも白紙で出していた。






「アルトの成績なら普通レベルの高校はどこでも行けます」


「あらそう~。アルトやるじゃない」


「普通レベルなら別に……」


「どこでも、よ? 立派なことじゃない」


 教室の後ろの方に机が四つ並び、アルトたちは川添と向かい合うように座っている。


 三者面談の日は律子が学校へ来た。これまで弦二郎と二人で交互に来てくれた。


「イサギ君が進路担当で安心したわ」


「本当ですか? はは~」


 窓は全開で、部活をしている生徒たちの元気な声が飛んでくる。


 三者面談の期間は午後からずっと部活なのがだるい、とテツが話していた。顧問の川添がいないのはいいけど、とも。


 彼との関係は相も変わらず。事あるごとにちょいちょい絡まれ、期末テスト前に数学を教えてもらった。今回は双子も一緒に。パン屋へは妹と愛犬と一緒に買いに来てくれる。


「それで……。アルトは卒業したらどうしたい? 毎回白紙なんだが……」


「どこの学校に行きたいとか、分からないです。やりたいこととかもないし……」


「それを高校で見つけたらいいんだよ。高校に行く気はあるんだろ?」


「それは……。はい」


 高校には行く、というのは漠然と考えていた。


 祖父母に相談しても”アルトのしたいようにしなさい”と言うだけ。双子にどこの学校にするのかと聞いたら、”迷ってるんだよね”とはぐらかされた。


「アルト。この学校はどうだ?」


 口をつぐんだアルトに、川添がパンフレットを差し出した。それは市内にある大きな私立高校。この中学からも進む人が多いと聞いたことがある。


「お前の成績ならこの学校に特待生として入れる。学費や入学費が免除になる。でも俺が勧めたい理由はそれだけじゃないんだ」


 彼はパンフレットを開いた。


 これまで何校かパンフレット造りを見たことがあるが、私立の校舎はどこも立派な造りだ。ページ数も多い。モデルを起用して本格的な撮影をしている高校もあると聞いた。


「ここの私立は進学校じゃないから卒業後の道はいろいろある。何より人数が多い。ー学年に三百人もいて、部活もたくさんある。ここでならアルトが入りたい部活が見つかるかもしれない。友だちもたくさんできるだろうな」


「ハルヒちゃんとミカゲ君以上に仲良くなれる人ができるかもしれないわね」


 パンフレットに載っているのは学校生活を楽しむ生徒たち。誰もがひまわりのような明るい笑顔を浮かべている。


 部活中、学校行事、はたまた授業中でも。


 まるでアルトを新しいステージへ誘っているようだ。


「そうそう、アルトはこの一学期で友だちが増えたんですよ。休み時間に一人でいるところを見たことがないんです」


 川添に褒められた気がした。アルトはうつむき、”皆がおしゃべり好きだから……”と謎の言い訳を並べた。


 この一学期は双子や華たちのおかげで楽しかった。人生の中で特に思い出に残る瞬間だったと思う。


 アルトはそのパンフレットを持ち帰ることにした。話を聞いていたら心惹かれてきたのだ。


「またいつでも相談してくれ。夏休みの間にゆっくり考えてくれたらいい」


 川添の声に立ち上がると、川添が律子に向かって頭を下げた。


「今年も市内大会の差し入れありがとうございます。毎年皆、楽しみにしているんですよ」


「こちらこそご注文ありがとうございます。作り甲斐があるわ~」


 アルトは川添に”今度は進路希望書いてくれよ”と言われながら教室を出た。


 廊下の窓のすぐ下には椅子が並べられ、開放感がありすぎる待合室になっている。


「おっアルト」


「肇」


 肇だ。部活中だったはずだが制服を着ている。三者面談は体操服での参加を禁止されているからだ。


 彼の横には母親が座っていた。前髪を横に流した彼女は、アルトたちに気がつくと笑顔で会釈した。


 肇とは三年生の始めまでバチバチだったので、その保護者と顔を合わせるのは少し気まずい。


 だが、これだけは彼に言っておきたい。


「……華と同じ高校に行くの?」


「るっせ!」


 すれ違いざまにささやいたら腕をはたかれた。数ヵ月前まではこんな気軽に話せるようになるとは思っていなかった。


 じゃーね、じゃーなと別れて律子と帰路につく。最近は日差しがきついから、と律子は日傘を差した。


「ばあちゃんはアルトの決めた道ならなんでも応援するわ」


「……うん」


 今の自分ならどんな相手とでも仲良くなれるだろうか。全く新しい世界に飛び込んでもうまくやっていけるだろうか。アルトは受け取ったばかりのパンフレットを握りしめた。


 最近は双子やタイムつながりじゃなくても話せる人が増えてきた。変な緊張もしないし、楽しいと思える。


 今までと違う環境に身を置くのは今なら怖くない。むしろ興味がある。部活に入るのもいいかもしれない。


 汗が吹き出し、耳の前を流れる。手に持ったタオルで拭うと自宅のパン屋が見えてきた。


 ベルの音と共に店に入ると、エアコンが効いており涼しい。いつもは厨房にいることが多い弦二郎が律子ポジションについている。


 ただいま、と声をかけると冷たい麦茶を出してくれた。


(そういえばパン屋ってどうなるんだろう)


 店先の椅子に座るとふと、店の将来が気になった。


 律子も弦二郎も年齢を感じさせないので、いつか来るであろう世代交代のことを忘れそうになる。


 後を継ぐとしたら叔母の響子かアルトだろうか。だが、響子は響子で仕事一筋なので地元に戻る気配はない。


「パン屋はこれからどうするの?」


「夏休みに入るから子どもたちに人気のパンをたくさん焼かないとなぁ」


「そうじゃなくて……。二人が引退したらどうなるの?」


「何言ってるのよアルト。私たちは生涯現役よ!」


「あ……そっか。そうだよね」


 もちろんそうであってほしい。アルトは麦茶が入ったグラスに口をつけ、パンの耳のラスクに手を伸ばした。


 ”イサギ君は何か言ってたか?”と弦二郎に聞かれ、それ以上踏み込むことはやめておいた。











 夏休み一発目のイベントは市内大会だ。


 市内大会は市内のあちこちで行われる。市のスポーツセンターや体育館、大きなグラウンドや体育館がある学校などで。


 アルトが向かったのは市のスポーツセンター。


 祖父母たちは市の大きな体育館へ配達に行った。


 祖父母と別々で配達に出るのは初めてだ。こうなったきっかけは双子がアルトの家に遊びに来た時のこと。


『今回は他の学校からも注文が入ったのよ。ウチのパンがおいしいって聞いたんですって』


『すっごーい! ナイス口コミですね!』


『でも配達が大変になるわね……。ウチは車が一台だし……』


 律子は宿題に手をつけているアルトたちにとうふドーナツを差し入れした。これは店で出そうか試作しているおやつだ。


 彼女の困った表情に、ミカゲがある提案をした。


『それならウチの父さんにお願いしましょうか?』


『でも……。お忙しいでしょう?』


『俺たちの夏休みに合わせてしばらく休みなんですよ』


『配達とか超喜びそうじゃない? 私もお手伝いしたいし!』


『たまにガキっぽいところあるもんな』


 ということで双子の父、マコトが車を出してくれることになった。


 当日の朝のこと。パン屋の前に白い大きな車が止まったと思ったら、巨人が出てきた。服装はラフで、シンプルな半袖のシャツの前を開けている。


 巨人は真っ黒なサングラスをかけ、長い足でパン屋の前に歩み寄るとサングラスを外した。中学生の子どもがいるとは思えない若々しさに、律子たちは立ち眩みを起こしそうになっていた。


 緑がかった黒髪はミカゲにそっくりで、授業参観に来たら騒がれそうだな……とアルトは想像した。


 その後は車の中であれこれ話していたら、あっという間にスポーツセンターに到着した。


 ここは球場や陸上競技場など、広いスポーツ施設が集まってできている。市内のあちこちから応援に来る保護者たちのために、大きな立体駐車場もある。


 アルトたちは特別に大会関係者として、サッカースタジアムのそばにある平面駐車場に案内された。


「アルトちゃん。遠い球場は俺とミカゲで行ってくるよ」


「ありがとうございます」


 車の後ろからパンが詰められたばんじゅうを取り出すと、マコトが振り向いた。


「じゃあ私たちは陸上競技場に行くね。その後、サッカースタジアムで合流ね」


 ハルヒは予備の車の鍵をマコトから受け取り、二組に分かれた。


 ここからは比較的近い陸上競技場に入ると、熱気に包まれた。日差しが強いから、というのもあるが、応援席の熱量がすごい。


 ものすごい歓声にお互いの声が聞き取りづらくなる。アルトは指で方向を示すと、ばんじゅうに貼られたメモを見た。アルトたちが通う中学とは別の学校名が書かれている。


『ここはアルトのお父さん、トウジ君の出身中学だよ』


 もし、両親とあのまま平和に暮らしていたらアルトが通っていたかもしれない。


『あの頃、歌子うたこもアルトみたいに配達を手伝ってくれた。歌子はトウジ君とその時に知り合ったんだよ。彼はハードル走の選手だった。一目惚れして電話番号を聞いて、夏祭りに誘っていたなぁ……』


 歌子はアルトの母。彼女は地元の男子には目もくれなかったのに、トウジにはぞっこんだったらしい。


 歩いているとその学校名が書かれた体操服を着た生徒たちを見つけた。皆、立ち上がって拍手をしている。


 彼らの後ろでは保護者たちがトラックにスマホを向けていた。


 応援の邪魔はできない……と話しかけるタイミングを計っていたら、保護者の内の一人に話しかけられた。帽子にアームカバーに、と日焼け対策ばっちりだ。


 店の名前を出されると、ハルヒがノリノリで”毎度ありがとうございまーす!”とばんじゅうを差し出した。






 アルトたちは一度車に戻り、再びばんじゅうを取り出す。次はプール施設に向かった。完全屋内でクーラーが効いていて、どの会場よりも涼しかった。


 最後はサッカースタジアム。また車に戻ると、ミカゲたちが球場から戻ってきたところだった。


「ミカゲたちが通う中学はサッカーが強いんだってな」


「タイムたちが入学した年から、だってさ。その年に初優勝したらしい」


 四人でばんじゅうを持って行くと、グラサンで前髪を上げた川添に出迎えられた。ちょうど前半戦が終わったところらしい。ユニフォームに身を包んだ十一人は、芝生の上やベンチでスポーツドリンクや麦茶をがぶ飲みしていた。


 もちろん、と言うべきか。タイムやテツはレギュラーメンバーとしてベンチ側にいた。ベンチの後ろは客席のようになっており、学校の関係者が入れるようになっている。


 一瞬、タイムと目が合ったような気がしたが彼がこちらに来ることはなかった。


 汗で髪が額に張り付いている。フィールドを見据える目は鋭かった。いつもの穏やかな表情からは考えられないほど、真剣な顔つきをしている。


 真っ赤なユニフォームがよく似合っていてかっこいい。仕事中ではあるが、彼の応援に来ることができてよかった。


(ヤバい……。無理)


 ユニフォームの裾で汗を拭う姿が意外すぎて目を奪われた。裾がめくれて腹部がのぞき、いけないものを見てしまった気分になる。


 そのギャップにハルヒが言いそうな語彙力のない感想しか出てこない。彼女だったらこれに加えて顔を手で覆って天を仰いでいただろう。


 アルトは持っているばんじゅうの端を握りしめた。


「ハルヒとミカゲがお世話になっております。双子の父です」


 横ではマコトが川添に挨拶していた。すると、部員たちから”おぉ……”とどよめきのような声が上がった。彼の等身の高さに驚いているらしい。


 サッカー部は人気なので人数が多い。ユニフォーム姿なのは三年生と一部の二年生。他の二年生と一年生は体操服姿だ。


 彼らにパンを配ると口々にお礼を言われた。川添の教育のおかげか、黙って受け取る生徒は一人もいなかった。


「アルト!」


 少し観戦していくか……と時計を見ていたら、呼ばれたような気がした。振り向くと、私服姿の華とショウが手を振っている。少し離れた座席でハンディファンの風を浴びていた。


 二人はバスケ部。バスケの市内大会は来週、市の体育館で行われるらしい。


 アルトたちは二人の後ろに移動すると腰かけた。広いスポーツセンターを歩き回ったので、短時間でも座れるのはありがたかった。


「応援?」


「肇に誘われたんだよ」


 多めに持ってきたパンを二人に渡すと喜んでもらえた。


「肇ったらラッキーだね! ほとんどの部活が今日大会なんでしょ?」


「そうそう」


 アルトとハルヒでコソコソ話していたら、華はフィールドを見つめて拳を握った。


「サッカーって見てるだけでも楽しいけど、ボール蹴りたくなってくるね……」


「華ったらサッカー少女時代の血が騒いだ?」


「うん。第一志望に行けたらサッカー部に入ろうと思ってるの」


「肇のヤツ……。せっかくのお誘いが違う方向に働いちまったな」


 ミカゲがボソッと放った一言にハルヒが吹き出した。アルトもこくこくとうなずく。


 やがて後半戦が始まった。ホイッスルと共にタイムがボールを蹴り、肇にパスする。


沢田さわだくーん!」


井下いのした君ファイト!」


 隣から黄色い声が聞こえ、肩が跳ねた。驚いたアルトは顔を横に向けた。そこには他校の生徒たち。客席にいる女子たちも私服姿で、一際大きくフィールドへ声を届けている。


 その歓声はもはや応援しているだけには聞こえない。というか他校の選手を応援していて大丈夫なのか。


「沢田って……肇じゃん」


「意外だね。モテるんだ……。テツならともかく」


「アイツ、顔はまぁまぁだしな」


 三人で静かに分析していると、華とショウは選手たちの名前を順番に口にしながら応援し始めた。さすが運動部なだけあって声に張りがある。


 華が肇の名前を口にした時、彼の走る速度が速くなった気がした。


「紺野君! かっこいー!」


 タイムの苗字に再びアルトの肩が跳ねあがる。隣の客席には女子が増え、ほとんどがその名前を口にしていた。


 しかし、今日はそのどれにも気が立つことはなかった。


 彼女たちが口にしているのが彼の苗字だからだろうか。彼女たちと違って名前を知っている優越感からか。


 タイムの姿を追うと、ヒデからボールを受け取って相手のゴールへ疾走していた。しかし、それを阻もうと相手選手が襲いかかる。


(タイム……)


 手に汗握る思いで彼を見ていたら、ハルヒに脇腹をつつかれた。


 大事な場面なのに……と横を見ると、腕を引かれて客席の一番前に連れていかれた。ベンチのほぼ真後ろだ。


「ちょっとアルト。タイムの応援しなきゃ」


「う……。恥ずかしいから無理」


「タイムたちに勝ってほしいでしょ!? 最高の夏を迎えてほしいでしょ!?」


「それはそうだけど……」


「はい声出す!」


 珍しくハルヒが熱い。おちょくっているようにも見えなかった。


 アルトはスコアボードを見上げた。相手とは一点差。少なくとも二点は取らなければいけない。


(私の応援でどうにかなるか分かんないけど……)


 一瞬、ネガティブな感情がよぎった。恥ずかしい、目立ちたがり屋と思われるんじゃ、タイムのことが好きだと疑われるんじゃ。


「紺野くーん! 付き合ってー!」


「何言ってんの!? どさくさにまぎれて告白すな!」


「だってこうでも言わないと反応してくれなさそ……」


「頑張れ! タイム!」


 気づいたらお腹の底から声が出てた。目を開き、彼のことをまっすぐに見つめて。客席とベンチを隔てる柵を握る手に力が入った。


 彼には聞こえないかもしれない、と思ったがアルトの声は意外と目立っていた。それまで独自の応援をしていた生徒たちを黙らせてしまうほどに。


 後悔はしていないが恥ずかしい。帰るために振り向くのが怖い。


 後ろを向けず、かといって前を向くこともできず。誰か早く何か言って、と願ったその時。


 鋭いホイッスルの後に、周りから歓声が上がった。


「やったー! ゴール!」


 ハルヒが抱きついてきたことでタイムがゴールを決めたことを知った。その瞬間を見れなかったのは悔しいが、点差を縮めることができてよかった。彼女はハルヒの興奮気味な声にうなずき、フィールドに目を向けた。


(あ……)


 タイムがこちらを見ていた。いつもの優しい表情に安堵の笑みをのせて。


 アルトがどう反応したらいいか迷っていたら、彼は手を振った。アルトの声が聞こえたと言っているのか、耳に手をかざしている。


「紺野君がファンサしたの初めてじゃない?」


 隣の客席からそんな声が聞こえた。


「まさか」


「本当だよ。私ずっと推してきたもん」


「もしかしてあの子、彼女なんじゃない?」


 彼女という単語に聞こえてないフリをする。フィールドを見つめていたらテツが半目でこちらを指差した。あんなデカい声出すキャラじゃないだろ、と言いたいんだろう。


「よかったねアルト! 今の絶対アルトの応援のおかげだよ! ほら、彼女ヅラしておきな!」


「や、やめっ……」


 ハルヒが隣の客席に顔を向かせようとしたので、再び柵を握りしめた。


(よかった……。タイム)


 いつしかのように顔が柔らかくなるのを感じた。最近は鏡を見たくなる瞬間に鏡がない。






「はは! 青春だな! ……あ」


 マコトはアルトとハルヒのことを見つめ、大きく笑った。おとなしいと思っていた幼なじみの声には驚いたが、一生懸命で可愛いと思った。


 が、重大なことを思い出した。笑わない幼なじみは息子の想い人だった。


 隣を見下げると、ミカゲは微動だにしない。


 タイムという少年は初めて見たが、アルトと特別な関係であることは分かる。自分とリラほど明確なものではないが。


 きっとそれをミカゲは分かっているのだろう。おそらくアルトの一番そばにいるから。


(その痛みも青春だよ……)


 マコトは目を閉じると、静かに息子の肩に手を置いた。

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