第3話 帰ってきました!

 早く元の世界に帰りたかったから、浄化行脚はかなり強行スケジュールだった。


 少し休みましょう、と周りに言われても私はペースを落とさなかった。

 だって、元の世界で私はどういう扱いになってるのか不安だったから。

 もしかして、トモくんがいなくなった私を忘れて他の人といい関係になってたらどうしよう。

 想像しただけで、泣きそうになる。


 でも、そう考えてたのは最初だけで、強行スケジュールのおかげか余計なことは考えないようになった。

 そして、浄化部隊の人たち、行く先々の人たちとの交流を楽しむことができて、その中でもライナスとはかなり仲良くなった。

 まさか惚れられるとは思わなかったけど。



 聖女としての役目を遂行中は、毎日忙しくしてたから、余計なことを考える余裕もなかったけれど、役割を終え時間ができた今は、いろいろと考えてしまう。


(早くかえりたいなぁ。)



 あれから数日が過ぎ、元の世界に帰る手筈が整ったと連絡がきた。


 お世話になった人たちにお別れの挨拶をすませて、心を落ち着かせる。

 いざ帰るとなるとやはりさみしい気持ちになる。

 特にライナスに関しては、あれから更に3回もプロポーズをしてきたから、私がいなくなったあと大丈夫か心配にもなる。

 でも、一国の王太子、どこかのお姫様でもお嫁にもらって、将来は立派な王さまになってほしい。



 私は今、帰還の魔法陣の中央に立った。

 お世話になった人たちが周りを囲んでいる。


「佳奈、お役目ご苦労であった。あちらに戻っても達者でな。」


 王さまが声をかけてくれる。


「ありがとうございます。」


 そう返事をして、王さまに頭を下げて挨拶をする。


「皆さん、お世話になりました。ライナス、あなたも元気でね、幸せになってね!」


 魔法陣が光り出す。

 王さまの隣で静かに微笑んでいたライナスは、私に向かって声を掛けた。


「佳奈、またね!」


(またね???)


 その瞬間、まぶしい光に包まれて、私は目をつむった。

 フワッとした浮遊感、それから光が少しずつ消えていく感じ。


 私はゆっくりと目を開けた。


(!!!!)


 ここはあの時のレストラン。

 私は、同じ部屋で紅茶が乗るテーブルを前に、あの時と同じように座っていた。

 手には赤いバラの花束を抱えている。


 顔を上げると、前の席にはトモくんが座って私を見ていた。


「トモくん!」


 慌てて椅子から立ち上がろうとして、膝をテーブルに打ちつける。


(い、痛い・・・。)


「大丈夫?」


 トモくんが席を立って私の方にやってきた。


「大丈夫。トモくん、私・・・。」


 何から話せばいいのかわからない。

 オロオロする私に、微笑みながらトモくんが言った。


「何も言わなくても分かってるよ。」


(ん???)


「ね、すぐに会えただろ?」


(ん??????)


「佳奈がやっとプロポーズを受け入れてくれて嬉しいよ。」


 まさか、あちらからこちらへ追いかけてくるとは、すごい執念、参りました。

 しかも時間軸が捻れてるっていうね、まあ最終的にうまくいったのだからいいのかな?


 1年後、無事?結婚式を終えて、私たちはトモくんの実家の離れに住んでいる。

 そして、母屋には、王さまとラルフさん、じゃなくて、お義父さんとお義兄さんが住んでいる。



「佳奈、僕たち幸せだね。」

「そうだね。」


 毎日、幸せな日々を過ごしている。


 完



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すぐに帰ります! みとか @mitoka888

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