第5話 イケメン王子まい?
「待ってくださいゆうきさーん!」
かわいい声でゆうきを追いかけているのは、まいの幼馴染みの石田君だ。
「だーかーら。俺は男に興味はないって言ってるだろ!」
と言って、ゆうきは必死に石田君から逃げ惑っていた。
「それでも構いません! 僕はゆうきさんを愛しているからっ」
「俺はお前を愛してなんかいなーい!」
逃げ惑っている最中、歩いているまいを発見した。
「うーん。やっぱ髪切ると落ち着かないなあ」
図書館のついでに髪を短くしたようだ。
「姉ちゃんだ。よーし!」
まいは、図書館からの帰宅途中だった。
「あら? ゆうきがかけてくる」
「姉ちゃん! くるりんぱっ」
ゆうきはまいのまわりを一周すると、そのまま去っていった。
「はあ?」
首を傾げた。すると。
かけてきた石田君とドーンとぶつかった。
「いたた……」
お互いに額を押さえた。
「石田君?」
「まいさん?」
お互いを指さしながら、目を丸くした。
「ああ、そっか。まーたゆうきを追っかけ回してたのね?」
「うう……」
声を上げ、
「うわーん!」
泣いた。
「え、ちょっ。石田君!?」
突然のことに、まいは唖然とした。
まいは、公園のベンチに誘い、話を聞いてあげることにした。
「僕、いつになったらゆうきさんと結ばれるのでしょうか?」
「あ、あはは……」
まいは、苦笑した。
「ほんとはわかってるんです。ゆうきさんが男の子じゃなくて女の子が好きなこと。だから、僕なんかが釣り合うわけないことも、すべてお見通しなのです!」
「そ、そんな」
「まいさん、もうなにも言わないでください。こうして、話を聞いてくれるだけで、僕はホッとしているんですよ?」
ベンチから立ち上がり、言った。
「だから、今回のお話は、これでおしまい!」
ほほ笑んだ。てことで、次のお話に乞うご期待。
「いや、待て待て待て! 確かに今回は文字数とか決めてないらしいけど、全七話締めっぽいから、ここでおわったら意味ないでしょが!」
「へ?」
「それに、まだ作者はストーリーを考えてるらしいし!」
まいは、物語をおえるのを止めた。
「じゃあ、これから僕は、どうしたらいいんですか? 一生ゆうきさんのことを想い続けるかわいそうな男の子を演じ続ければいいんですか!」
怒って聞いた。
「い、いやそういうわけでは……」
「じゃあ僕、これからそんな感じで物語進めていこうと思うので、よろしくお願いします」
一礼して、物語を再開した。
石田君は、今日もゆうきを追っかけ回し、逃げられた。その後、途方に暮れて、浜辺を歩いていた。
「はあ……。潮風が染みるぜ」
海を見つめた。
「あれ? なんでかな? 目から涙がこぼれてきちゃった」
こぼれてきた涙をそのままに、海を見つめた。口元に流れた涙を舐めた時、少ししょっぱかったという。
「はいカットカット!」
まいが物語を中断した。
「結局短く幕を閉じるじゃないのよ! てか、ゆうきを追っかけてるシーンは? あと、潮風が染みるぜってなに?」
「もう、いろいろツッコミすぎ……」
石田君が呆れた表情をした。
「ありすぎるからでしょ!」
「じゃあ、まいさんだったら、これからどんな展開を考えますか?」
「え? わ、私?」
「はい!」
「え、えーっと……」
突然振られたので当惑した。しかし、なにか出さねばという一心で考えてみた。
「や、やっぱゆうきが石田君のこと好きにならなくても、あきらめないぞってのが、石田君らしくて、いいんじゃないかしら?」
「ふーん……」
「なによその不機嫌そうな顔は?」
「そんなありきたりな展開じゃ、僕はピンと来ませんね」
石田君と、まなみが同時につぶやいた。
「って、まなみ!?」
「よっ」
「ま、まなみさんいつの間に」
「石田君、君の気持ちはすべて聞き入れたぞ。全く、金山宅の姉弟はどうしてこう鈍感なんだろうねえ」
「なによまなみ! あんたは石田君をどうにかできるって言うんでしょうね?」
怒って聞いた。
「もちろん! まなみはすでにいい案を思いついています」
「なになに?」
石田君はわくわくした。
「それは……」
人差し指を空に掲げ、言い放った。
「まいちゃんが男の子になるのです!」
「……」
沈黙が走った。
「は、はあー?」
まいの声が住宅街に響いた。
マンション。アリスの部屋にやってきた。
「なるほど。石田君の恋を叶えるために、髪を短くしたまいを男装させるっていう根端ね」
「いやいや。これは男の子になるために短くしたんじゃないから」
まいは、手を横に振った。
「でも、今のまいちゃんスカートじゃなくてズボン履いたら男の子だよ?」
まなみが言った。
「だから! 男になるために短くしたんじゃないって言ってるでしょっ?」
「いいわ。あたし、制服用のズボンもあるのよ?」
「王子様にもなるんですか?」
石田君が聞いた。
「童話を読んでて、お姫様に憧れることが多いけど、王子様だって全く興味ないわけじゃないわよ。それに、童話好きが好転して、洋裁に凝ってるの」
「こないだ、まなみの制服のボタン取れて、縫ってくれたよね」
「穴の空いた靴下もね」
アリスとまなみは顔を合わせてほほ笑んだ。
「はい、これが制服用のズボンよ」
様々な衣装が入っているクローゼットから、制服用のズボンを取り出した。
「さあまいちゃん、履いて」
「や、やだ! なんで私が」
「きゅう……」
石田君が両手を組み、ウルウルとした眼差しで見つめてきた。
「うっ」
少しためらうまい。
「きゅうーん……」
まなみとアリスも石田君と同じポーズを見せてきた。
「あ、あんたらもか!」
まいは額に手を押さえてから。
「わかったわよ」
ズボンを受け取った。
「やった!」
まいがズボンを受け取ったのを見ると、三人は一斉にハイタッチをした。
「おう、まいちゃん。今日のパンツも黒ですか?」
スカートを脱いだまいに、にんまりするまなみ。
「ま、まっちゃん……」
呆れるアリス。
「おんどりゃあ! だまってろ!」
まいは、まなみの顔面にパンチを当てた。
「ど、どうかな?」
ズボンを着用した姿を見せるまい。少し照れている様子。
「おお」
感心する三人。
「まいさん、すてきです。本当に、男の子みたいですよ?」
「まいちゃんすてきだよ。本当は男の子でしょ?」
「まい、男の子の衣装を着こなせる知人はあんたが初めてよ?」
「ふふっ。みんな思うことがバラバラのようだね」
三人の別々の感想を聞いて、ハンサムに唖然とした。
「あれ? なんか、性格まで男の子らしくなりましたか?」
と、石田君。
「あ、そっか!」
アリスが気づいた。
「まいは、服装でキャラが変わるんだったわ」
「じゃあ、この調子でデートに行こう!」
「へ?」
まなみのひと声にキョトンとする三人。
「だから、デートに行くんだって」
「ほう。誰がこの僕とデートしたいのかな?」
「まいちゃん。いや、まい君。石田君は弟君にふられて悲しんでるんだよ? だったら、その心のすき間を埋めてあげないと」
「うむ」
うなずき、石田君のもとに来た。
「石田君、僕とデートしよう」
「え、ええ?」
あごクイされて、ドキッとした。
「ついに、あたしの作った男装用衣装が、役に立つ時が来たのよ!」
アリスは喜び、感激した。
「で、でも僕はゆうきさんが好きなんです。確かに、まいさんは男の子らしくなりましたが、その……」
「その?」
首を傾げる三人。
「胸が……」
まなみとアリスは、まいの胸を見つめた。膨らんでいた。
「まあ、それはそれだよ」
「ね、まっちゃん!」
まいと石田君は手を繋いで、街を歩いていた。
「あ、あのまいさん……」
照れながら、まいを呼んだ。
「どうしたんだい?」
「あ、えっと。その、どこに行きますか?」
「君が行きたいところ」
「あ、は、はい」
(これは本当にまいさんなのか? いや、確かにまいさんは目の前でズボンを履いていた。だから、このハンサムなお人はまいさんで間違いない!)
「石田君」
「ひゃっ!」
まいは、石田君に顔を近づけ、覗き込むようにしていた。
「かわいい」
クスッと笑った。
「え、ええ?」
キョトンとした。
二人は、ショッピングセンターにやってきた。
「ゲームセンターなどどうでしょうか?」
「いいね。ゲームセンターで遊ぼうか」
「あ、でもまいさんは、どんなゲームがお好きですか?」
「ゲームか……」
まいはあごに手を付け、考えた。
「僕、ゲームはよくわからないかな」
ほほ笑み、答えた。
「じ、じゃあ僕がなにかおすすめしますよ!」
二人は、まずユーフォーキャッチャーを紹介した。
「こうやって、操作して……。うわ、惜しい!」
プレイをしてみせるが、景品を掴めず失敗した。
「あはは! まあまあ、失敗は誰にだって起こりうるものさ」
「そ、そうですね」
続いて、カーゲームを紹介した。
「なかなか早いですね!」
「こんな感じかい?」
二人でタイムアタックをプレイした。
続き、シューティングゲーム、エアホッケー、バスケをプレイした。始めはドキドキしっぱなしだった石田君も、だんだん打ち解け、二人は距離を縮めていった。
そんな二人の様子を、覗き見している者たちが。
「アリさん。どうやら、二人とも傍から見たら、本当のカップルみたいになりましたな」
「アリさんって……。警部、もっと他の呼び方をしてくれませんかいねえ?」
「え? だってアリスだから、アリさんでいいでしょ?」
「いや確かに亀井刑事はカメさんって呼ばれてるけど! なんかアリさんって変じゃない?」
「変じゃないよアリさん。世界に一つしかない呼び名じゃあないかい?」
「まっちゃん、じゃなくて警部がそうおっしゃるなら、それで構いません」
まなみはフッとほほ笑み、言った。
「この先の進展が楽しみだねえ」
まいと石田君は、プリクラに来ていた。
「で、これはどうするんだい?」
「えーっと。僕も初めてなので、手探りであれこれしてみますが……」
石田君は慣れないプリクラの設定をポチポチして、ようやく撮影ができる段階になった。
「はい、まいさん。撮りますよ」
「な、なにかポーズを取ればいいのかな?」
「はい! じゃあ、僕敬礼!」
「じゃあ、僕は……」
考えている間に、カウントダウンが始まった。
「まずい。早くポーズを決めなければ」
考えた。思いつかないままカウントダウンは一秒に達した。
「これだ!」
まいは、とっさに敬礼する石田君を抱きしめた。シャッターが押された。
「ま、まいさん……」
「石田君……」
まいと石田君の顔が接近する。
「中で、なにが起きてるのかしら!?」
外で興奮しているまなみとアリス。
「離して!」
石田君は、まいを突き放した。
「うわっ」
「まいさんごめんなさい。僕、こんなにロマンチックなことされたの初めてで浮かれてました。けど、やっぱりゆうきさんのことが忘れられません。僕にとって、ゆうきさんはかけがえのない存在。例え叶わぬ恋だとしても、それでもいいんです。ゆうきさんと一緒にいられる、それこそが、僕にとっての幸せなのだから!」
石田君の話を聞き、まいはフッとほほ笑んだ。
「君ならそう言うと思ったよ」
「へ?」
「僕も男装をしただけで、恋焦がれていたわけではないからね」
「まいさん……」
「それに、僕は君に素直に生きてほしい。ゆうきのことを、よろしく頼んだよ」
「はい!」
まいと石田君はほほ笑み、お互いを見つめた。
「中でなにが……」
まなみとアリスは、先ほど石田君が悲鳴を上げたので、心配をしている様子だった。
「待ってくださいゆうきさーん!」
かわいい声でゆうきを追いかけているのは、まいの幼馴染みの石田君だ。
「だーかーら。俺は男に興味はないって言ってるだろ!」
と言って、ゆうきは必死に石田君から逃げ惑っていた。
「それでも構いません! 僕はゆうきさんを愛しているからっ」
「俺はお前を愛してなんかいなーい!」
逃げ惑っている最中、歩いているまいを発見した。
「うーん。やっぱ髪短いと落ち着かないなあ」
まだ髪が短いと落ち着かない様子だ。
「姉ちゃんだ。よーし!」
「あら? ゆうきがかけてくる」
「くるりんぱっ!」
まいのまわりを一周して逃げようとしたが。
「はい、止まってー」
ゆうきの襟首を掴み、制した。
「は、はあ?」
「石田君」
彼にウインクをしてみせた。
「ゆうきさん、つかまえた!」
まいに取り押さえられたゆうきは、石田君にハグをされ、つかまってしまった。
「姉ちゃんずるいぞ!」
「べーっだ」
悔やむゆうきの顔に、あかんべーを返した。
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