第9話 商売とは疲れるのだな
あの親子が来てからというもの、店にはたくさんの客が来るようになった。
まだ接客に慣れていない我にとってはものすごく苦行のような時間であったが、ミルに色々と教わりながら、なんとか接客を上手くできるようになってきた。
そうして我は、おおよそ50組もの接客を終わらせ、一度休憩をとることにした。
「ふう、接客とは実に疲れるのだな」
我はミルに濾してもらったコーヒーを飲みながらミルに話した。
「確かに、あんなにお客さんが来たら、さすがに僕でも疲れちゃうよ」
そこで、ふと我は疑問に思っていたことをミルに問う。
「それにしてもミルよ、あの親子が来てからというもの、客足がものすごく増えたのだが、何故なのだろうか」
すると、ミルが笑顔を浮かべながら答えた。
「実はグラディには言ってなかったんだけど、あのお父さん、この街でかなり有名な冒険者なんだ」
「ほう、冒険者か」
「きっとグラディの接客が良かったから、あの人が街に噂を流してくれたんだと思うよ!」
そう言ってミルはまたしてもニコッと笑った。
「そ、そうだ! そうだろう! やはり我は商売の天才なのだな! がっはっはっは!」
(グラディが純粋に喜んでるのを見ると、僕まで嬉しくなっちゃうな)
「よし! 休憩もそこそこにして、午後も我が天才的な接客を見せてやるぞ〜!」
そして、我はコーヒーを飲みきったところで、再びお面を被り、接客に戻ることにした。
だが、午後になってからというもの、一向に客が店に入ってくる気配がしなくなった。
我はただ、カウンターに座って、誰もいない店内を見回す……
暇だ! 暇すぎる! さっきは客の勢いが凄まじく、労働は苦行だとさえ思っていたのに、いざ誰も来ないと、暇すぎて逆に疲れる!
我は客が来ないことが気になって、ミルのもとへ戻る。
「ミルよ、午後になってからというもの、一切客が入ってこなくなったぞ! これはどういうことなのだ! まさか、誰かが悪い噂を流したのではあるまいな?」
我の問いに、ミルは笑って返事をする。
「ははは、違うよグラディ。きっと、ちょうどお昼時だからお昼ご飯を食べてるか、仕事をしてるんだよ。特に冒険者の人たちは、午後から活動する人が多いからね。しばらくはお客さんが来ないかもしれないね」
そ、そうなのか……せっかく接客の自信がついたところであったのに、非常に残念だ。
すると、落ち込む我にミルがある提案をする。
「そう落ち込まないでよグラディ。そうだ! しばらく接客は出来ないから、剣作りの体験でもしてみる?」
それは思わぬ提案だ。人間の武器の制作過程……実に興味がある。
「それは良いな! 是非見せてくれ!」
そうして我は、ミルの提案に乗り、ミルとともに武器庫へと移動した。
怠惰であるが故に神界から追放された武神グラディウスは、人間界の武器屋で働く 左腕サザン @sawan_sazan
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