第6話 現在・過去・未来の執行魔法
「桜の宮高校だな、これ」
マルセロによると茶色地に細い黄のチェック模様が決め手だったらしい。
マルセロがエレベータ事故が起こった俺の職場を見たいというので
俺たちは新宿三丁目から歌舞伎町まで歩いた。
移動している間、マルセロはにわかには信じ難いことを打ち明けた。
「小山はその女の子のことも赤沢って男のことも助けたいわけだよな?」
「それは勿論そうだが、過ぎたことはどうしょうもない。
せめて犯人を見つけ出してやるのが、俺の責務だと思っているんだ」
「できるぞ」
「え?」
うつ向き加減でそう言ったマルセロの表情は
サングラスが邪魔で微細なところまでは読み取れない。
「時間は巻き戻せるし、死んだ二人も助けられる。
魔法ってやつだ。世の中常識的なことばかりで成り立ってるわけじゃないのさ」
突然の告白に、虚をつかれた俺は聞きたいことがうまく口から出ずに
モゴモゴとまごつくので精一杯だった。
ふざけているのか本気なのか?
本気なら一体どこでそんな能力を?
疑問は山ほどあった。
そんな奇妙な会話を交わしながら二人並んで歩いていると、
突如マルセロは向き直ってニカっと笑い
「俺は任意の過去の時間へタイムスリップすることが出来る
今から、一緒に過去へ跳んでもらおうか」
マルセロが「
世界の色彩がネガフィルムのようなセピア色に変貌した。
空中に出現した幾つものデジタル時計やアナログ時計は
それぞれ異なる針の速さで時を刻み
どこからともなく読経を詠む声と不気味なリズムも聴こえてくる。
魔法を信じるか? と通常、問われても首を縦に振ることはないだろうが
魔法について告白されたほんの数秒後に
異常な世界をを見せつけられたのだから、
もう信じるか信じないかの話ではなかった。
慣れるか慣れないかだ。
「ちょっと待ってくれ。いくらなんでも唐突が過ぎる!
もうちょっと分かるように説明してくれ」
俺は懇願してみたが
「小山は理屈屋だからな、説明は後だ。四の五の言う前に付いてきてもらうぜ」
と突っぱねられてしまった。
マルセロが「現在・過去・未来の執行契約…#$G@☺️&」と
よく分からない呪文を唱えたと思うや否や、強い風に吹かれ
再び気がつくと、元の色彩をした歌舞伎町の一角に二人で立ち竦んでいた。
「ここは?」
「四日前の歌舞伎町だ」
マルセロは
「女子高生が殺されたのは三日前。だから保険で一日多く跳んでみた」
と言った。
「それ以外の手がかりは何も無いんだし、一日だけで大丈夫か?」
「ああ、ベストではないな。
この能力は過去には自由に戻れるが、未来に自由に帰ることは出来なくてな
跳んだ分の10分の1の時間を過ごさないと元の時間には戻れない。
今の時間の流れは、通常と同じ速さだが…」
マルセロは黒シャツの胸ポケットからリモコンのようなものを取り出し
「この早送りボタンを押すことで時間を10倍速にできるんだ」
マルセロにリモコンを持たせてもらったが
手のひらに収まるような小ささで、ボタンが5つ付いているような代物だった。
「どうだ? マルセロ様のパワーは!俺を選んでラッキーだったな」と笑った。
「勿論だ。これで赤沢さんも女の子も、本当に助けられるんだ!!」
俺は泣きそうになりながら、マルセロとガッチリ固く抱き合った。
魔法使いと旅する!日本BLACK紀行 なかつか @memaruda
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