第6話

※R15って朝チュンでいいんですよね・・・。


「おばぁちゃん、ただいま」

「佐羽さん、ただいまー」

 家に着いてからは、寒い寒いと言いながら2人で簡単に荷物を整理し、気がつけば2人で台所に立っていた。

「やっぱカレーだよね」

「おせちの後ってなんでカレー食いたくなるんだろうなぁ」

 1人だとそこそこかかる作業も2人だと早くて楽しい。あとはぐつぐつ煮込むだけとなり、ぱぱっとサラダとフルーツをつけ、並んで食卓に座った。


 作り立てのカレーは、ごろごろ感も強く、飲み物には進化してなかったけれど、昨日の昼から何も食べてないおなかには、十分美味しかった。

「ほんとは、宵越しの方が美味しいんだけど、まぁ仕方ないよね」

「結構大量に作ったから、明日の朝も食べればいいよ」

「えー、朝からカレーは・・・重いよ」

「俺は全然食うけどなぁ。朝飯4時とかだけど」

「ひーーーー漁師さんって大変だよねー」

「ライターだって大変だよ。仕事なんて大変で当たり前。大変だから面白いんだろ」

 塁くんのこういうとこ、すごい好きだと思った。自然とにやけてしまう。

「なんだよ、気持ち悪いなぁ」

「うん。いや、お風呂がちゃんと使えてたら、明日カレー食べてもらえるのになぁって」

 すると、無言のまますごい勢いで塁くんが浴室へ消え、ほどなく戻ってきた。

「直った」

「うそーーーー!!専門業者じゃないとダメって言ってたじゃん!!」

「はいすみません。この前は遥をうちに誘うために、嘘言いました。本当はそんなに難しい修理じゃありませんでした」

「まじか!塁くんほんと便利な男だよねー」

「だろ?風呂使えるようになったから、泊まっていい?」

「泊まるのは別にいいよ」

「泊まったら抱くよ。遥、怖くない?」

 一瞬、遠い時間の向こうへ引きちぎって置いてきた感触がよみがえった。でもこの人を怖いなんて思わない。私は体ごと塁くんに向き直った。

 ちょっと心配そうな、でもいつも通り、優しい目が私を見ている。

「怖くないよ。正直、塁くんの好きと種類が違うかもしれないけど、私、ちゃんと塁くんが好き」

 瞬間、塁くんの目が大きく開いたかと思うと大好きな優しい腕の中にくるまれた。

そして、断りのないまま、キスが降りてきた。

 長い長いキスの後、やっと唇が離れていく。そして、

「カレーじゃなかったなぁ」

「2人ともカレーだから別にいいと思う」

と言い合い、ケタケタ笑った。



翌未明。

 あたたかな体温が身体から離れていく気配に、目を開く。

「まだ寝てていいよ。無理させたし、痛むだろ?」

 寝ぼけまなこのまま、ゆるりと首を振り、身体を起こそうとして、ピキっという音とともに止まった。

「うごくとやばい気がする」

「はははっ、だから言っただろ。最後の方、結局ガンガンに突いたし。初めてだったのにごめんな」

「んー、何が何だかわかんないくらいだった」

「だから、ごめーん。美味しい魚とって持ってくるよ」

「うん。あ、でもすごく気持ちよかったよ。私、ほんのちょっとだけ、大丈夫かなって思ってたんだけど、全然大丈夫だった。塁くんだったからだね」

 瞬間、大きく目を見開いた彼は、なんだか泣きそうに見えた。でも、すぐにわからなくなった。寝起きに交わすには強烈な感じのキスに視界をふさがれたから。

「じゃ、行ってくる。スマホないから連絡できないけど、夕方にはまた来るから」

「うん。あ、そうだった。スマホ買いに行くのちょっと待った方がいいよ」

「なんで」

「んー、ばぁちゃんから伝言」



 結局そのまま惰眠をむさぼり、ようやく気合をいれて起き上がったのがお昼前。

 カレーをコトコト煮直し、軽く食事をとってから市役所へ電話を入れ、木の処理について報告した。

「そうですか。ありがとうございます。正直、手紙を書いてもほったらかしの方も多いので、ご連絡いただいて助かりました。もし、ご希望がございましたら、移住者用の住宅として活用できたり、空き家として売買意向である等の紹介もできますが」

「ありがとうございます。でも、祖母との思い出の家ですので。これからはマメに帰って管理するようにします」

「それが一番いいですね。おばぁさまも喜ばれると思います。もしまた困ったことがありましたらご連絡ください」

「はい。お世話になりました」

 電話を切ったところで、案外、市役所の人もいい人だなぁと感心する。田舎だし空き家の問題が思ってる以上に大変なのかもしれない。


 その後やり残していたシナリオを仕上げ、真理先生たちにデータを投げる。実際おばさんに言われるまでもなく、ライターの仕事はどこでも出来るものだ。かと言って、この町に移住、いやUターン?するのも何となく腰が重い。ここ数日の真田家のお節介波状攻撃が、縦深攻撃に進化しそうだ。

 まぁ、塁くんとも相談しながら焦らず考えよう。

 その時、ちょうどメッセージが着信した。

「ほら、やっぱり大丈夫だった」

 メッセージは塁くんからで、今朝船を出したところで、イルカがやってきてスマホを返してくれたそうだ。「何このメルヘン」というメッセージとともに、笑顔の塁くんとイルカのツーショットも送られてくる。

 おばぁちゃんは世話になった塁くんへ手間賃がわりって言ってたけど、それがなくても普通に神様は気を効かせてくれたと思う。海の神様は気まぐれだけど、昔から塁くんを気に入っていることを私は知っている。


 それから、ふと思いつき、パソコンの新しい画面を開いた。

 ここにきて、俄然、自分自身の人生がとてつもなく面白い物語だと気づいたからだ。

 もちろん、これまでには思い出したくない痛みや苦しみもあった。でも、このあたりで一回、それなりに頑張ってきた自分を振り返ってみてもいいのではないかと思ったのだ。

 いや、誰の人生だってきっと、日々の生活に紛れて気が付いてないだけで、ちょっと振り返れば山あり谷あり面白いに違いない。

 どうせ人は一人で生まれ死ぬときも一人。

 だから一人だった。一人が楽だし全然楽しく生きてきた。でも、ふたりでも楽なら、これからの人生はもっともっと楽しいに違いない。

「よしっ」

 気合を入れなおし、2.3回手首を回してからキーボードに置く。そして誰に見せるわけでもない自分自身の物語の一文字目を打ち始めた。








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 読んでいただいてありがとうございます。ひとまず一区切りとさせていただき、少しお時間をいただいて書き足していく予定です。

 第6話は、規約のR15に悩み、約5000文字分中抜きしてます(;'∀')

 18歳以上の方で、抜いた部分が気になる方は、ムーンライトノベルズさんの方ものぞいていただけたら幸いです(1日遅れ)

 また、サポーター様限定の近況ノートの方に、2週間後のSSを置いております

 それでは、今年一年が皆さまにとって素敵な一年でありますように!

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