似た者姉妹

そうざ

Like Twins

 私には妹が居る。

 私は妹が可愛くて仕方がない。

 意固地、生意気、自惚れ――負の感情に蝕まれ、現実を拒否し、何かと私に反発する妹。


「もう嫌っ」

「そんなに興奮しないで」

「もう出て行くっ」

 最後のが妹の口癖。共同生活を始めたものの、私達は毎日こんなやり取りを繰り返している。

「出て行くって何処に?」

「何処にでも行く!」

 その後は決まって、命令しないでとか、私は玩具じゃないとか、自由に生きたいとか、取って付けたような、お定まりの言い分を並べ立てる。

 妹がどうして何不自由ない暮らしを捨てたがるのか、私には全く理解出来ない。


 例えば、私の方が少し背が高いとか、顔立ちが整っているとか、頭の出来が違うとか、客観的事実を指摘すると妹は癇癪を起す。挙げ句の果てに、私が姉で、あんたは妹、と事実確認をしただけで拗ねる。

 こんな妹だから、私の中に底意地の悪い心が芽生えてしまう。


「やっぱり出て行く」

 今日もまた始まった。

「字も書けないのに?」

「……少しずつ覚える」

「数も数えられないのに?」

「……その内に出来るわよ」

「右も左も分からないのに?」

「……きっと何とかなるっ」

 妹は親指をくわえる癖が治らない。子供そのもの。一人では何も出来ない赤ん坊だ。

「まさか、歩いて行く気ぃ?」

「違う」

「だったら、走って行くのぉ?」

「違うよ」

「じゃあ、い這いで行く訳ぇ?」

「違うってば」

「いっそ羽でも生やして飛んで行ったらぁ?」

 戸惑う妹の表情がこの上ない愉悦を与える。怯えれば怯える程、可愛くて溜まらなくなる。

 妹を遣り込め、とことん支配する。こんな日々がいつまでも続けば、そうすれば、私達の絆は、分かち難く、果てしなく、何処までも深まるのだ。

 それにしても、近頃の妹は我が儘が過ぎる。図に乗っている。お灸が必要だ。

「あんたに行く所なんてないのよっ!」

「それでも行くっ!!」

「行けっこないわよっ!」

「行くったら行くっ!!」

「行けるもんなら行ってみなさいっ!」

「行くっ!!……


      ……行くっ……


           ……行くっ……


    ……くぅ……




      ……くぅうぅ……

  

               ……うぅうぅ……

  

        ……ぅうぅ……

 


            ……ぅぅぅ……

  

      ……ぅぅ……ぅ……





 私には姉が居た。

 私は姉が憎くて仕方がなかった。

 自惚れ、虚栄心、厭世主義――負の感情に蝕まれ、現実を拒否し、私を束縛しようとした姉。

 でも、私が存在出来ているのは、姉と反りが合わなかったお陰かも、と思う。

 妊娠初期、一定の確率で、双子の一方が子宮から消える現象が起きるらしい。けれど、姉は十月十日とつきとおかになって忽然と消えた。全く稀有な事例と言う他ない。

 姉は妹をこの世へ送り出すそうと、えて私を忌み嫌ってみせたのではないか――今ではそんな風にさえ感じている。


「お姉様に感謝しないとね」

 私の言葉に、もう一人の妹・・・・・・が沈黙で応える。

 私達は三つ子ではなくなってしまったけれど、双子として無事に誕生する事が出来た。神様に祝福されているとしか思えない。

「いつまでも一緒に暮らしましょうねぇ……あんたに行く所なんてないんだから」

 不安に戸怯える妹は、私にこの上ない愉悦を与えてくれる。私達の絆は、分かち難く、果てしなく、何処までも深まる事だろう。

 もしかしたら、妹は姉の生まれ変わりなのかも知れない。

 そう思うと、私は妹が可愛くて仕方がない。

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