第3話
バイトは散々だった。
集中してないせいだけど、できてたまるか。
誰とも付き合ったりしたことないのに、いきなり短時間に三人から告られるなんて、パンクするわ。
人生トータルでのバランス考えてくれ神様。
バイトが終わると、まかない飯を休憩室で食べて、また事故に気をつけながら夜道を自転車で帰る。
ぼんやりと三人のことを思い出しながら風呂に入って、部屋に戻ってFPSゲームにログインする。美希は部屋にいるのか、顔を合せなかった。
フレンドでもあるクラスメイトとプレイしながら通話していた。
「なあ、俺のいいところってどこだろう?」
『フータのいいところ? いっぱいあるニャ』
通話相手が可愛い系の声で教えてくれた。
「冬汰な」と訂正を忘れない。
『まずはニャー、ゲームが上手くて頼りがいがあるところニャ』
「あーはいはい」
あの三人がそこにビビっときたとは思えない。
『それに、こんなボクにも優しいニャ。誰かが捨てたゴミを拾ってるのを、見たことあるニャ』
「あったっけ」
『バイトを頑張って、スマホ代やゲーム代を自分で払って、偉いニャ』
「そのためのバイトでもあるし」
『つべこべうるさいニャー』
「語尾にニャつけんのやめろって、花村。普通にしゃべってくれよ」
『………………』
クラスメイトの花村千夜子。キャラを禁止されるとしゃべれないのもお馴染みだった。
学校でしゃべったことはない。
俺に限らず、誰が話しかけても、うなずくか首を振るかでしかリアクションをしてくれないのだ。髪の毛も長くて、前髪でいつも顔を隠していた。
『ボクも……フータのこと……好きニャ』
「冬汰な。俺たち、ネット上で仲いいもんな」
『ボクみたいな陰キャにも、学校でいつも気遣って声かけてくれるニャ……』
「こうしてゲーム一緒にする仲だから。学校で素っ気ないのも変だろ?」
『それでも、とっても嬉しいニャ。苦手なFPSもフータがやろうって言ってくれたから、頑張ってるニャ』
ドドドド、ドーン、と画面では銃声と爆発音がそこかしこで聞こえている。
『……好きニャ、フータ』
「冬汰な。……え? マジの話?」
『………………』
マジの間じゃねえかよ。
画面右上に【チョコさんがログアウトしました】という控えめなメッセージが表示された。
『本気ニャ……ボクみたいなミジンコでいいなら…………付き合ってほしいニャ』
「いや、ちょっと待って。ちょっと待ってくれ」
『何番目でもいいからカノジョにしてほしいニャ……』
デロン、と通話が終了したことを告げる効果音が鳴った。
「あ、ちょっと――!?」
何が一体どうなってんだ?
「よ、四人目だぞ!? 俺の現実バグったのか!?」
夕方からかれこれ六時間。四人から告白されて、四人とも本命じゃなくてもいいという。
もう、意味がわからん。
コントローラーをぽいっと放って、椅子にもたれかかった。そして、無言で考えた末に、ひとつの結論に辿り着いた。
「なんかの陰謀だな?」
罰ゲームとかそういうやつ。漫画で見たことある。
ちょっとしたイタズラで告るやつ。
いっぺんに告って、俺が誰を選ぶのか結果を見て笑うつもりなんだ。
○○ちゃん、可哀想~。とか、あとでダルいクラスの一軍たちが俺のことを非難してくる流れだな? たぶんそうなんだな?
俺のリアクションの薄さなめんなよ。
裏で糸引いてるやつが面白おかしく笑うようなエンタメな反応は絶対にしてやんねえ。もうしてるかもだけど。
「でもこういうのって、学校が定番だよな」
現場を覗きにくるか、俺に小型カメラやマイクつけるかしないと、誰も見れないし聞こえない。
じゃあいっちょ探してみるか。
鞄や制服、スマホカバーの中、財布の中、今日着た服などなど。着用するか持ち歩きそうな物をくまなく探したけど、それらしきものはない。
「でも、この状況は、それ以外考えられない!」
俺を嘲笑おうとしている仕掛け人がいるなら、裏をかいてやる。
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