ぬいぐるみを恋人として

今日も僕はやわらかな君を抱いて眠っている。そこに性的な意味は無く、幼い光の粒だけが舞っている。まだ僕はその粒粒が埃だという事を知らない。空想を当てはめてなんの動物かもわからない白い綿でできた君に少女の像を置く。その虚像はいつしか真贋判別つかなくなって僕の恋人になる。ぬいぐるみだからしゃべる事は出来ないけど頬を撫でると笑みを浮かべるし、頭を撫でると抱きしめてくれる。寂しさは不思議と消えて無くなる。愛らしい笑みを見ると頭の奥がパチリと弾けて眠りに落ちる。夢の中で僕は君を追いかけて、花を摘んで甘い蜜を吸う。寝そべって太陽を見ていると夢の中なのにもう一段深い夢を見れそうな気がする。


「どこまで深く眠れば起きなくて済むかな」と君に問いかけると君は声の出ない口を必死にパクパクさせて泣き喚く。僕もハッとして君を抱きしめて眠る。


目を覚ますと君はただのぬいぐるみで僕は独りでボロボロなぬいぐるみを抱きしめている。どこそこにもあの幼い柔らかさは無くて土日明けの初々しい朝にやきもきする。すぐにスーツに着換えて僕は体に染みついた道を歩く。駅に着いてフラフラと電車に乗る。人波の中に虚像を映して探している。僕の理想を大勢の中から。

だけどどれも大人で早く職場に着かないかなと貧乏ゆすり。そんなことをしても自分の品性を下げるだけなのに苛々としている。

やっと着いた頃にはゆすりも止まり、笑顔を作って辛気臭い駅を出る。僕の受け持つ子たちは2年生。その中で代わりの恋人を探さないといけない。あのぬいぐるみはもうボロボロだから。

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