大都会より
鉄面皮でむっつりとした顔をしたばかりの人々がビルの風に誘われるようにして歩いていく。僕はそんな人並みとは反対に歩き、上下オレンジのスウェットで商店街の少し外れたところにある古本屋へと向かった。財布の中には1000円とはした金とも呼べないような小銭たち、お好みの本がありクレジットカードが使えなければ、コンビニに走ることになりそうだ。
いい出会いを求めて、ムンとした裏道をよぎる。疲れ果てた自転車と錆びたホイールが寝そべっている。ヤドリギがへばりついて開かなくなったバスルームの中では情事がおこなわれているのか幼い喘ぎ声が聞こえる。泣いているようでもあり喜んでいるようでもある。父と子だろか、兄と妹だろうか、姉と弟だろうか、叔父と姪だろうか、僕は必死に浮かんでくる妄想に蓋をしながら足を速める。口を押えて、らんらんと輝く目を地面に伏せながら歩く。
「パパ、」
僕は足を止めた。それは商店街を歩く親子連れだった。
「パパ、どら焼き買ってよぉ」
たった今情事を耳にした所為で親子がカップルのように見えてしまう。7,8歳くらいの薄ピンクのキャラクターものの服を着て膝の所で丁度切れている靴下をはいた少女は笑い声を上げながら父親の足に頬ずりをする。父親も雑に頭をわしゃりと撫でて名前を呼ぶ。「エミコはかわいいな」僕は脳に電流が走るのを感じながら、また足を速める。もうジョギングだ。
やっとの事で古本屋に入る。古本屋は紙の香ばしい、潔癖な匂いがして僕の煩悩は鳴りを潜める。
僕は上下巻二つで550円の日本児童文学名作集を購入し足早に店を出る。
あのヤドリギが僕の心に根を下ろしたようだった。
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