2.命令(3)
私の名はシェルフィドーラ。
四魔侯として『
いわゆる『死霊使い』であって、かつての戦いで没した、あるいは墓場などに葬られた死体を喚び出しては使役し戦わせるスキルを有している。
先祖代々『死霊使い』の家系であって、四魔侯の地位にしても先代である母上から引き引き継いだものだ。
持っているスキルは亡骸を無理矢理に喚び出して戦わせるという根暗で無作法、そして他人依存なものに過ぎない。
四魔侯の地位にしたところで、当主の地位と共に母上から引き継いだだけであって、実力や華々しい戦果などが伴っている訳では無いのだ。
そんな私の趣味にしても屋敷の裏庭にあるジメジメした土に生えている苔をひとりで眺めるとか、その上を這い回るダンゴ虫や粟の実くらいの小さな赤いクモを木の枝で
友達と呼べる者も片手で数える程度しか居ない。
夜な夜な屋敷の裏に在る魔界墓場へと趣いて、青白い鬼火が瞬く中で亡霊たちと語らうくらいが関の山なのだ。
儚く哀しげに囁く亡霊達との語らいが、私のじんめりとした心情にはお似合いなのだ。
仕える家臣達だって、こんな根暗な女をどう扱っていいものかと戸惑い持て余しているに違いない。
そんな私が、ここ数十年に渡って保たれてきた魔界と人間界との勢力図を塗り変えつつある希代の傑物たる勇者に叶う訳など無いのだ。
そんなこと、絶対に無理なのだ。
聞いたところによると勇者は非常な『陽キャラ』らしい。
武勇に秀でているのは勿論のこと、その明るい性格は関わる多くの人間どもを魅了しているとのことだ。
行く先々で熱烈に歓迎され、多くの町娘達から黄色き声を驟雨の如く浴びているらしい。
共に旅する賢者は幼い頃からの親友であって、幾多の戦いを経る中で互いの絆はより深まりつつあるに違いない。
そして、パーティの一員である神官の皇女さまとは恋仲であるとの噂まで囁かれている。
いつぞやだったか魔王様の万眼鏡で目にした皇女さまの見た目は、私などとは天と地ほどに懸け離れている麗しさだ。
美しくも愛くるしい顔立ち、若さが漲る健康的で魅惑的な体付き、陽の輝きを思わせる豊かで長い金髪、そして滲み出る高貴で神々しい雰囲気など、誰をも虜にするような輝かしい魅力に満ち満ちている。
顔色は病的なまでに白々としていて、髪の毛は濡れカラスの尾羽のように真っ黒な私などとは大違いだ。
皇女さまの装いにしても、貴くて神々しいながらも魅力的な体付きを誇示するようなものであって、年がら年中、辛気臭い喪服のような装いである私などとは大違いだ。
皇女さまが輝く太陽ならば、私なんてジメジメとした庭石の下で蠢くクモやムカデみたいなものなのだ。
そんな勇者一味のことを思い返す程に、コミュ障で根暗で実力も伴わぬ私なんて敵う訳などないとの確信は深まってしまうばかりだ。
とは言うものの、こちらから何か仕掛けたならば勇者一味は反撃しようとするに決まっている。
上手く引き上げることも叶わずに本格的な戦いへと発展してしまうことがあるかもしれない。
もしも、そんなことになってしまったら、ジメジメした土を眺めるしか能の無い、親の七光りで四魔侯の地位を得ているような半端者の私なんて瞬く間に討たれてしまうに違いないのだ。
いや、絶対にそうなる。
そうなってしまうに相違あるまい。
だから、ここは断固としてお断りさせて頂くしか術は無いのだ。
魔王配下の四魔候とて、やはり命は惜しいのだ。
闘いがお好きな
やる気が無いのかとか、それでも四魔候なのかと誹られれば謝るし反省だってするけれども、持って生まれた性格だから、これはもう仕方が無いのだ。
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