個性をアピール! ソロパフォーマンス回

 第二次審査はソロパフォーマンス。歌、ダンス、トーク、ゲーム実況の中から、自分が最も得意なものを選び、パフォーマンスを披露。今回から視聴者だけではなく、審査員からの評価も選考に関わる。愛津まなつは歌を選んだ。


 愛津は、控室の隅で軽く肩を回していた。今回は生配信ではなく、収録。だから落ち着いて、と自分に言い聞かせる。だが、手にしたペットボトルが震えているのを見て、内心苦笑した。これで落ち着けとは片腹痛い。


「三十八番ってことは、藍瀬アイラちゃん?」


 爽やかなハスキーボイスが背後から聞こえた。振り返ると、よく日焼けした派手な女性が手を振りながら歩いてくる。候補者は順位の番号のゼッケンを着ている。愛津に声をかけてきた女性は、堂々と二番のゼッケンをつけていた。


「あ、豪徳レイアさん……ですよね? 自己紹介動画でDJやってた」

「そうそう! 目立つのは得意だからね。まあ、気楽にいこうよ。ライバルでもあるけど、一緒にデビューするかもしれないんだし!」

「ありがとうございます」

「ほら、返事が固いってば!」


 レイアはケラケラと笑う。周囲の緊張感をものともしない軽やかさに、控室の一部から小さな笑いが漏れる。


「アイラちゃん、自己紹介動画でも歌ってたもんね!」

「うん……」

「自信なさそうだけど、あんたの歌、ウチは好きだよ。原曲がほんとに好きなんだろうなぁってカンジで」


 レイアの無邪気な言葉に少しだけ肩の力が抜けた。


 控室の反対側では、一人の女性がスマホをいじりながら、壁際に立っていた。ゼッケン番号は三番。アバターは薄茶色の髪にピンクのインナーカラー、エルフのような耳を持つ――リズ・シンフォニア。圧倒的な歌唱力で話題になった実力者だ。いわゆる中の人は、ずいぶんと若い。


「後半組、準備をお願いします」


 控室のスピーカーからスタッフの声が響いた。


 二次審査に進んだ五十人のうち、歌を選んだのは二十人。この二十人が前半組と後半組に分けられている。後半組の収録の順番は、八人目がリズ、九人目がアイラ、トリがレイアである。この順番はくじ引きで決まった。十人の中で、三十位以下はアイラのみ。歌を選んだのはすでに人気の実力者ばかりだ。

 

 実力者揃いの中でも、リズ・シンフォニアの歌は、圧巻だった。緻密なテクニック、完璧なピッチ、そして音楽的な完成度――すべてが群を抜いている。


「……これ、収録だから言っちゃうけどさぁ。俺の後輩なんだってね、君。ここカットでお願い」


 主催者であり、メインの審査員、株式会社hook–upの代表でもあるアカバ紅陽こうようが声をかける。今回の審査ではピアノ伴奏も担当している。彼、正確にはその中の人はわずか十歳でCDデビューを果たしたピアノの神童であり、有名な音楽大学を卒業したことが知られている。


 圧倒的な実力も納得だ。リズは現役の音大生だったのである。


「この曲、伴奏が難しいからさぁ。これ歌いたいなら、早く相談して欲しかったなぁ」


 実力ゆえに、審査員からの指摘は少ない。緊張しているのか表情は固いが、リズはゆったりと聞いている様子だった。


 愛津は、スタッフに促されるまま立ち位置についた。けれど、足元がふわふわして落ち着かない。実力には元より差があり、若さという伸び代もあるライバルを前に、何ができるというのだろう。


「……私の好きな歌です」


 曲を紹介し、合図をすると、アカバの指が鍵盤を叩く。澄んだピアノの旋律が空間を満たしていく。選んだのは、配信を始めたばかりの頃、初めて歌ってみた動画を作った曲だ。オーディション運営と、作曲者に連絡をし、ピアノ伴奏に合うようにアレンジを加えた。


 歌い出しは緊張で声が少し震え、喉が閉じそうになった。それでも、メロディを追ううちに次第に自分の世界へと入り込んでいった。


――やっぱり好きだな、この歌。


 一番の終わりごろには、アイラの歌声がピアノの音色とともに柔らかさを増し、最後のフレーズではうっすら笑顔が宿る。


「藍瀬さん」


 アカバが静かに口を開く。


「序盤、緊張してたね。まあ、しょうがないっちゃしょうがないけど……。後半は良かったんで、次はその力を最初から発揮してください」


 彼の言葉には厳しさと同時に、可能性を評価する響きがあった。


 評価は五分五分といったところだった。現役Vtuberの赤城クロノには自分で伴奏譜を用意した周到さや表現を褒められたが、ボイストレーナーの審査員には技術面でかなり厳しいことを言われた。一番応えたのは、彼女の一言だ。


「基礎の底上げが必要です。……年齢的に厳しいかもしれませんけど」


 三者三様の評価を受け、愛津は静かに頭を下げた。相変わらず自信は持てなかったが、失望したわけでもなかった。


 審査が終わると、レイアが


「お疲れ!」


 と軽く肩を叩いてきた。


「アイラちゃん、良かったじゃん」

「ありがとう……」


 愛津は素直に笑えなかった。レイアはトリの重圧などないかのように、素晴らしいパフォーマンスをしていたからだ。実力者揃いの中で、自分の評価が良かったとは思えない。それでも、自分なりに歌い切れたことには少しだけ安堵していた。


 二次審査の通過者は、三十名。藍瀬アイラは、公開されたパフォーマンスが話題を呼び、視聴者投票では二十七位、審査員評価と合計し、総合二十位で二次審査を突破した。

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