現実世界のラーの鏡


メルカリの楽しみ方は、人それぞれです。

私にとっては「コメント欄を渡り歩く」こともその一つです。

今は「まとめ買い依頼」とか「希望価格を提示」の機能が付いていますが、以前はコメントで全てを管理していました。


いつものように、誰かのコメント欄を閲覧していた時に、運命の出会いをします。

値引きの依頼をしていた人に、出品者が断りの文面を入れていたのですが、その文の最後にハートを射抜かれる一言がありました。


「ご縁も大事にしたいので」というフレーズです。


これをいつか使いたいなと思いながら、数ヵ月が過ぎていきました。

そして、その「いつか」はある日突然やってきました。


私は、アルクのヒアリンマラソンの未使用の教材を月毎のセット商品として出していました。それをバラで三冊まとめてほしい、というコメントが付きました。

私が値段を設定すると、「予算オーバーなので、少しお時間ください」の文字が表示されました。

その途端、私の中のセンサーが反応して、弾かれたようにあのフレーズを入力しました。


ご縁も大事にしたいのでーー


予算で収まるくらいに値段を変えました。

返ってきたのは、「とても素敵なコメントをありがとうございます」というもの。


メルカリには、純粋に買い物をすること、仕事として転売をすることの二種類の楽しみ方があります。どうやら私は、を見極める何かを持っているようなのです。

夜のひととき、私は静かなほほ笑みを浮かべながら、画面の向こうで今日も繰り広げられている様々な交流に、想いを馳せていました。


ドラゴンクエストシリーズに登場するアイテムの一つに「ラーの鏡」というものがあります。 「真実を映し出す」と言われている伝説の鏡のことです。

私は「勇者アベル伝説」の中で、アベル一行がドラン王国を訪ねた時に、シーザーライオン扮する国王の正体を暴くシーンを思い浮かべます。


私の中にはもしかしたら、実体の無い「ラーの鏡」が存在しているのかもしれないな、と

夢とうつつの間をふわふわと彷徨いながら、スマホから手を離しました。



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売れる喜び、買う楽しみ 智月 千恵実 @chiemi_tomozuki

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