演劇部の日常
道楽堂
第1公演 入部しよう
私はいつから演劇が好きになったんだろう。小学生の頃、初めて学校の課外学習で劇団指揮でミュージカルを見た時だろうか? テレビで知ってる俳優が出てた舞台に行ってみた時だろうか? 今となっては分からないけど、私は立派に舞台オタクになっていた。少ないおこづかいで舞台を見たり、戯曲を買って読んだり……。
なんで私の中学には演劇部がないんだろうなんてずっと考えてた。しかし、私は今年ついに門を開く! 演劇部の!
2025年、春。
私―――
入学式はテキトーに突っ立ってたら終わった。さて、お次は新学期の交流だけど……。
私は尊敬する女優の一人―――
まぁ、演劇が出来れば……それでいい……。とりあえず、お手洗い行こ……。
~
戻ってきたら、なんかかわいい子が私の席に座ってる。見るからに陽キャ……サッカー部のマネージャーとかしてそう。で、エースと付き合って青春を謳歌するんだろう。はー、しんど……。
私が目の前の陽キャの姿をした空想の人物に呪詛を頭の中で唱えてたら陽キャが私の方に振り向いた。
「ごめん! 後藤さんの席だったよね?」
「あ、いや、別に……」
さすが、陽キャは名前を覚えるのも早い。私なんかは戯曲を読む途中で「アレ? コイツ誰だっけ?」って思って登場人物が書かれてるページと照らし合わせながら読んだりするのに。特にシェイクスピアとかね。
「そうだ、後藤さんは部活入るの?」
「え、部活? まぁ……演劇部に入ろうかと……」
「え!? 演劇部!?」
何? 意外とか思った? 陰キャも舞台立ちたいんだよ。
「私もなんだ~!」
え!? 意外!! サッカー部のマネージャーじゃないの!? かわいい子も演劇興味あるんだ……!!
「そ、そうなんだ! あ、あの、好きな戯曲とか何? あ、私はね、テネシー・ウィリアムズとか、チェーホフとかイプセンとかその辺りが好きなんだけど……あ、井上ひさしとか野田秀樹とか永井愛も!!」
「おぉ……後藤さんすごいね!」
しまった。周りに演劇好きなんていなかったからはしゃいでしまった……。
「私は~……ごめんちょっとよく分かんないや! あ! でも劇団指揮は好きだよ! 一回『アラジン』観に行った!」
あ~……はいはい、そうですか。そういう人ね。いや、ミュージカルは別に素晴らしいよ? でも、高校演劇でミュージカルとかしないし、舞台でキラキラ一人芝居とかしてチヤホヤされたいタイプね、かわいいし。この人、どーせスグやめそうだなぁ。
「あー……『アラジン』ね。いいよね。私も好き」
「だよね! これからよろしくね!」
こうして、私の登校初日は陽キャとちょっと話して終わった。
まぁ、入学直後なんて友達が出来るまでの埋め合わせでしかないし、いずれ絡みもなくなるだろう。私はあの子の序盤ノーマルポケモンなのだ。外されるまでは仲良くしよう。
~
私は陽キャこと
「お、今年は六人か」
女性の部長がその後に「今年は多いね~」とか言ってた。酒井雅美の出身校とはいえ、演劇部の活動はそこまで盛んではないらしい。まぁ、全国大会出たいとかじゃないから逆に好都合だ。
「じゃあ、他己紹介しよっか! ちょうど偶数だし」
「タコ紹介?」
コレは典型的なワークショップの一つで自分ではなく、誰かの紹介をするというもの。間違っても軟体動物じゃない。
「へぇ、変なのだね、愛ちゃん!」
浦路さんはいつの間にか下の名前で呼んでくるようになった。
「ワークショップの定番なんだよ」
あの鴻上尚史も『演劇ワークショップのレッスン』で取り上げてる。
「そうなんだ!」
他己紹介……苦い思い出がある。演劇ワークショップに行くと大体決まってこれがある。私は陰キャすぎて何も聞けず何も話せず最低限やりました……くらいで終わる。
「お、君、結構慣れてそうだね」
「あ、いや……」
「じゃあ、トップバッターは君……えっと―――」
「……後藤です」
「後藤さんからね! そのつもりで! じゃあ、みんな知らない人とペア組んでね~」
最悪だ。そもそも私はワークショップが苦手だ。
もちろん、アドリブの重要性は理解してる……理解してるけど……!!
「頑張ろうね、愛ちゃん!」
「うん……」
案の定、私は最後まで残った人と組むことになった。
「うん、じゃあみんなペア組めたし1分ずつ! 相手のことを知ろう!」
部長がタイマーをピッと鳴らす。私にはそれが嫌に大きな音に聞こえた。
「あ、あの……名前は……?」
「
「趣味は……?」
「読書」
「……好きな本は?」
「『ロミオとジュリエット』」
シェイクスピア……王道。いいね。私は一時期こじらせて「シェイクスピア? 過大評価だよ笑」みたいな考えだったけど、やっぱり普通に面白い。あの時期は黒歴史としてそっと私の中から抹消した。
その後も何だかんだ志摩さんに質問して、まぁなんとか最低限できた。
「じゃあ、後藤さんからやってみようか!」
「あ、はい」
ワークショップとはいえ、経験者ヅラしといてこの程度かよとか思われたくない……。そもそも経験者ヅラなんてしてないけど!!
「彼女の名前は志摩ゆうさんで―――」
やばい、このままだと20秒くらい余る……。経験者ヅラしといてこの程度かよとか思われたくない!(2回目)
そもそも経験者ヅラなんてしてないけど!!(2回目)
「あ、あと、志摩さんは話し終えると唇をキュッとする癖があります。それと、考える時に必ず右下を伏し目がちに見る癖も……あ、えっと、あと……―――」
なんとか、残り20秒持たせた……。癖の話とかいう見りゃ誰でも分かるようなものだけど。
「おぉ、結構いいね」
部長のフォローも手厚い。
その後は、みんなちゃんと1分しっかり相手の紹介をできてて、私みたいになんとか場を繋ぐ相手の癖の話などという見苦しい足掻きは見せなかった。
また、苦い思い出の一つに追加だな。私は未経験の高校生より他己紹介が下手っと……。
ははは……まぁ、私も未経験みたいなもん。ワークショップにしか行ったこと無いし……セリフもお風呂でちょっと言ってみるくらいしかしてないし……。
「愛ちゃん! 一緒に帰ろ!」
「あ、うん」
ちなみに浦路さんの他己紹介はスゴかった。他のワークショップでも、積極的で
さすが陽キャ、演劇はコミュニケーションだとよく言われる。となると、私なんかより浦路さんの方が演技上手いんだろう。
私は陰の香りを感じた志摩さんと細々とやってこう。今日は浦路さんと帰るけど、安心してね志摩さん。私はすぐボックス行きだから。
~
体験入部から一週間、いよいよ本入部である。
「体験に来てくれたのは六人で、結局来てくれたのは後藤さんと、浦路さんと、志摩さんの三人か~」
「よろしくお願いします」
まぁ、演劇部なんてそんなもんである。十何人も入るような部活じゃない。そういうのは強豪校だけなのだ。
「じゃ、改めて部長の
「全員二年なんだから言わなくていいでしょ」
「ま、そっか!」
「私は副部長の
「
「この3人です!! あと、三年の先輩がそろそろ一人戻ってくるんだけどね、しばらくこの六人で頑張ろう!!」
6人か、まぁ、普通の演劇部だと思えば少なくないかな。たまに1人の演劇部とかあるし。
「6人いれば結構読めるのあるし、最初はいくつか台本読んでこう! 性別気にしなくていいから、なにか読みたいのある? ここそんなに台本無いけど」
6人かー。パッと思い付くのは……ニール・サイモンの『名医先生』(正しくは25人を6人で割り振れるようになっている)とかかな。別役実の『犬が西向きゃ尾は東』もあるけど。三島由紀夫の『サド侯爵夫人』は全員女性だしちょうどいいかも。性別気にしなくていいって言ってたけど。
まぁ、最初に読むような戯曲じゃないから言わないでおこう。
「あ、私は裏方したいので、読むより聞きたいです」
「志摩さん珍しいね! じゃあ5人だね、何かあったかな」
5人か、結構ある。サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』とか、平田オリザの『この生は受け入れがたし』とか、あと―――。
「あ! 『歌わせたい男たち』とかどうですか?」
えっ!? 浦路さん、永井愛知ってるの!? 意外。てっきり全然詳しくないかと思ってた。
「浦路さん永井愛知ってたんだね!」
「調べた! 入学式の日に愛ちゃんが好きだって言ってたし、名前同じだ~って思って!」
そういうことか、でも調べてくれたのはちょっと嬉しい。
「じゃあ、それ読もっか!」
それなりに戯曲は揃えてるようで『歌わせたい男たち』もあった。それを4部コピーして読む。配役はじゃんけんで勝った人から決めた。
~
読み終えると浦路さんがぐでっとうつ伏せになった。分かるよ、その気持ち。
「いやぁ~、読むのって難しいね!」
「最初にしては2人とも上手だったよ~!」
噛みまくりで、スベりまくりで、しかも、演技見られるって恥ずかしいよね。私も恥ずかしい。けど、楽しい!! やっぱいいなぁ、演劇って。
「それにしても久しぶりに戯曲読んだね~」
「普段、千田が遊びたがるからだろ」
「まぁ、戯曲読むの大変だからね~」
ワークショップが大事なのは分かるけど、私は戯曲をバンバン読んでいきたいな。
~
初めての部活動も終わり、私は浦路さんと帰っている。ちなみに志摩さんはいつも一人で先に帰っちゃう。
「そういえば、なんで浦路さんは演劇部入ったの?」
「え?」
「あ、いや、そういえば聞いてなかったなーって」
しかも、あんまり演劇知らなさそうだったし。
「んー、体験入部楽しかったし、それで? 今日の台本読むのも楽しかったし」
「おぉ……」
「おぉって何のおぉ?」
「あ、いや、嬉しいなって」
「ならよかった!」
私はこの日、初めて浦路さんと仲良くできそうな気がした。
演劇部の日常 道楽堂 @Dourakudou
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