第24話 王女に全てバレる

 先日はベルトランに誘拐されたものの、それ以外は平穏な日々が続いていた。


 最近の出来事で嬉しかったことと言えばドロシーのおかげで電子レンジが使えるようになったことだ。やはり家電が揃うと料理を作る効率や作り甲斐が変わってくる。


 ゴブリンやブラッドウルフなどの異種族たちも屋敷の周りに相変わらず住み着いている。異種族たちと野菜畑で野菜を収穫したり、一緒に森へ入ってキノコや素材を集めたりして、のんびりと過ごしていた。

 

 そんなスローライフを満喫していたある日。屋敷の前に大きな馬車が止まった。何事かと思ったらその中から兵士に厳重に護衛されたアナスタシア王女とベルトランが現れた。


「久しぶりですわね、ダイスケ様」


 なぜこんなところに王女が。アナスタシア王女は周りを見渡すと異種族たちを凝視した。


「その前にこの者たちは何ですか?」


 屋敷の周りにはオークやゴブリンが気ままに暮らしている。バニラ率いるブラッドウルフたちは森に狩りに行っているが、その他の種族は突然の訪問者にきょとんとしていた。


 まずい。魔獣たちを浄化したことを何と説明すればいいだろう。


「まあいいですわ」


 俺が言い淀んでいると王女は話があると言って屋敷に入った。


「あら?なぜクラリスとドロシーがここにいるの?」


 屋敷ではドロシーとクラリスが仲良く談笑していた。ああ、なんか面倒なことになってきたぞ。


 俺は王女に二人を護衛として雇ってる旨を説明した。クラリスとドロシーはしおらしく、口をつぐんでいた。


 頼むから二人とも余計なことは言わないでくれ。心からそう願った。特に【業務用スーパー】の話をこれ以上誰かにバラされたくはない。幸い王女にそれ以上追及はされなかった。


「それはそうとあの時の約束、しっかりと果たしてもらいますわ」


 約束?そんな事しただろうか?過去の記憶を遡ったが思い出せない。


「あの屋台での話です。あの約束を忘れたのですか?」


 ああ、思い出した。ずっと前に金を稼ぐために【業務用スーパー】で取り寄せた焼き鳥を王都の屋台で売ったことがあった。


 その時に王女に会ってどこでこれを仕入れたのか、その火の出る魔道具は何だとか色々と質問攻めをされたのだった。


 俺は誤魔化して「またどこかで会ったらお答えしますよ」とか言った気がする。

 しかしこの王女はそんなことのために、わざわざこの屋敷まで訪ねてきたのだろうか?


「悪いけどあの焼き鳥の仕入れ先やレシピは教えられないんだ」


 そもそもあれは【業務用スーパー】から取り寄せたタレ付き焼き鳥なので、自分が一から作ったわけではない。そう言ってお引き取り願おうとしたが王女は別の条件を出してきた。


「どうしてもあのレシピを教えてくれないと言うのですね?でしたら別の条件で許してあげましょう。私にあれを超える料理を食べさせてください。それで勘弁してあげますわ」


 仕方ないな。要するにいつも通り美味い食事を作って食べさせればいいということだ。面倒なことになりそうなので【業務用スーパー】のスキルとか電子レンジを隠して作ればいいか。


 仕方なくキッチンに立って料理を始めた。でも焼き鳥より美味しいものを作れというのは、なかなか難しい注文だ。考えあぐねていると屋敷の近くに狩りから帰って来たバニラがブラッドウルフたちを率いてやってきた。

 

「なんだ!あのオオカミの群れは!?」


 兵士たちが外で声をあげて驚いている。俺は急いで外に出るとバニラたちに説明をする。


「この人たちは敵じゃない。落ち着いてくれ」


「しかし主よ。前に国王のことが嫌いだとおっしゃっていたはず。この者たちは国王の手下ではないのですか。主が命令すればこの者たちをすぐに噛み殺してやるのですが」


 バニラはそんなことを言ったが後で肉を食わせてやると言うと黙ってくれた。王女は疑い深げに俺とバニラを交互に見る。


「ブラッドウルフ?でもなぜダイスケ様に懐いているのですか?」


「まあそれもいろいろあってだな」


 王女は明らかに俺に疑いの目を向けている。


 外では今にも兵士たちとウルフたちが一触即発の雰囲気だ。兵士たちと睨み合って一歩も動かない。そこへクラリスが間に入って仲裁していた。


 まずい。早くしないと俺たちの生活の全てがバレてしまう。美味しいものをさっさと作って、アナスタシア王女には満足して帰ってもらおう。


 俺は王女が焼き鳥を絶賛していたことを思い出すと、味の濃いもので肉系が好きなのではないかと判断した。簡単にできる料理でなおかつスキルで取り寄せ可能なもの。


 キッチンから別の部屋に移ると【業務用スーパー】を発動させ商品を取り寄せた。いちいち部屋を移動するのは面倒だがこのスキルを王女に知られるわけにはいかない。


 すぐに作れる美味しいものとなると電子レンジで簡単に調理が終わるものが良いだろう。何を出すか迷ったが、自分が過去に食べたことのある定番商品に決めた。


 それはスパイシーチキンレッグだった。この商品はカレー風味に煮込まれたもも肉が丸ごと2本入っている。


 屋台での反応を見るにこの世界では肉や香辛料は手に入りにくいはずだ。だから塩コショウ以外の味付けをした肉は物珍しく、美味しく食べてくれる人がたくさんいた。ということはカレー味の骨付き鳥モモ肉を出しても美味しいと感じるはず。

 

 そこで気づく。王女の前で電子レンジを使ったら大事になる可能性があるのではないか。


 この世界で電子レンジを使っているのは多分俺たちだけだ。さすがにこの家電は魔道具だと言い張っても疑われる気がする。俺はイリスを部屋に呼んで頼みごとをした。


「王女とリビングで世間話でもして引きつけてほしい」


「承知です」


 キッチンとリビングは真ん前だ。王女に気づかれないように俺とドロシーはキッチンから電子レンジを別の部屋に運んだ。


「ドロシー、レンジに魔力を注入してこの料理を温めてくれ」


 製作した家電は魔力が無いと動かない。手っ取り早くレンジを動かすためには直接魔術師が魔力を注入するしかない。

 

「なんで僕がこんな目に・・・」


 ドロシーは直接魔力をレンジに注入した。チキンレッグを皿に移してレンジで温めるとスパイシーな香りが漂って、食欲をそそられる。これならあの王女も納得して帰るだろう。


「ねえダイスケ、美味しそうな匂いだね」


「ああ、王女に出す前に少しつまみ食いするか」


 そんなことをこそこそと言いながら電子レンジからチキンレッグを取り出そうとしたところ、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「二人で何をしてますの?」


 声の方を見るとそこには王女が立っていた。


 その後、電子レンジという異世界の家電を使っていたことや、【業務用スーパー】で自分たちだけが美味しい食事を手に入れていたことなど、すべてが王女にバレてしまったのだった。

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