4
目を開けると、そこは神戸市須磨区だ。校庭の前に人が集まっている。何があったんだろう。2人は首をかしげた。
「ここは?」
「須磨区だ」
希望はこの辺りを知っていた。だが、ここで何か事件があったのかは、全く知らない。
「小学校で何があったんだろう。警察が集まってる」
と、勇気はある事を言った。それは、両親から聞いた話だ。両親は須磨区に住んでいて、その事件を知っていた。そしてその頃は、とても震え上がったという。
「これは酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)?」
1997年、神戸市須磨区で連続児童殺傷事件が起こり、小学生5人が負傷、2人が死亡したという。殺した男が『酒鬼薔薇聖斗』と名乗っていた事から、酒鬼薔薇聖斗事件とも言われる。神戸市のみならず、全国が震撼した事件だが、本当に全国を驚かせたのは、その犯人だったという。
「何だい?」
「14歳が小学生を殺した事件だよ」
それを聞いて、希望は言葉を失った。14歳が人を殺すなんて。とても信じられなかった。
「そんな・・・、中学生が?」
「本当だよ」
勇気もとても信じられないような表情をしている。それを聞いて、勇気は絶句したという。
「そんな事をするなんて・・・」
「この時は大変だったって父さんから聞いた。帰り道は気をつけなさいと言われたらしいよ」
両親はこのころ小学生だった。帰り道は気をつけなさいとたびたび言われていた。その時は、中学生が起こしたと思わなかった。
「それよりも、14歳が起こしたってのが衝撃的だよ」
「嘘のようだけど、本当なんだよ」
「信じられない・・・」
希望は黙り込んでしまった。どうしてそんな事をやってしまったんだろう。どうして道を踏み外してしまったんだろう。
「こんな事件があったんだと、忘れないようにしたいね」
2人は決意した。こんな中学生になりたくない。もっとまじめで、いい子にならなければ。そうすれば、きっといい未来が待っているだろうから。
「いい子にならないと!」
「僕もだよ!」
2人が校門をじっと見ていると、校庭の前に袋がある。その中には、男の子の頭がある。それは、14歳の少年が置いたものだ。彼らは全く知らなかっただろう。これを置いたのが14歳だというのを。
「こんな事もあったんだね」
2人はじっと見ている。こんな事もあったんだと、これからの子供たちに伝えていかないと。そして、こんな事をしてはいけないんだと言わないと。
「これも伝えていかないとね」
「そうだね」
再び、辺りが光に包まれた。今度は何の思い出だろう。それを繰り返すたびに、わくわくしてきた。
「わっ!」
2人が目を開けると、そこはほっともっとフィールド神戸だ。このころはヤフーBBスタジアムとなっていた。イチローが去り、仰木監督が勇退してからのオリックス・ブルーウエーブは低迷を続け、最下位続きになっていた。2003年には1試合で30失点近くした事もあるという。あまりにもあの時とかけ離れている。そして、観客は減っていった。
「これは?」
「グリーンスタジアム神戸だ」
だが、球場名をよく見ると、ヤフーBBスタジアムになっている。命名権を取得したようだ。
「でもヤフーBBスタジアムになってるね」
だが、希望はある事に気が付いた。横断幕がたくさんある。異様な光景だ。横断幕はそんなに多くないのに、どうしてこんなにあるんだろう。
「あれっ、どうしたんだろう。横断幕があんなに」
と、勇気はある出来事を思い出した。球界再編だ。近鉄バファローズとオリックス・ブルーウエーブの合併報道が発端となった出来事で、1時期はもう2チームが合併して、セリーグとパリーグが1つになる1リーグ制も考えられていたという。その噂にファンは立ち上がり、合併反対、1リーグ制反対と反対運動が繰り返されたという。そして、当時の選手会の会長だった古田敦也が球団のコミッショナーたちと話そうとしていたそうだ。だが、なかなか古田敦也の思い通りにはいかず、9月の週末にはストライキが行われるぐらいになった。
「あっ、これ、球界再編の頃じゃないかな?」
「えっ!?」
希望はそれを聞いて、何かを感じた。今のセ・パ両リーグの編成によく似ている。その後、日本ハムの本拠地が東京から北海道に、その年の暮れにダイエーホークスがソフトバンクホークスになったのかな? 希望は知らなかった。日本ハムの本拠地が札幌に移ったのは2005年の暮れという事を。
「オリックス・ブルーウエーブが近鉄バファローズと合併するとわかって、それから球界再編が行われたんだって。で、楽天イーグルスができたって」
結局、合併は避けられず、両チームは合併、オリックス・バファローズとなった。そして新球団、東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生した。
「そうだったんだ」
「イチローが去って、ブルーウエーブは低迷期に入ったんだね」
スタジアムの状況を見て、2人は栄枯盛衰を感じていた。あの頃、天才打者のイチローを見て興奮した日々がまるで嘘のような光景だ。
「ああ」
「栄光あれば、衰退もあるのかな?」
あらゆるものは栄光があれば、衰退もある。そして、衰退した後は、また栄光がやってくる。これは衰退の時期だろうか?
「そうかもしれない。だけど、それは新しいスタートになるんじゃないかな?」
「でも、あれからもオリックスって低迷が続いたんだよね」
だが、オリックス・バファローズは低迷が続いた。初年度には仰木彬をもう一度監督に呼んだ。だが、仰木彬はすでにがんに侵されていて、1年限りで勇退、その年の暮れに亡くなったという。それからのオリックス・バファローズは低迷が続き、最下位の常連になった。時々調子を上げる事があったものの、その翌年はまた低迷し、そして低迷が続いた。
「言われてみればそうだね」
「本当に、それはよかったんだろうかと思うね」
「ああ」
希望は寂しくなった。どうしてこうなったんだろう。新しい選手が台頭しなかったんだろうか? それとも、経営が良くなかったんだろうか?
「どうしてこんな事になったんだろうと」
「わかるわかる。その気持ちわかる」
それから何年か経って、バファローズの本拠地は京セラドームになってしまった。ほっともっとフィールド神戸で行われる試合は少なくなった。
「そして、オリックスは大阪に本拠地が変わってしまった」
「神戸の復興のシンボルだったのに」
希望は残念そうな表情だ。ブルーウエーブは神戸復興の力になったのに、どうしてこんな事で消滅しなければならなかったんだろう。新しい強い選手が台頭してくれば、運命は変わっていたかもしれないのに。それは仕方ない事なんだろうか?
と、2人は再び光に包まれた。今度は何だろう。
「今度は何だ?」
2人は目をふさいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます