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 2人が目を開けると、そこには夜の神戸がある。それを見て、2人はそれが何か、すぐにわかった。神戸ルミナリエだ。毎年行われ、多くの人が集まる。多くの人がイルミネーションに見とれている。その中には、南京町で買ってきた豚まんなどを食べている人もいる。とても賑やかだ。これはいつのルミナリエだろうか?


「これは?」

「ルミナリエだ!」


 2人は感動している。コロナ禍で一時期中止されていたけど、復活したらしい。自分たちにはわからないが、これが神戸の冬の名物だろう。


「このルミナリエって、阪神・淡路大震災で亡くなった人の追悼が込められているらしいね」


 それを聞いて、希望は驚いた。ルミナリエには、こんな想いが込められているとは。今年は1.17の後に行われる。今年も多くの人が来るに違いない。今年も行きたいな。


「そうなんだ」

「今年もやるけど、行ってみる?」

「ぜひ行ってみたいな」


 2人とも行ってみようと思っているようだ。きっと家族も行きたいと思っているだろうな。


「一緒に行こうよ!」

「うん!」


 2人はイルミネーションの中を歩いていた。とても感動的だ。ルミナリエへの想いを知ると、その光がまるで亡くなった人々の灯のように見えてくる。そう思うと、このイルミネーションがいつまでも、神戸の冬の風物詩になってほしいと思ってしまう。


「本当にきれいだね」

「これが復興の希望の光なんだね」

「うん」


 2人はなくなった人々の事を思いながら、イルミネーションの中を歩いていた。きっとこの光は、様々な物を失った神戸の人々への希望の光に違いない。


 と、再び光に包まれた。今度は何だろう。全く予想できない。


「うわっ!」


 目を開けると、ここはほっともっとフィールド、いや、グリーンスタジアム神戸だ。これはブルーウエーブの試合だ。この日の相手は見た事のないユニフォームだ。胸には『NIPPON HAM』と書かれている。それを見て、これは日本ハムファイターズなんだなと思った。この頃も北海道が本拠地なんだろうか? 全くわからない。2人は知らない。この当時、日本ハムファイターズの本拠地は東京だったという事を。


「ここは?」

「ほっともっとフィールド神戸だ!」


 見渡すと、多くの人が集まっている。この頃はとっても強かったんだなと想像できる。そして、アナウンスがDJっぽくてかっこいい。こんな時代もあったんだな。


「見た目からしてそうだけど、こんなに人が集まってたんだ」


 と、2人はスコアボードを見た。そこにはイチローの名前もある。これはいつの頃だろう。


「そりゃそうじゃん! スコアボードをよく見てよ! イチローがいるよ!」

「本当だ!」


 と、『イチロー・スズキ!』のアナウンスが流れ、スタジアムがどよめく。イチローがゆっくりとバッターボックスに立つ。10回裏、ノーアウト1塁だ。この試合、負けると思ったホーム最終戦、9回2アウトでD・Jが同点ホームランを放ち、ホームで優勝を決める希望をつないだ。そしてこのイニング、前のバッターの大島公一がヒットを放ち、ノーアウト1塁になった。


「あっ、ちょうどイチローの打席だ!」

「10回裏なのか。で、ノーアウト1塁」


 とても感動的な光景だ。観客が一斉にイチローと叫んでいる。弱かった頃のバファローズがまるで嘘のようだ。こんなに強かったんだな。そして、人気があったんだな。


「あっ! 打った!」


 と、イチローがレフトへヒットを放った。1塁の大島は全力で走る。観客は歓声を上げている。ひょっとして、サヨナラになるのではと期待している。


「えっ、えっ!」


 大島が3塁を回った。2人はその時予感した。これはサヨナラでリーグ優勝を決めた場面だろうか? そう思っていると、大島がホームインした。その瞬間、すでに飛び出していた選手はホームベースで抱き合い、喜びを分かち合った。


「サヨナラ!」

「あれ見て! 優勝!」


 2人とも興奮している。これを生で見た人は、さぞかし感動しただろうな。あれから1年半余り、こんな光景が見られるのは、力ではない、技術ではないような気がしてきた。それは、神戸を元気づけようとする人々の力のように見えた。


「まさか、これはオリックスがパリーグを2連覇した時の映像?」

「きっとそうだろう」


 満員のスタジアムはどよめいている。去年はリーグ優勝に王手をかけながらも、ホーム最終戦に敗れてホームで胴上げを見せられなかった。その悔しさがあって、この日があるんだろう。


「すごいなー。満員の観客の中で、地元神戸での胴上げって」

「本当だね」

「感動的!」


 2人はしばらく見とれていた。優勝の瞬間は、やっぱり見とれてしまう。どうしてだろう。


「こんな時代があったんだね」


 と、また辺りが光に包まれた。


「わっ!」


 目を開けると、またグリーンスタジアム神戸だ。夜のグリーンスタジアム神戸で、相手は巨人だ。どうやら日本シリーズのようだ。リーグ2連覇を果たした1996年の日本シリーズは、流行語にもなった『メークドラマ』で大逆転優勝を果たした巨人だ。場面は9回2アウトだ。でも、何の瞬間だろう。全く想像できない。


「あれっ、夜?」

「相手は巨人。って事は、日本シリーズかな?」


 2人はその試合を見ていた。この試合のスターティングオーダーにも、イチローがいる。


「きっとそうだ! あの頃のオリックスも、こんなに強かったんだね」

「ああ」


 と、仁志の打球がレフトへ飛んでいく。2人はそれを見つめている。


「あっ!」


 その打球を、レフトが捕る。その瞬間、観客がどよめいた。


「捕った!」


 その瞬間、紙吹雪が舞う。これは日本一を決めた瞬間のようだ。


「えっ、紙吹雪?」

「これは、日本一になった時の様子?」

「きっとそうだ!」


 2人はその様子をじっと見ている。『がんばろうKOBE』に込められた人々の想いが、ようやく実を結んだようだ。とても感動的だ。これで神戸の人々はとても勇気づけられただろう。


 だが、希望は別の想いでそれを見ていた。あれからオリックスは26年も日本一がなかった。そして、長い低迷があった。そう思うと、どうしてこうなってしまったんだろうと思った。


「すごいなー。あれから26年もオリックスは日本一にならなかったのか」

「あれから長い低迷があったと聞いた。イチローがアメリカに行って、田口もアメリカに行って」


 確かにそうだ。長谷川滋利も、イチローも、田口壮もメジャーに行ってしまった。そして、オリックスは低迷期に入った。あの強かった頃がまるで夢だったかのようだ。


「世代交代が進まなかったんだね」

「でも、こんな強い頃があったんだと忘れないでほしいね」


 それを見て、勇気は思った。こんな時代があったんだと、地震で傷ついた人々を励まし、強かった時代を忘れないでほしい。これがスポーツの力なんだという事を。


「うん。今ではほとんどプロ野球が行われなくなったほっともっとフィールドにも、こんな時代があったんだね」

「ああ」


 今では全く想像できない。だけど、これは事実だ。


「今では全く想像できない。時代は変わったんだね」

「もうあの頃の栄光は戻ってこないのかな?」

「そうかもしれないね」


 またもや光に包まれた。今度は何の場面だろう。


「今度は何だ!」

「うわっ!」


 2人は目を閉じた。

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