挨拶
さて、ここまで来た。準備は抜かりなくできたはず。あとはやるだけ。ミスはしないように。確実にやろう。
「よし!」と顔を両手でばちんと叩き無理やり笑顔を作る。
「おはようございます!本日、1日だけですがボランティアできました、枝野と申します。よろしくお願いします!」
施設の入り口から入ってすぐのところの事務所で自己紹介をする。ここまでは大丈夫。
「あっおはようございます。」とデスクが横2列に連なった奥の方から男性が小走りで駆け寄ってくる。
「ここの所長をしております、今野と申します。よろしくお願いします。確かあのシャッター街の近くからいらしたんですよね?ちょっと遠かったんじゃないですか?」
と、首から下げたネームを見せながら早く口でまくし立てる今野。
「ははっ少しだけですね。」と苦笑いをしつつ適当に流すし、相手からも流される。
「確か経験者でしたよね?なら話が早い!早速ですけどここのデイサービスの説明をしていきますね。」
一通り説明を受けたあと次は施設内の案内が始まった。
「ここが例の場所で、綺麗にはしましたが気になる方はやっぱ気になりますよね。あのときいた方々は気味悪がって違うデイサービスに行きましたもん。」
「で、そこに共用のトイレがあります。あとは、こちらから関係者の方ははいっていただいて…」と事務所の裏からデイサービスの現場の方へ案内をされる。そこにはカウンターに仕切られた職員が使用する備品やパソコンなどが置かれている。
「ここで記録とかを打っています。あっこちら今日ボランティアの方で枝野さんと申します。こちら現場の責任者になりますね、近藤と言います。今日は近藤が指示をしますのでよろしくお願いします。では近藤さんお願いします。」
そう言うとそそくさと今野は事務所へ去っていく。代わりに近藤が話し出す。
「枝野さんですか。今日はよろしくお願いします。では、早速ですが経験者とのことなので今日来られている方とお話をしていただけたらと思います。何かありましたら声かけてください。」と、こちらが話す暇も与えず近藤も足早に他の職員のところへ行った。
時間は9時50分。
さて、あそこらへんの人と話でもしようかな。
男性2人が将棋盤を挟んで対峙していた。1人はハゲ、1人は白髪交じりの黒髪で片耳にピアスをしている。2人とも眉間にしわを寄せている。
「おはようございます。今日ボランティアできました。将棋してるんですか?」
「おお、そうだよ。」
「あんちゃん名前は?」
「枝野と申します。お名前伺ってもよろしいですか?」
「おれは飯塚ってんだ。飯塚明夫。」
ハゲが将棋盤を睨みながら言う。
「俺は高橋幹人。枝野くん何歳なの?どこ出身?どこから来たの?」
ピアスもとい高橋が矢継ぎ早に質問をしてくる。
「高橋さん、そんないっぱい質問したら分かんないって。聖徳太子じゃあるまい。」
「それもそっかすまんすまん。」
そんな売れない漫才コンビのツカミみたいなしゃべりが終わったあと飯塚が聞いてきた。
「ところであんちゃんよー、ここの噂っていうかほんとに起きたことなんだけど知ってるか?」
「知ってますよ。わりとここら辺じゃ有名ですからね。全国ニュースにもなったぐらいですし。まだ捕まってないんですもんね。」
「そうそう。おっかねーよな。なあ高橋さん。」
そう言うと、ぼくのことをじっと見てなにやら考えている高橋に話をふった。当の本人は自分の世界に入り込んでいたかのようで話をふられた際は驚きを見せていた。
「ああ、あのことね。怖い怖い。所長を刺し殺して逃走してるんだってね。どごに行ったのかね〜。」
「警察犬いれてもだめだったんだろ?不思議だね〜。摩訶不思議。あれからだいぶ経ってんだもんなー。テレビ観ておったまげたもんな。近くで起きたことだったし。」
「そういえば懸賞金かけられてんだろ?なんぼだったけかなー。」
事件にまつわるこ内容だから声を潜めながら話は進んでいった。結構話したと思っていたらまだ10分しか経ってないことに、テレビに映し出された右隅の時計で気づいた。まだまだ長い1日になりそうだ。
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