夢日記
阿ト 策
第1話 夢 夜の山
夢を見た。
夜の山。木々の隙間から、月の光が差し込んでいる。
男がいる。薄汚れた和装に髷を結っている。少なくとも江戸時代以前の時代であろう。
男は、月明かりを頼りに山を登っていく。
頂上までは一本道であるが、草木をかき分けながらしか進むことができない。
山から吹き降ろす風が、男の歩みをさらに重くさせた。
なぜ男が山を登っているのか。それは、この日は男が山の頂上にある小屋の番を任されていたからである。
ようやく山の中腹だ。
男は、草木の隙間から不気味なものを目にした。
ずらりと並ぶ白い着物に白い覆面の集団。手には松明を持っている。
男は戦慄した。
ああ、あの集団はきっとふもとの集落を襲うに違いない。
あの松明で火をつけるに違いない。
男は、進んでいった。
山の上に向かって。
よかった、よかった。
俺が山小屋の当番でよかった。
死ななくて済む。
しかし、白覆面の集団に見つかってしまえば自分も危うい。
何しろ、この山は一本道だ。
白い覆面は火をつけたあと、この一本道を登るだろう。
自分たちが燃えてしまわないように。
ただ、男の目指す山小屋は一本道から僅かに外れたところにひっそりと建っており、地元の人間以外はたどり着くのが困難だ。
はやく、はやく、山小屋まで行かなければ。
男は必死に山を登っていく。
時には地面に両手をつきながら。
ぜぇぜぇと息を切らしながら、どうにか男は、一本道を登りきった。
地元の人間しか知らない、目印がある。
円柱状の小さな石。この石の方向にまっすぐ進むと山小屋はあった。
1人分が座れるスペースしかないような小さな小さな小屋である。
外からバチバチと音が聞こえる。
ああ、火がついたんだな。
俺の集落は明日の朝には燃えかすしか残っていないのだろうな。
よかった。
逃げられてよかった。
俺が独り身でよかった。
あの集落が燃えてよかった。
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