第4話 サキタカへレッツゴー

 皇帝ともなれば、業務量も過多だ。アレックスは馬車の中で仕事をしつつ、サキタカ領へ向かう。


 馬車の中には引っ切り無しに『通信鷹』が訪れる。この鷹は、遠隔地と通信でやり取りできるよう、旧バチ王国の魔術師が開発した魔導具だ。それにアレックスが書類のやり取りもできるよう、機能を追加した。


 鷹がデータ化された書類を持って馬車に追いつき、アレックスが事務処理したものを再度データ化し、鷹に飲みこませる。それをまた鷹が帝都まで運ぶ。その繰り返しなのだ。


(これを十五歳でやってるのだから、お見事だわ)


 アレックスが、トウショウグウ帝国の前身であるバチ王国の国王に就任したのが十二歳だったが、十二歳の国王は異例中の異例。他国はチャンスとばかりに攻め込んできたが、アレックスは怜悧な頭脳ですべて退け、三十倍返しの反撃をして大陸を制した。


 アレックスは秘書官と共に馬車で仕事をし、その横をTS変装したクラウディアが馬で警護する。五十人ほどの人数でサキタカ領へと入った。



◇◆◇



「これはこれは皇帝陛下、遠路はるばるこのようなところに何の御用でしょう?」


 とっても迷惑、という顔でサキタカ領領主、グラハム伯爵は揉み手をしながらアレックスを出迎えた。かつてこの地を統治していた王族は、領地縮小のうえ、帝国内では伯爵の地位を与えている。


「最近税収が落ちているようだから、心配になったのだ。おニューになったお城も見てみたいからな」


 アレックスは税収、お城、というワードを出してグラハム伯爵の反応を見ている。


「今日は帝国国税局と特別公安局の者も連れてきているのだ。ちょっと査察に入らせてもらうよ」


 そう言うと騎士に扮した専門家達がぞろぞろと城へ入ろうとする。


「ちょ、ちょっと待った! 査察の方が来るなんて聞いてませんけど?」


「抜き打ち検査ってやつだ。いいから行け」


 止めようとした伯爵に遠慮した局員達を「行け」と促す。サキタカ領の騎士達が阻もうとするも、アレックスは「私の言うことが聞けないのか!」と一喝して下がらせる。


(この反応……黒ですわね)


 ここで考えられる危険は、皇帝アレックスの暗殺。


 剣で立ち向かってくる敵なら、男の姿でも充分太刀打ちできる。しかし、そうでない暗殺の場合は――。


(やはり本気を出した方がよさそうね)


 クラウディアは乗ってきた馬車の背後に隠れ、TS変装を解除した。帝都から随行してきた侍女に化ける。


 クラウディアは刻印の力で自身を強化する他、もう一つ特殊な能力がある。それは対象の危機を察知する能力だ。


 対象となるのは、今のところアレックスただ一人。アレックスに危機が迫ると、左胸の『一騎当千の刻印』が熱を持つのだ。この力はTS変装時には出せない。女性の姿に戻る必要があるのだ。


(なぜ陛下の危機だけを感じることができるのか、謎ですわ)


 トウショウグウ帝国には、エドゥール皇国の血筋に連なる者が三名ほどいる。皆、クラウディアとは異なる異能の持ち主である。


 その三名に「なぜ陛下の危機だけを感じることができるのか」を聞いても、三名ともクスクスと笑いながら口を濁すだけで、はっきりと答えてくれない。


(なんなのかしらね、まったく……)


 疑問に思いながらも護衛としては便利な能力である。クラウディアは油断せずに神経を尖らせた。


「では皇帝陛下、お食事の用意ができておりますので」


 グラハム伯爵のその言葉を聞いた瞬間、ドクンと左胸の刻印が熱を持つ。


 行ってはダメ、そう言おうとした瞬間、アレックスが笑顔で断わりを入れた。


「せっかく用意してもらったところすまないが、私は市井しせいの様子も見たいんでね。食事はそちらで取らせてもらうよ」


 そう言って街へと引き返す。


「ちょ……っ! 皇帝陛下ともあろう方が」


「大丈夫。ちゃーんと変装するし、護衛もいるし、ね」


 グラハム伯爵は焦って止めようとするが、ね、と言ってクラウディアの肩を抱く。査察の人以外はアレックスに従って歩く。


 アレックスはごてごてした宮廷服を脱いで、シャツにベストを羽織る。剣を帯びたままなので、騎士階級には見えるが、上位貴族には見えないという微妙なファッションだ。


「陛下、肩を抱くのは無礼ですわ。いくら婚約しているからといって人前で」


 クラウディアはアレックスを見上げた。


(なんだか面白くないですわ。こんなに背が伸びてしまって)


 一年前までは、まだクラウディアの方が背が高かったのだ。


「すみません、つい」


「ついってなんですの?」


「いや、女の子に戻ったから、私とデートがしたいのかなぁと思いまして」


(すごいプラス思考ですわ。そんなことまっったく考えもしなかったのに)


 謝りつつも、アレックスは肩を抱いた手を離さない。


 顔立ちも、一年前よりも幼さが抜けて青年の凛々しさが芽生えつつある。なぜかクラウディアの胸がドキドキと高鳴った。


(ドキドキしている場合じゃないのに。今は護衛として神経を集中させなくては)



 ロデリックも、その他の護衛騎士も制服を脱ぎ、地味な服装になった。ぞろぞろとサキタカ領都の街を歩く。


「陛下、なんだか嫌な予感がします。絶対にお城でお食事を取ってはなりません」


 アレックスの耳元でささやく。


「あぁ……毒殺ね。一応毒の耐性はあるから問題ないとは思うけど」


 皇帝として、毒殺とは背中合わせの日常を送っている。アレックスは訓練として、少量の毒を慣らして耐性をつけている。


「大丈夫。心配なさらないでください。いや、心配してほしいですけど」


「どっちですか!?」


「うーん、どっちも」


 そう言うと、アレックスはクラウディアの頬に触れるだけのキスを落とす。クラウディアの心拍数は急上昇し、倒れそうになった。


「では、サキタカ名物のパスタを食べましょうか」



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サキタカ、は高崎をもじってます。

高崎のソウルフードといったらパスタでしょ。

作中には出てきませんが、お土産にだるま弁当も買って帰ってます。


ちなみにサツク温泉は、草津温泉をもじってます。


この時点でアレックスの身長は172㎝。クラウディアは168㎝。アレックスは最終的には178㎝くらいにはなる予定。

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