第44話 家族

「ピンク……!」

「ブラウン、それにみんなも!」

 校庭にて。セプテンを倒した私のところへ、輝美たちが戻ってきたのだ。

「ピンク、その姿……」

「あ、うん。……私も遂に、エボリューションフォームになれたんだ」

 私の衣装の変化に気づいた奈美に、そして他の二人にも、私はそう告げた。

「じゃあ、あのボスクラスは……」

「それも、私が倒したよ」

 そう言って、私は変身を解いた。……校内の生徒たちに感染していたBEMウイルスの発生源は、戦闘の最中に潰した。校舎を覆っていた黒い靄も消えているし、みんなも直に目を覚ますだろう。いつまでも魔法少女の恰好でいるわけにはいかない。

「とりあえず、これで一件落着かな」

「うん」

 みんなも次々と変身を解いていく。生徒たちが目を覚ますことに、言わずとも気づいたのだろう。

「良かったわね、由美」

「ありがと」

 言葉少なげながら、私を祝福してくれたのは一美だ。……彼女にはエボリューションフォームのことで色々相談していたから、それが報われて彼女も安心した様子だ。

「っと、それよりも」

 みんなとは他にも情報共有をしないといけないけど、それよりも優先するべきことがあった。……私は校舎の方へ行き、ママの元へと向かった。

「あれって、親船先生だよね……?」

「ってことは、まさか……」

「今は、そっとしておいたほうが良さそうね」

 私の行動を見て、みんなが口々に言葉を発する。でも、今はママのほうが大事だった。ママの元に着いて、校舎にもたれかかりながら座り込んでいる彼女に目線を合わせるために、私もしゃがんだ。

「ママ……ありがとう」

「……」

 私の声に、ママは少しだけ顔を上げた。……疲労のせいか、見るからにやつれてはいるけど、それでも私を睨みつけるような力強い目線を向けてきた。以前はこの目線が苦手だったけど、今では不思議と怖くない。

「私のこと、身を挺して守ってくれて。……ううん、今日だけじゃなくて、今までずっと。私のこと、想ってくれてたんだね」

「うるせぇ……親が子供を守るなんざ、当たり前のことだろ」

 私の言葉に、ママはぶっきら棒ながらちゃんと返してくれた。……今までも、こうやって対話を試みれば、ちゃんと会話が成立したんだろうか。だとしたら、私は今まで、どれだけの機会を逃してきたんだろうか?

「それでも、だよ。……私を愛してくれて、ありがとう」

「……ふん」

 私の言葉に、ママは顔を背けた。多分、照れてるんだと思う。

「ママも、パパも私のことを愛して、守ってくれて、助けてくれて、本当に感謝してる。……でも、私だって少しは成長してるんだから。いつまでも守られてばかりじゃないよ」

「……そうかよ」

 ママは竹刀を杖のようにして、ゆっくりと立ち上がる。その視線は、私の後ろ、その遠くを見ているようだった。

「今の言葉、あいつにも言ってやれよ」

「……え?」

 言われて、私も立ち上がって後ろを振り返る。輝美たちの更に後方、校門のほうから微かに声が聞こえてくる。

「由美ー! 晶さーん! 無事かーい!?」

「パパ……」

 学校に入ってきたのはパパだった。恐らく、私たちの危機を感じ取って駆けつけたのだろう。

「ったく……」

 そんなパパを見て、ママはしかめっ面だったけど、どことなく嬉しそうにしている気がした。それは多分、私の気のせいではないと思う。そうであって欲しいと、そう思った。



  ◇



 ……その日の夕方。


「なるほど。そんなことが……」

 家に帰って。私はパパに今日あったことを話していた。……あれから、学校は休校になった。生徒や教職員が全員倒れたのだから当然の措置だった。表向きには集団熱中症ということで処理するらしいけど、果たしてみんな信じるのだろうか?

「パパがなかなか来てくれないから、私、とても心細かったわ……」

「いや、あんたピンピンしてたじゃん」

 毎度のようにしおらしい態度でパパに抱き着くプリメラに、私は思いっきり突っ込んだ。彼女は元々BEMだったせいなのか、BEMウイルスの影響を全然受けてなかった。私たち魔法少女と違って戦ってもいなかったので、今回一切被害がなかったと言っていいくらいだ。

「おい」

「きゃっ……!」

 そんなプリメラを、ママが引き剥がして、アイアンクローをお見舞いしていた。確かにこいつの態度は私もイラっとするけど、さすがにやりすぎでは……と思ったけど、プリメラはうちに来てから好き勝手し過ぎだし、ここらでちょっと痛い目を見て貰ったほうがいいのかもしれない。

「お前、こいつの娘を名乗ってるんだったな。だったら、私の娘でもあるってことだ。あんまりオイタが過ぎるようなら、折檻しないとだな」

「い、痛いわ……パパ、助けて……」

 プリメラが藻掻いているけど、ママの手は外れる気配がない。パパ程バグった身体能力はしていないけど、ママも大概なのでは? プリメラの体が宙に浮いてるし。

「ちょ、晶さん……? その辺で勘弁してあげたらどうかな……?」

「そもそも、てめぇが拾ってきたんだから、てめぇがちゃんと躾けろって話だろうが。何娘くらいの歳のガキに抱き着かれて鼻の下伸ばしてやがるんだ」

「べ、別に鼻の下は伸ばしていないんだが……」

 パパがプリメラを庇おうとするけど、逆にママに詰められている。ちょっと可哀想だけど、ママの立場なら怒るのも当然だし、仕方ないかな。

「ちょっと由美! 助けなさいよ! お姉ちゃんでしょ!」

「しーらないっと」

 プリメラが助けを求めてくるけど、私は無視した。……これから一緒に暮らす以上、ここで蟠りを出し切っておかないと今後に差し支えるだろうし。ママに全力でお仕置きして貰おう。

「はーなーしーてー!」

「うるせぇ」

 プリメラが完全にキャラ崩壊してて面白い。このまま、ママの気が済むまで眺めていよう。

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