第24話 両想い



「司君……! 大丈夫……!?」

「な、奈美……」

 私が司君の元に到着した時には、由美のパパさんが彼を解放したところだった。

「俺は平気だけど……奈美、その姿は」

「それは、その……私、魔法少女だから」

 意外にも司君は元気そうで安心したけど、そのせいで今更ながら重大な事実に気づいてしまった。……私、司君に魔法少女の姿を見られた。さっきの戦闘も含めて、全部。

「魔法少女って……本当に? そういう設定でやってるパフォーマンスじゃなくて?」

「う、うん……って、そんなことより、本当に大丈夫なの? 体とか。外から凄い悲鳴が聞こえてきたけど」

 よりにもよって司君にこの恰好を見られたという気恥ずかしさを誤魔化すように、私は彼の体調を気遣った。……そもそも私が突入したのだって、彼の悲鳴が聞こえてきたからだ。何事もなかったとはとても思えない。

「そ、それは……怪我とかはしてないよ。あいつの触手が鞭みたいで滅茶苦茶痛かったけど……」

 私の問い掛けに、司君は顔を背けながらそう言った。私に悲鳴を聞かれていたのが恥ずかしかったのだろう。

「とりあえず、怪我がないのであれば何よりだな。……私は応援に徹するつもりでいたが、今回ばかりは私も出張るべきか」

 司君が無傷と聞いて、由美のパパさんは私たちを守るような位置に立つと、拳を握った。もしかして、由美たちに加勢するつもりなのだろうか……?

「パパさん、こっち来て! 今からエボリューションフォームを使うから、私とイノセントの護衛をお願い!」

「了解した!」

 パパさんは、輝美に呼ばれて彼女たちのほうへ向かっていった。……今の戦況は、由美が一人でボスクラスと接近戦をしていて、触手をステッキで殴って散らしている。由美が捌ききれない他の触手も、一美が狙撃することで援護していた。輝美は私たちの中で唯一エボリューションフォームが使えるからボスクラス相手の切り札になるけど、発動までに時間が掛かるから、動けない。となれば、由美のパパさんが輝美と一美を守ったほうが合理的だろう。

「奈美……その」

「司君……」

 そして、私と司君は戦場で期せずして二人きりになった。まだ予断を許さない状況なんだけど……こうしていると、どうしても思いが溢れてしまう。司君が行方不明になって心配して、ボスクラスに誘拐されたと思って不安になって、悲鳴が聞こえてきたときには生きた心地がしなかった。もう会えないんじゃないかなんて、そんなことを考えそうになった。

「……心配したよ。急にいなくなって、心配で心配で……」

 私は思わず、司君に抱き着いた。こんなスキンシップ、小学生のときでもあまりしなかったけど、今はこうしたかった。彼の温もりを感じていないと、司君がまたすぐにいなくなってしまいそうで、不安だった。

「奈美……」

 司君が、抱き返してくれる。そのことが、とても嬉しい。まるで、気持ちが通じ合っているみたいで。

「……好きだ」

 そんな風に思っていたら、耳元で囁かれた、不意打ちの言葉。

「……え?」

 思わず耳を疑って、体を離して、司君の顔を見た。

「今まで、ずっと言えなかったけど……さっき、あいつに捕まってた時に、さ。もしかしたら、もう奈美と会えないんじゃないかって思って。そんなの嫌だって、この気持ちを言えないままなんて嫌だって、そう思って、さ。……奈美、俺は奈美が好きだ」

「司君……」

 まさかの告白だった。司君が、私のことを、好き……あまりに衝撃的過ぎて、言葉を飲み込むのに少しだけ時間を要して。ちゃんと理解した時、私の心に芽生えた気持ちは―――

「……嬉しい」

 そう、私は嬉しかった。司君に好きだと言って貰えて、彼からの気持ちをはっきりとした言葉にして貰えて、私は喜んでしまったのだ。そして、私の気持ちも自然と形になっていた。

「私も……司君のことが、好き」

 司君に対して漠然と抱いていた気持ち。あやふやだった気持ちが、彼の告白によって、明確な形を持った。司君からの好意を喜ぶ気持ちが、私の感情をそれ以上ないくらいはっきりさせてしまったのだ。

「司君……私、ずっと司君のことが好きだった。ううん、好きだったけど、好きだって分かってなかった。でも、今なら分かる。私、司君のことが好き」

 体が熱い。力が、体の奥底から湧き上がってくるようだった。―――司君のことが好き。司君も、私のことが好き。その事実を認識しただけで、ただの気持ちの持ちようで、ここまで人は変わるのだろうか。

 魔法少女になれる条件は「強く愛されて育つこと」らしいけど、それなら私は条件を満たしていて当然だ。だって、司君と相思相愛だったんだから。愛されることが条件なら、「恋愛」が例外なわけがない。彼に恋して、恋されて、そんな日々を送って来たんだから、私はなるべくして魔法少女になったんだ。

「司君……少しだけ待ってて。今、私が終わらせるから」

 私は抱擁を完全に解いて、立ち上がった。司君の体温が惜しいけど、今はBEMを倒すことが先決だ。今の私なら、それが出来る。その確信があった。

「奈美……でも」

「大丈夫だよ」

 それでも、司君は私を心配するように声を掛けてくる。だから、私は彼を安心させるように、微笑んだ。

「司君がいてくれるんだもん。百人力だよ」

 そして、戦いが行われている方へ向き直って、一歩踏み出す。司君を巻き込まないように……彼を、守るために。

「行くよ……エボリューションフォーム!」

 私は大砲になったステッキを構えて、そう叫んだ。

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