第二章 魔法少女は兄貴同伴で

第13話 ある日の休日 Side:輝美


  ◇



 ……数日後。


「はぁ……」

 日曜日の午前中。私―――津久毛輝美は、自室でゴロゴロしながら溜息を漏らしていた。

「どうしたワン?」

 そんな私の前に、ヌコワンが転がって来る。こいつは私たちの家に度々やって来ては、勝手に居座っていた。家にいる間は家族に見つかる危険もあるからか、浮かんだりせず、床に転がってることが多い。

「私、魔法少女としてやっていけるのかなって……今更だけどさ」

「この前の話かニャン? 確かにボスクラスは強力だけど、君たちなら大丈夫だワン」

「そうは言うけど……私、火力的な面では一切貢献出来てないし」

 丁度いいので、私はヌコワンに愚痴ることにした。……私は魔法少女になっても攻撃手段がない。ステッキは剣の形になるけど、形だけで攻撃力がない。バリアは張れるけど、由美を守りながら敵の元に運ぶか、後衛組の護衛くらいにしか役立てられない。こんな調子では、ボスクラスなんて大物が現れたら、足手纏いになってしまうだろう。

「それに関しては仕方ない面もあるニャン。君の色はブラウン、暗い色の魔法少女だワン。魔法少女の色は特性と関連していて、色が暗いほど防御特化になるのニャン」

「そうなんだ……」

 私の愚痴に、ヌコワンがそう返してきた。魔法少女にしては地味な色だと思ったけど、そういう理由があったらしい。その理屈で行くと、華やかな色合いのみんなは防御力が低いんだろうか?

「それに、タンクだって大事な役割だワン」

「そうは言うけど、この前みたいなこともあるし……」

 何度か戦っているうちに、バリアは二枚までは同時に張れるようになった。けど離れた場所には展開出来ないので、由美を守っている間は、後衛の守りは疎かになってしまう。それではタンクとしての役割も果たせてるとは言い難い。

「輝美ー? いるかい?」

 そんな話をしていると、部屋の扉が開けられた。顔を覗かせたのは、家族の中でも特に顔を合わせる機会が多い男だった。

「兄貴……勝手に入って来ないでよ」

 入ってきたその男は、私の兄である津久毛大輝。六歳上の大学二年生で、常にニコニコしていることと、線の細い体格が特徴的だ。昔から私のことをよく構ってきて、今でもよく勝手に部屋に突撃してくる。……年頃の妹の部屋なんだから、勝手に扉を開けるのはいい加減止めて欲しい。着替えの途中とかだったらどうするのか。

「ごめんごめん。それより、暇なら一緒にモールに行かないかい? 車出すよ?」

「モールか……」

 兄貴が言ってるのは、町で唯一のショッピングモール、イーオスショッピングモールのことだ。休日だから人が多いだろうけど、色んなテナントがあるし、適当にぶらぶらしているだけでも結構楽しい場所だった。家からは遠いのがネックだけど、車を出してくれるのならその心配もないし、休日の過ごし方としては悪くないかもしれない。

「分かった、行く」

「そっか。じゃあ、待ってるよ」

 兄貴が出て行ったので、私はのろのろと起き上がって、支度を始める。

「出掛けるのニャン?」

「うん」

 そんな私に、ヌコワンが尋ねてくる。兄貴がいるときはぬいぐるみの振りをしているので、こいつの正体は今のところ家族にバレてはいない。ご当地魔法少女のことは兄貴も含めて家族全員知ってるけど、まさか喋るぬいぐるみがマスコット役として実在しているとは思ってもないだろう。

「じゃあ、僕もついていくワン」

「は? なんで?」

「今から他の子の家に行くのは面倒ニャン」

 着替えを見繕っていた私に、ヌコワンが面倒なことを言い始めた。……こいつは常に誰かと一緒にいないと死んじゃうのだろうか? 犬か猫かよく分からない存在なのに兎なの? 平日の昼間はBEMが現れない限り姿を見せないのに。

「……まあいっか」

 とはいえ、ここで追い出してプカプカ浮かんでいるところを誰かに見られて騒ぎになってもあれだし、私はこいつを連れていくことにした。ポーチに突っ込んで、ぬいぐるみの振りをさせれば大丈夫だろう。

「ちゃんと大人しくしててよ」

「分かってるワン」

 着替えを済ませた私は、ポーチを肩に掛けると、ポーチの口を開けてヌコワンを突っ込んだ。お陰で中に他の物を入れられないけど、財布とスマホくらいならポケットにも入るから大丈夫だろう。最後に姿見で服装を確認して、私は部屋を出た。

「準備は終わったかい?」

「……うん」

 リビングに行くと、既に支度を済ませた兄貴がソファに座っていた。

「おや、可愛いぬいぐるみだね。連れて行くのかい?」

「いいでしょ、別に」

 ポーチから顔を出しているヌコワンに気づいた兄貴が、微笑ましそうにしながら尋ねてきた。……子供っぽいって思われたかもしれないけど、兄貴は普段から私のことを子ども扱いするから、今更ではある。とはいえ、そう思われるのはあまり気分のいいものじゃなかった。そもそも私の趣味で連れて行くわけじゃないし。

「じゃあ、行こうか」

「……」

 そう言いながらリビングを出る兄貴の後ろを、私は黙ってついて行った。

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