5走目 私のライバル
『本日はヴィンテールレース場にお集まりいただき、誠にありがとうございます。それではレース場内の五つの障害物を紹介しましょう! 一つ目、第一の障害物は高さ十メートルの壁です。この壁を飛び越えることができるかが勝負の鍵になります!! 二つ目はこのコースの真ん中で選手を待ち受ける落とし穴! 一度落ちたら最後、這い上がることはできないでしょう。ただし、ロープで引き上げられるまで待つことはできます。また、レース中には落とし穴から助け出してくれるサポートスタッフもいますので安心してください』
アナウンサーの説明を聞いてると、レースの準備が始まったみたいだよ。中継用の魔動機から音声が流れ始めると、観客席が一気に沸き立って、歓声が響き渡る。私は『ヴィルマ亭』の裏庭でトレーニングしてきた成果を試す日が近づいてるけど、今日はまだ観戦側。ヴィクトリアさんとアウリスさんと一緒に、観戦席でレースを見てるんだ。
「始まったわね」
ヴィクトリアさんの一言に、アウリスさんも静かにうなずいて同意を示してた。レースの始まりは静かで、全員が自分のペースでスタートラインに向かうだけ。でも、そんな中で一人だけ異質な雰囲気を放つ存在がいたよ。
『それでは選手紹介です! 一番、カレン・ミスト。二番、ロウェン・スタリング。三番、エリアス・ブレイヴ。四番、フィリス・カーディア。五番、ヴィオラ・アストラ!』
ヴィオラさんだ! 深い紫色の長い髪が風に揺れて、銀色に近い灰色の瞳が遠くを見てる姿が頭から離れない。選手紹介が続くけど、それ以降の名前が全然耳に入ってこないくらい、彼女に集中しちゃった。そして、スタートの合図の音魔法が会場に響き渡る。
『それでは、位置について……よーいドン!』
その合図と一緒に、選手たちが一斉に走り出した。観客席がどよめいて、私も思わず前のめりになる。ヴィオラさんは後方にいるよ。余裕たっぷりな感じで、急ぐ様子もない。
『先頭はミリエナ・トラヴィス選手だ! 障害物の回避や小回りが得意な彼女だが、今回の障害物はどのように突破するのか見ものです! 二番手はカイラ・オリヴィエ選手! 風魔法を操れる選手で、この大会でも注目の選手の一人となっています! 先頭争いはこの二人のようです!』
二人の距離が、後を追う集団からどんどん離れていく。私は目を凝らして見てたけど、「私もあんな速さで走れたらよかったのに……」って思っちゃった。でも、ふと気づくと、ヴィオラさんの姿が見えないよ。どこに行ったんだろう?
『さあ、先頭集団は第一障害地点へと差し掛かった! 一番に辿り着いたのはミリエナ選手だ! 続いてカイラ選手がそれに続く! おおっと! ミリエナ選手、十メートルの壁に苦戦しているようです! 回避を得意とする彼女、垂直方向への移動手段が乏しいようだ。カイラ選手は風魔法で華麗に浮いていく!! 先頭はカイラ選手に入れ替わった!! 続いて三番手のリサ・ヴァニティア選手が壁を垂直に登り始めたぞ!!! スキル
実況の声に合わせて、会場がさらに熱狂する。先頭がカイラ選手、二番手にリサ選手が入り込んで、先頭だったミリエナ選手はどんどん追い抜かれていく。三番手にはエリナ・クローデル選手が上がってきた。そして、この第一の障害物のおかげか、彼女の実力か……四番手に躍り出たのは、ヴィオラ・アストラ選手だった!
『おおっと! ここで四番手はヴィオラ・アストラ選手だ!!! 彼女のスキル
すごい……! 無重力でも速度が全く落ちてない。それどころか、むしろ加速してる。彼女の長い紫髪がふわりと浮いて、まるで空を泳いでるみたい。私の目はもう彼女から離せなくなっちゃった。
『さあ! 先頭はカイラ選手にかわってリサ選手! そしてエリナ選手も負けじと猛追するぞ!!』
レースはどんどん白熱していく中、私はヴィオラさんの走りに完全に魅了されてた。彼女の走りはまるで流星みたいに軽やかで……それでいて力強くて……そして美しいんだ。まるで空を駆けてるようなその動きに、私は目を奪われたまま、心臓がドキドキしてる。
次の大きな落とし穴で、カイラ選手とヴィオラ選手の一騎打ちに差し掛かった。でも、まだ障害物が三つも残ってるんだから……他の選手が逆転する可能性も……可能性も……いや、ない!!!
『ヴィオラ選手!!! 何と言うことだ!!! 障害物はすべて飛び越え……いや、浮き越えてしまいながらも加速を止めない!!! なんだこの走りは!!!!』
実況の言葉と一緒に、観客席が驚きの声で埋め尽くされた。私も思わず立ち上がっちゃって、「すごい!」って叫びそうになった。ヴィオラさんは落とし穴を軽々と浮き越えて、次の障害――揺れる吊り橋も、風を切るように通過。彼女のスキルが障害物を意味のないものに変えてる。
『三つ目の障害、吊り橋を抜けた! ヴィオラ選手が一気に先頭に躍り出たぞ!! カイラ選手も風魔法で追うが、その差は縮まらない!!』
私は息を呑んで見てた。ヴィオラさんの走りは、他の選手とは次元が違うよ。まるでレース場全体が彼女のために作られたみたいだ。そして、そのまま彼女はゴールラインを駆け抜けた。
『勝利を収めたのはヴィオラ・アストラ選手だ!! このレース、彼女の独壇場だった!!』
観客席が割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。私は呆然と立ち尽くしてた。ヴィクトリアさんが隣で静かに笑って、私に声をかけてきた。
「どう、フィリア? これが貴女のライバルよ」
「ライバル……」
私はその言葉を聞いて、胸が熱くなった。ヴィオラ・アストラ。公爵令嬢で、こんなすごい選手が私のライバルなんだ。私、こんな人と一緒に走れるの? 怖い気持ちもあるけど、それ以上にワクワクが止まらないよ。
アウリスさんが私の肩に手を置いて、穏やかに言った。
「彼女を超えるには、走るだけじゃダメだ。自分の強さを見つけるんだ」
私はうなずいた。ヴィオラさんの走りを見て、私の中に火が付いた感じがする。ヴィクトリアさんの条件をクリアするためにも、私、絶対に負けないよ! 次の公式戦、私もあそこに立つんだ。
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