第3話
数日後__カナダ・ノースウェスト準州
「カナダ…初めて来たな。」
カナダの北側は人口が少ない。これは経度が高いことにより冬は気温がとても低くなるなど、人が住む環境にあまり適していないかららしい。そのおかげか広大な盆地に広がる森と山のコントラストは、自分がどれだけ狭い世界しか見ていなかったのか自覚させられる気がした。秘密情報部(SIS)からの情報によるとジュリー・ブラッドリーはこのノースウェストをさらに北上し、そこでブラッドリー家に協力している研究者たちと合流する予定らしい。どこからそんな情報を入手しているのだろうか。それは僕にもわからなかった。
「あ、いたいた。」
双眼鏡を使って高台から見渡すと、ジュリー・ブラッドリーを見つけることができた。灰色の少し癖のある髪と真っ赤な瞳が印象的な小柄な男。東洋系の顔立ちからして彼がブラッドリー家の養子であるのは明らかだろう。彼は感慨深そうにカナダの景色を堪能している。その姿は少々幼げだ。僕としてはもう白と判断して帰ってもよかったのだが、確たる証拠がないと上は納得してくれないだろう。仕方がないので不本意ではあったのだが、僕は彼に気づかれないように追跡することにした。
「おっとやべやべほっと。」
ジュリーが乗り込んだ車に遠距離から小型発信機を発射し設置する。こういうことをミスらずできる僕はやはり優秀だと思う。特に気づかれもしていないようなので、発信機の電波が伝わるギリギリを攻めながら僕は追跡を続けた。すると、反応はある地点で止まる。どうやらそこが目的地らしい。地図を見ると樹海のほぼ中心あたりまで来ている。歩いていけそうな距離まで近づいたのち、車を停車させその場所に向かった。
「それではよろしくお願いします。」
「承知いたしました。何か異変がありましたら、すぐに撤退を。」
「はい。しかしこちらも何が起こるか未知数ですから、いざという時はご自分の安全を優先してください。」
ジュリーと複数の男性が話をしている。聞き取れたのはこの程度だったが、どうやらジュリーは彼らの前にある洞窟に入るつもりらしい。ほかの男たちは洞窟の外から彼を支援するということだろう。ジュリーは迷彩色のプロテクターの上から何やら大きく重そうな箱を背負い、その両脇には刀のようなものをさしている。まるでこれから洞窟内で戦闘でも行うかのようだ。僕の装備は拳銃が一丁とその弾、そして調達してもらった手りゅう弾が三つ。心もとない気もするが、これ以上は用意できなかったのだ。ジュリーが洞窟内に入っていく。その後男たちは何人かが車に乗り込み、残りは洞窟の入り口の警備に入った。
「仕方ない。行くっきゃないなあ。」
心に不安を抱えつつ。僕は警備する男たちをすり抜け洞窟へと入った。
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