第21話 食用ガエルの棒

 「使徒様、お疲れになられましたか、お顔が苦しそうですね。 さぁ、帰りましょう」


 「神殿に帰ったら、お身体を拭いて差し上げます。 さっぱりとされるのが、良いと思いますわ」


 長と〈アッコ〉は何事もなかったように、俺に話しかけくる。

 一瞬の動きが止まったのは、無かった事になっているんだ、エラーだからな。


 「はぁ、そうするか。 ただ〈多角回廊〉ってなんだ」


 「えっ、そこからですか」


 長が細い目を丸くして驚いているが、てめぇが何も説明しなかったんだろう。


 俺の知識の無さをバカにしているのか、ガイダンスと変わらないぞ、いい加減にしないと暴れてやるよ。

 暴れろよと言われても、暴れないけどな。


 「〈多角回廊〉と言うのは、角にある神殿が、廊下で繋がっているって事です」


 〈アッコ〉は俺の巫女だからか、ちゃんと説明してくれるな、ただちょっと分かんないな。


 「まあ、そんな感じですが。 正確に言うと、各国の神殿に行き来出来るように、回廊が造られているのです」


 何が正確なんだ、よけいに分からないぞ、長の性格はおかしいんじゃないの。

 もう、構造の説明は諦めよう。


 「何のために、誰が造ったんだ」


 「何を言っているのですか。 隣の国を飲み込むために決まっているでしょう。 人じゃ造れないものですから、神様に決まっています」


 はぁー、異界の住人は戦闘民族なのか、平和に貿易でもするって言う、考えはわかないんだな。

 こんな厄介な事には、巻き込まれてないように、しよっと。


 神殿に帰ると驚いたことに、面積が増えていたんだ、大きくなってやがる。

 さすがは神様としか言いようが無い。


 主神像の前に広場が出来て、後ろには小部屋が二つ出来ている感じだ。


 「おぉ、分岐点まで侵攻出来ましたので、使徒様の級が上がったようです。 素晴らしい」


 長がまた細い目を丸くして驚いているが、今度は称賛しているようなので、許してやるか。

 それしても、級か、俺は何級なんだろう、三級くらいかな、ありがとう。


 「きゃー、素敵です。 小部屋があると全然違います。 使徒様に抱かれる時も、ちゃんとした寝台で出来ますよ。 うふふっ」


 確かに素敵ですね、〈アッコ〉が俺に抱かれる気、マンマンなのが嬉しいぞ。

 マンマンちゃん、あーんだ。あな尊し。


 それにしても、さすがは神様だな、こんなことが可能なんだ。


 でも良く考えたら人智を超えた怖い事だよ、俺は最近になって怖い事が続き過ぎて、参っちゃうよ。

 ちょっと不感症気味になりそうで、それも怖いな。


 〈アッコ〉が小部屋に早速敷物をひいて、俺に目配せをするので、また抱いてしまった。

 二人とも戦闘で興奮していたんだろう、かなり激しいものになったと思う。


 ちっとも不感症にはなってなかったな、〈アッコ〉に香料入りの水で体を拭いてもらい、サッパリと出来た。

 俺と〈アッコ〉のモジャモジャからも、良い香りがしている。


 〈アッコ〉は俺がチビッて濡れたパンツを、渇いた布で、拭いてくれもした。

 じーんときちゃう、俺はもしかしたら、愛されているんじゃないの。



 俺は〈アッコ〉と直ぐ会いに来ると、約束を交わして異界から出た、直ぐと言ったのは嘘じゃないけれど、現実世界には〈さっちん〉がいるからな。

 どうなることやら。



 異界から出たら、まだ〈さっちん〉は洗濯干しをしていた、袖をまくった腕が白くてまぶしい。

 異界で一日近く過ごしていたはずなのに、これはどう言う事だ、元の世界では三十分も経っていないように感じる。


 そうか、きっと神秘術〈時はなし〉が発動したからなんだろうな。

 〈時はなし〉の効果は、異界と現世の時間の流れを、分離してしまうんだ。


 この事は、〈さっちん〉に教えちゃならない、〈アッコ〉との浮気がやり易くなるぞ。


 神秘術だと言われるだけの事はあるな、さすがだよ、良いスキルを手に入れた。


 「おぉ、〈さっちん〉。 まくりあげた腕がとても良いな。 仕事に行ってくるよ」


 「はぁ、〈よっしー〉はバツグンに機嫌が変だね。 行ってらっしゃい」


 〈さっちん〉の変な感想に送られて、俺は研究所へ、ご出勤だ。

 徒歩五分もかからないところが、素晴らしい、今日も頑張って仕事にいそしむか。


 「嫌だ。 やだ。 呪いの箱はいくつあるんだ。 いい加減にしろよ」


 俺は〈渡さん〉がフィードワークでいないため、一人ぼっちなのに、収蔵庫の前で叫んでいる。

 わめかないでは、作業が続けられないんだ。


 気持ちが暗くなるし、単調な作業が続くからだ、嫌になってしまう。

 午後からは、作業効率が落ちたのはしょうがない、サボったとは言って欲しくない。

 例えそれが、真実であってもだ。


 収蔵庫の中で見つけた、呪いの緑の長い棒を、〈さっちん〉のためにパクッておこう。

 かなり良い感じの物干し竿になってくれるだろう。


 説明書きに、三十三匹の食用ガエルを突き刺して、蟲毒を施こどくをほどこしたと書いてあるが、構うものか。


 刺し殺された食用ガエルさん達も、お日様の元にきっと出たいはずだ、棒に虫でも止まれば喜びもいてくるだろう。

 俺のパンツも干してあるから、必ずハエが寄ってくると思う。

 ちょっぴり黄ばんでいるので、ハエなら受け入れてくれるはずだ。

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