第20話 ガイダンス許すまじ

 〈アッコ〉も俺の背中に隠れながら、俺のせいにしやがる。


 持続時間をめられるなんて、俺にはキツイ話だよ、〈敏感さん〉なんだから、しょうがないだろう。


 「張ります。 神秘術〈守りの帳〉。 二回目」


 〈二回目〉って必要なの。


 それでも俺は、錆びた釘を真ん中にプスプスと刺して、呪いの藁人形を全て消すことが出来た。


 棒のあつかいにれたのもあるが、五、六人の戦士が大怪我を負ったので、真剣さが増したのが大きい。

 怪我をする人を現実に見せられて、俺の集中力が研ぎ澄とぎすまされたんだと思う。

 釘は錆びたままだけどな。


 死にたく無いと言う本能が、体全体に発動したんだろう。


 「ふぅー、一時はどうなるかと心配しましたが、さすがは使徒様です。 お見事なご活躍、この〈ワワク〉感服かんぷくつかまりました」


 このじいさん、よく言うよ、もしダメそうだったら、俺を見捨てて逃げるつもりだったに決まっている。

 俺の後ろに隠れていたのが、その証拠だ、人間は言葉より行動で判断するべきだ。


 「使徒様、とても素敵でした。 ますます好きになっちゃいました」


〈アッコ〉は俺に抱きついて、嬉しいことを言ってくる、背中に隠れていたことは不 問だ。

 抱かせてくれる女だから、当然だろう、天然記念物なみに貴重な存在なんだぞ。


 ただ、〈アッコ〉の直ぐ後ろにいる若い戦士が、俺をにらんでいる気がするな。

 大怪我をした戦士の中に、身内がいたんだろう、でも怪我を俺のせいにされてもな、と思う。


 呪いの藁人形が消えた先に見えるのは、大きな二つの穴だ、〈多角回廊〉の構造は女性的なんだな。


 俺はどっちへ進む、とは聞かなった。

 どっちにも行かずに、帰りたかったからだ、もう充分以上だ。

 先に進んだら、どうせ怖いものが、次々と出てくるんだろう。


 「右手の方へ行くと、〈マサア国〉の神殿へ繋がっており、左手は〈モイズ国〉となります。


 「ただ今回の侵攻は、ここまでで御座います。 肩慣かたならしと言ったところでしょうか」


 今度は神への祈りが通じたらしい。


 「それが良いな。 それじゃ帰ろうか」


 「使徒様、その前に分岐点にあるくぼみへ、手をお入れくだされ」


 「えっ、この黒いこけみたいのが、モジャモジャとえている所に。 こんな気持ちが悪い所に手を入れたくないよ」


 「そこは我慢してくだされ。 伝承では、使徒様が使用できる〈時はなし〉と呼ばれる神秘術が隠されているらしいです」


 「えっ、神秘術があるのか」


 「使徒様、神秘術はとても有用です。 ぜひ手に入れるべきでしょう」


 〈アッコ〉がさも当然という感じで、すました顔で言ってくる。

 他人事だと思って、お気楽だよ、俺の黒いモジャモジャを顔に押し付けられて、同じことが果たして言えるのか。


 今度試してみようじゃないか、キャー、イャー、と叫ぶなよ。

 あれ、俺のも気持ちが悪いって事になっちゃうよ、あれれ、おかしい気もする。


 「うぅ、そうかな。 そうだよな。 しょうがないな」


 俺は嫌だったんだ、でも皆が期待を込めて目で俺を責めてくるんだ。

 気が弱い俺は、それに逆らえない、弱虫小虫なんだよ。

 どうせ俺は虫けらさ、モジャモジャがお似合いなんだよ。


 モジャモジャの間に手を差し入れると、ジトッと湿しめっている、それ以上だ、うわぁ、濡れそぼっているぞ。


 「ひゃー、ベチャベチャだ」


 「使徒様、もっと、もっと、奥に入れてください」


 〈アッコ〉がはげましてくれるから、奥へ入れてみよう。


 「あっ、奥に突起とっきがある」


 「ふーん、なんでしょう。 伝承には残されていないですね」


 ちっ、長の伝承も役に立たないな、気持ちが悪いから、早く手を抜きたいよ。


 「使徒様、手が戻ろうとしています。 もっと、もっと、奥へ」


 〈アッコ〉は、こんなに奥が好きなんだな。


 俺は突起をこねくり回してみる、するともっとヌチャヌチャな液が奥からしみ出てくるぞ。


「うわぁ、手が。 手がヌチャヌチャだ」


 「あぁ、それで良いの。 あっ、感じます。う ぅ、もっとこねくれと降りてきました」


 降りてきたのは、こうじゃないよな、巫女だから神様のお告げだよね、〈アッコ〉はまぎらわしいよ。


 俺はヤケクソになって、突起を縦横無尽じゅうおうむじんにこねくり回した、するとヌチャヌチャの後から熱い気が流れてくる、穴が気をやったって感じだ。


 俺は熱い気をもらったのだろう、ピコンと神秘術〈時はなし〉を会得する事が出来た。


 「やったぞー、〈時はなし〉を手に入れたぞ」


 「おぉー、やられましたね」


 「うふふっ、やられましたわ。 使徒様、誠におめでとうございます」


 長と〈アッコ〉は喜んでくれている、戦士も拍手をしているぞ、頑張ったかいがあったと言うものだ。


 早速、神秘術〈時はなし〉を使ってみるか。


 おっ、長と〈アッコ〉の動きが止まったぞ、俺以外の時間が停止したんだな。


 「エラー、エラー、です。 〈時はなし〉はパッシブスキルであるため、すでに発動しています。 任意に発動することは可能ではありません。 エラー、エラー、です」


 きぃー、機械の平坦へいたんな声で、無機質にエラーを連発しやがる、死ぬほど腹立つな。

 なんの遠慮もなく、なんの躊躇ちゅうちょもなく、俺を知識の無さをあざ笑っている声だ。


 このガイダンス許すまじ、天誅てんちゅうくわえるべし。


 どうやって。

 どうも出来ないぞ。

 この声はなんだ。

 神様なの。

 違うよな。


 くっそー、相手が分からないと、泣き寝入りじゃんか。

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